第13話 セベクとサタナキア

 セベクは単身、バシュラール魔王国へ向かう。ロックと言う小僧がどんなものか見定めて、クズならその場で殺してやろうと考えている。

 魔王四天王も殺されてしまうような者なら怒ることはないだろう。アンネリースはロックが殺されれば目を覚ますだろう。もしかすると感謝してくれるかもしれない。

 そうなれば、彼女と親しく会話することもできるだろう。そうなれば我が妻になる日も近いに違いない。

 セベクは根拠のない妄想を膨らませていく。セベクは高速で飛んで向かったので妄想しているうちにバシュラール魔王国に到着する。

 王宮に入ると魔王ロックに接見する者の列ができている。セベクはホブゴブリンの兵に列に並ばされる。

 「私はヴァルハラ王国の神だぞ。すぐにロックに合わせろ。」「みんなそう言うんです。いいから、並んで順番を待ってください。」

ホブゴブリンはセベクの言うことを無視して答える。

 待つこと半日、やっとセベクの順番になる。セベクが部屋に入ると四天王が嫌そうな顔をする。リースに至ってはロックの背中にしがみつき顔を隠す。

 「リース、どうしたの。」「いやな奴が来たのじゃ。気持ち悪い。」

 「そうか変態だな。」

ロックはセベクのことを変態だと間違った認識を持つ。セベクが言う。

 「魔王ロック、お初にお目にかかります。ヴァルハラ王国の神セベク・アーブラハム・デ・ストラウトです。」「魔王ロックです。」

わあーこの人、自分のこと神様だと思っているよ。頭いっちゃっているよー、ロックの第一印象はかわいそうなひとである。

 セベクはロックを見て品定めをする。魔力はアンネリースに匹敵すると感じる。しかし、アンネリースの真骨頂は華麗な剣技にある。この男にその技が使えるとは思えない。

 そして、何より魔王になって日が浅い、魔力もまともに使えないだろう。これなら勝てると判断する。

 「魔王ロック、悪いことは言わない。その椅子を我に引き渡せ。」「何を言っているのです。怒りますよ。」

 「ただの担ぎ上げられただけの魔王が吠えるな。」「もう帰ってくれませんか。話すことはありません。」

 「後悔させてやる。」

セベクは魔弾を作り出し、ロックに撃ち出す。ロックは手で払いのける。セベクは冷や汗が流れる。魔弾を手で払いのけただと信じられん。そうだ四天王が守ったに違いない。

 セベクは都合の良い解釈をするとロックに言う。

 「四天王に守られるとは情けない奴め。我と1対1の勝負だ。」「いい加減、帰ってくれ。」

ロックはムカついて立ち上がり大声で言う。その時、部屋に男が入って来る。

 「わははー、戦いの匂いがするぞ。俺も混ぜろ。」

セベクは男を見ると青くなる。ロックは男からあふれ出す魔力の気配に冷や汗が流れる。ロックは男がとてつもなく強いと感じる。セベクがこっそり逃げようとするが男は見逃さない。

 「セベクじゃないか。喧嘩をするんじゃないのか。」「サタナキア、我は知らんぞ。帰らせてくれ。」

 「そう言うな。せっかくあったんだから戦おうではないか。」「私は神だ。戦いは好まん。」

 「魔族のくせにまだ神様ごっこしているのか。」「私は神として国を治めているのだ。」

 「で、魔王ロックは坊やか。」「魔王ロックです。」

 「俺はサタナキア魔王国のサタナキア・アンドラスだ。新しい魔王がどの位強いか知りたくて戦いに来た。」「え・・・戦うの。」

ロックはこんな奴と戦ったら確実に死ぬと考える。四天王の方に目をやるとフールとグラムが必死にサインを出している。どうやら絶対戦ってはだめらしい。

 「どうだ、やろうぜ。」「僕はお友達になりたいです。」

 「何、友達か、なってくれるのか。」「はい、なりたいです。」

 「そーかー、友達かー、うれしいぞ。」「僕もうれしいです。」

 「友達とは戦えないな。セベク、戦おうぜ。」

セベクは隙をついて逃げ出していた。逃げ帰りながら「あんな、戦闘バカと付き合えるか」と悪態をつく。

 ロックはサタナキアの初めての友達になる。サタナキアは圧倒的な力のため恐れられて友人が1人もいなかったのだ。

 バシュラール魔王国とサタナキア魔王国は友好国になる。このことは他の魔王たちにとって重要な意味を持っていた。圧倒的な力を誇るサタナキア魔王国の友好国になることは国力を数倍引き上げたことに等しいのだ。

 セベクはヴァルハラ王国に戻ると勇者の訓練に顔を出すようになる。彼はバシュラール魔王国に何か仕掛けられないか考える。サタナキアにかかされた恥をバシュラール魔王国のせいにしていた。

 サタナキアは数日、バシュラール魔王国に滞在する。サタナキアからあふれ出る魔力の気配に四天王も兵たちも緊張を強いられる。当のサタナキアはロックのことを気に入り楽しい時間を過ごす。

 サタナキアはバシュラール魔王国の食事も気に入る。チーズインハンバーグをほめちぎり、中西が手に入るスパイスで作りだしたカレーには驚きを隠さなかった。

 リースはちゃっかり中西にレシピを教えてもらい、コシニアにあるレストラン「リースの食卓」に手紙を送る。そして「リースの食卓」はカレーによって、コシニアで不動の地位を築く。

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