第2話 魔王アンネリースとの出会い

 ロックが魔王の部屋に入ると部屋中に美しい花が飾られている。そして、中央に一段と可憐な花が咲いている。いや、赤髪に強い意志を感じさせる整った顔立ちの美しい女性が座っている。

 彼女に比べれば飾られている花はただの花に変り果てる。ロックは一目で心を撃ち抜かれる。一生彼女を見ていたい気分だ。

 「お前が勇者か。よくここまでたどり着いた。誉めてやろう。」

彼女の声はトーンを抑えているが妖艶で耳に心地よい。ロックは答える。

 「僕は蜂須賀六郎はちすかろくろう、ロックと呼ばれている。勇者だが君と戦いたくない。」

 「我はアンネリース・アレクサンダー・フォン・ヴァルタースハウゼン。戦いたくないとは、何をしに来た。」「惚れてしまったのです。」

 「我に色仕掛けとは・・・」「違う。本当に惚れたんだ。」

 「嘘はもうよい。いくぞ。」「待ってくれ。」

アンネリースがすらっとした右腕を上げると空中に7本の剣が現れる。右腕を振りおろすと7本の剣がロックに向かって飛んでいく。彼は、部屋の中を走り回り、剣で向かってきた7本の剣を打ち落とす。

 「どうだ、戦う気になったか。」「アンネリース、好きだ。一緒に生きてくれ。」

 「まだ、寝ぼけているようじゃのう。目を覚まさせてやろう。」「僕は戦わないぞ。」

アンネリースが再び右手を上げると空中に14本の剣が現れる。右腕を振りおろすと14本の剣がロックに向かって飛んでくる。彼は、さすがに14本の剣を受け止めることはできない。

 走りながら11本の剣を打ち落し残り3本はぎりぎりでかわす。アンネリースは、つまらなそうにロックを見ている。

 「いい加減、我と戦え。」「嫌だ、僕は君とイチャイチャしながら暮らすんだ。」

 「我とイチャイチャしながら暮らしてどうなる。」「俺と君は幸せになるんだ。」

 「我は退屈な日々を暮らしておる。その暮らしに終止符を打てるのだな。」「必ず幸せにするよ。」

 「ならば覚悟を見せてみよ。」「どうするのだ。」

 「我と戦って口説き落として見せよ。」「だから、どうして戦うんだ。」「魔王と勇者は戦うものと決まっているのだろ。」

アンネリースは玉座に座ったまま両手を広げる。彼女の上に数えきれない数の剣が現れる。ロックはその剣を見て、さばききれないと覚悟する。数えきれない剣が彼に殺到する。

 ロックはかわしながら剣を打ち落とすが対応しきれない。彼は急所を外してわざと剣を体に受ける。両足に3本、右腕に1本、左腕に2本、剣が突き刺さる。

 しかし、太い血管は避けているため、出血はひどくない。

 「お前、ここまで来ても我に剣を向けぬか。」「惚れた女に向ける剣は持っていませんよ。」

 「このままいくと死ぬことになるぞ。」「どうしても戦うことはできないよ。」

 「お前に我を口説き落とすことは無理なようだ。次で終わりにしよう。」「アンネリース、愛しているよ。」

アンネリースは両手を広げる。アンネリースとロックの頭上には無数の剣が現れる。ロックは死を覚悟する。無数の剣が彼に襲い掛かる。彼は最後まであきらめない。

 ロックがあがく姿を見て、アンネリースはこの男はなぜ諦めない。自分はとっくに諦めて退屈な日々に甘んじているのに・・・

 この男は自分を泥沼から助け上げてくれるのではなかろうか。だが、ロックは数十本の剣を体に受ける。彼の命の灯が消えようとしている。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る