第6話 勇者の帰還
ロックが目を覚ますと目の前にアンネリースの寝顔がある。とてもいい香りがする。かわいい吐息に形の整った艶のある薄桜色の唇が見える。
昨日はこの唇とキスをしたんだ。思い出しただけで感激した気持ちがあふれてくる。この素敵な子が僕の嫁なんだ。うれしい、うれしすぎる。思わず笑みがあふれてくる。
アンネリースが目を開けて言う。
「お前様、朝から笑顔で何かいいことがあったのか。」」「うん、アンネリースが僕の嫁だからうれしいんだ。」「そうか、我もうれしいぞ。」
アンネリースが目をつむる。ロックは優しく唇を重ねる。2人が部屋を出るとヨーゼフに出会う。
「ロック、昨晩は静かだったな。ちゃんとやったのか。」「はい、添い寝をしました。」
「お、おう。よくやった。」「僕、今、幸せの絶頂にいる気がします。」
「リース、それでいいのか。」「ロックが喜んでいるので、私もうれしいです。」
「そうならいいんだが。」
ヨーゼフは、異世界人と魔族は感覚が違うなあと考える。
3人揃って食堂に行くとディートハルトとアデリナ、ティアナがすでに来ている。
「みんなおはよう。」「おはようございます。」
ディートハルトは今日もさわやかな好青年である。アデリナとティアナは昨日のことがあったためか、ジトっとロックを見る。
「君たちが考えているようなことはしていないよ。」「へ~、リース、美人なのに何もなかったの。」
ロックは冷や汗をかきだす。
「ロック、怪しいわよ。正直に言いなさい。」「嘘をつきました。添い寝をしてしまいました。」
「えっ、添い寝。」「はい、添い寝です。」
アデリナとティアナはギギギと首を動かしてアンネリースを見る。
「はい、添い寝をしました。」
アンネリースはにこやかに答える。アデリナが爆発してロックに言う。
「あんたバカじゃないの。こんな美人と寝て何もないなんてバカじゃないの。」「アデリナ、人それぞれだから、抑えて。」「はい、ディートハルト様。」
ディートハルトのフォローにアデリナが尻尾を振るかのように従う。ティアナは少しホッとする。ヨーゼフとアデリナの中で勇者ロックは、女性に対してチキンボーイの称号がつく。
勇者パーティーは、村長に朝食をごちそうになると村人の見送る中、村を出発する。彼らは2週間かけて王都に戻る。王都ではすでに勇者パーティーの帰還が知れ渡っておりお祭り騒ぎになっている。
勇者ロックは万人に人気があるが、ディートハルトのさわやかスマイルは、女性の心を掴んでいた。そして、癒し系の美女で胸が大きめのティアナは、若い男性の心を掴んでいる。
しかし、そこにロックと手をつないで歩くアンネリースが注目される。
「すごい美女がいるけど誰だ。」「勇者様と手をつないでいるぞ。」「勇者様の彼女か。」
人々は彼女のことを知りたがるが、「勇者が助けた女性で今は勇者と恋仲だ」と言う憶測が走り回っていた。
バシュラール王国のニコル王は今日は最良の日だと思っていた。勇者が魔王を倒したのだ。できれば魔王を捕えて欲しかったがそれは高望みだとわかっている。
ニコル王は、妻のゾフィー、長女のアリソン、次女のセリアと共に城の中庭で勇者パーティーの到着を待つ。特にアリソンとセリアはディートハルトに会えることを楽しみにしている。
ロックたちは城の門にたどり着く。そこで門兵がロックに質問する。
「勇者様と手をつないでいるのは誰ですか。」「僕の妻です。」
「妻?」「妻ならいいか。」「失礼しました。お通りください。」
ロックたちは門を通る。アンネリースが言う。
「皆、我のことが気になるようじゃのう。」「リース、絶対にボロを出したらだめだからね。」
アデリナがアンネリースに念を押す。アンネリースは自信満々に言う。
「我を信頼するが良い。」「それが一番怖いのよ。」
ロックたちは城の通路を歩いて行く。配置された騎士たちはロックたちが通ると剣を鞘ごと床に打ちつける「カン」と音が響く。「カン」という音は、だんだん中庭に近づいて来る。
ニコル王は満面の笑みを浮かべる。ロックたちが中庭に入ると整列した騎士たちが剣を捧げる。ロックたちは真直ぐ王の前に進み出る。
アリソンとセリアはディートハルトを見ると頬を赤くする。そして、ゾフィーはアンネリースを見つけると青くなる。ニコル王は、アンネリースを見つけると満面の笑みが緩み鼻の下を伸ばすが、だんだん怒りの表情に変わる。
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