第26話 アリソンの結婚

 ニコル元王の処刑が始まる。ニコルがホブゴブリンによって地下牢から引き出される。王城前の広場に処刑場が設置されている。広場には見物人が集まっている。ニコルは叫ぶ。

 「どうして、わしが縛る首になるんじゃ。何をしたというのだ。」

見物人から罵声が飛ぶ。

 「恥知らずが死んでしまえー」「王族は敵だー」「殺せー」

 「わしが悪かった。ロックのことを許そう。」

ロックがニコルに近づいて言う。

 「今更遅いですよ。死ぬときぐらい潔くしてください。」「ロック~、死刑は嫌だ。」

ニコルは涙と鼻水を流して懇願する。ロックはホブゴブリンに合図する。ニコルは台の上に立たされ、首に荒縄をかけられる。

 ロックが右手を上げる。見物人が歓声を上げる。

 「勇者様、やってしまえー」「死ね、死ね、死ね、死ね・・・」

ロックが右手を下げるとニコルの足元の台を外され、ニコルの体が落ち、荒縄が首を絞める。見物人かろどよめきが起き、歓喜の声が上がる。

 「ニコルが死んだぞー」「圧政の終わりだー」

ニコルの死体はつるされたまま半日さらされる。ロックがフールに言う。

 「これ、僕が合図をしなければならないの。」「これは、勇者が悪い王族を排除して民衆を圧政から解放する儀式なのです。」

 「僕は夢に見そうだよ。」「慣れてください。これから国を束ねることになるのですよ。」

フールはロックに言い聞かせる。この日の王族の処罰は終わっていなかった。夕方になると、アリソンが地下牢からホブゴブリンに引き出される。

 「どこに連れて行くつもり。」

ホブゴブリンは無言のまま連れて行く。アリソンが連れられて行ったのは自分の部屋だったところだ。部屋にはウエディングドレスが用意され。侍女たちが控えていた。

 アリソンが部屋に入ると体をきれいに拭かれ侍女たちがウエディングドレスを着せていく。アリソンは侍女に聞く。

 「このドレスはどうしたの?」「答えることはできません。せめてきれいに着飾って差し上げます。」

 「ロックね。あいつが私をもてあそぼうとしているのね。」「・・・・・」

 「何か、答えてよ。あいつなんか嫌なんだから。」「・・・・・」

侍女たちがアリソンにウエディングドレスを着せ終わるとホブゴブリンたちは食堂に連れて行く。食堂の大きなテーブルには豪華な食事が並べられている。

 席には四天王やディートハルトたちが座っている。アリソンはディートハルトを見つけて言う。

 「ディートハルト様、助けてください。このままではロックに凌辱されてしまいます。」

ディートハルトは顔をそむける。

 「何で、何でなの。」「地獄に落ちればいいんだ。」

中西がアリソンを憎しみに満ちた目で見ながら言う。

 「何なの。あんた、無礼でしょ。」

そこにロックとリースが入って来る。席に着いていた一同が会釈をする。ロックはリースのために席を引き、リースが座るとリースの隣に座る。

 ロックじゃない。何が起きるの。私はどうなるの。なぜみんな黙っているの。アリソンは恐怖で震えてくる。それでも涙はこらえている。

 するとオグルが入って来る。オグルは白のタキシードを着ている。アリソンは理解する。私はオグルに与えられるのだ。

 「いやー、いやー、助けてー、お願い助けてーーー」

アリソンの叫び声はみんなの拍手でかき消される。ロックがオーガに言う。

 「オーガ、おめでとう。」「ありがとう、みんな。こんなにきれいな女、俺様うれしい。」

オーガはアリソンの所まで行くとアリソンをお姫様抱っこする。アリソンが手足をばたつかせるがびくともしない。アリソンは泣き叫ぶ。オーガが言う。

 「俺様、我慢できない。すぐに抱きたい。」

オーガはそのまま部屋を出ていく。アリソンの泣き叫ぶ声が響いていた。ヨーゼフがため息をついて言う。

 「アリソン、壊れてしまうな。」「何を悠長なことを言っている。」

ディートハルトがこぶしを振るわせてヨーゼフを睨みつける。フールがディートハルトをたしなめる。

 「ディートハルトさん我々は仲間なんですよ。敵の娘に同情してはいけませんよ。」「私は人間なんです。泣き叫ぶ声を聞いたら平静ではいられないのです。」

 「そうですね、私も人間のことを学ばなくてはなりません。ディートハルトさんにはこのまま正義心を持って意見を聞かせてください。」

 「ならば言います。娘たちの処分はひどすぎます。今からでも撤回してください。」

ロックが言う。

 「アリソンをオーガの嫁にしたのは僕だ。セリアの処罰に関しても認めている。撤回はしないよ。」「ロック!」

 「僕を恨んでくれても構わない。それでもこれからも協力してくれ。頼む。」「恨みはしない。ただ納得できないんだ。」

ディルクが言う。

 「私も人間ですが娘たちの処罰は当然だと思っています。民衆はそれだけ王族を恨んでいるんです。できれば覚えておいてください。」「私の思慮が足りなかったようだ。」

ディートハルトはほこを収める。こうして、王族の処罰の1日目は終わる。


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