勇者失格宣告~魔王と静かに暮らしたい
ぽとりひょん
第1章 バシュラール王国
第1話 魔王への扉
魔王四天王最後の1人、風神フールに勇者ロックが立ち向かう。
フールは巨大なバッタの様な姿をしている。大きくて長い後ろ脚に蹴られれば体はばらばらに砕けるだろう。
ロックは後ろからの攻撃を諦め、加速して壁を駆けあがり、フールの上に舞い上がると上段から稲妻をまとった剣を振り下ろす。ロックの渾身の一撃は、フールが羽根をばたつかせてはじかれる。
彼は動きを止めない。着地すると走って加速して、フールの正面から突っ込む。フールの牙にぶつかる寸前、仰向けに倒れてフールの下を滑って行く。
突き上げた剣は稲妻をまといながらフールを2つに切り裂く。胸から腹を切り裂かれて、フールは砂が崩れるように形を保てなくなり姿を消す。
ロックはフールとの死闘の結果、何とか命を取り留めたがもう立つ力はない。四天王と戦ってきた剣と防具は傷だらけである。
「ロック、勝ったのね。」
ヒーラーのティアナ・ド・リンデマンが涙を流しながら抱き着いてくる。豊満な胸がロックの腕に当たり、彼は赤くなる。
「ティアナ苦しいよ。」「ごめん。うれしくって。今、ヒールするわね。」
ロックは体中が温かい感じに包まれ痛みが消えていく。今、勇者ロックに付き添っているのはヒーラーのティアナだけである。
彼らは他に剣士のディートハルト・バルテル、戦士のヨーゼフ・バルト、魔法使いのアデリナ・アルペンハイムがいた。
しかし、魔王四天王との戦いの中で彼らは脱落を余儀なくされた。幸いなのは誰も死んでいないことだった。
後は、目の前の扉の向こうにいる魔王を倒すだけだ。ヒールが終わったのかティアナが離れる。
「ありがとう。もう一回戦えるよ。」
ロックはティアナに礼を言う。
「ごめんなさい。私はここまでだわ。魔力切れなの。」
彼女は言いながら座り込む。ロックはこれまでの仲間たちとの一緒に旅をして戦ったことを思い出しながら言う。
「魔王は俺が命に代えても倒すよ。」「ロック、必ず生きて戻ってきて。そうしたら私と一緒に暮らしてください。」
ティアナの言葉に彼はこれは完全に死亡フラグだと思う。しかし、ティアナは美人で少し胸が大きいお姉さんだ。これまでもてたことのない彼に訪れたチャンスである。
「魔王を倒したら、ティアナのこと考えるよ。」「うれしいわ。待っています。」
ロックは魔王を倒さなくてもいいから、このまま引き返してティアナと暮らしたいと思う。彼の両肩に仲間との友情とニコル王の期待が重くのしかかる。
この重荷を捨ててティアナと逃げたいが行く当てもない。勇者として召喚されてから、ずっと魔王討伐のために訓練して戦ってきたのだ。この異世界での人間関係はたかが知れている。
彼は雑念を振り払って扉へ向かう。扉は大きく立派な造りで精密な彫刻がされているがそれは不気味で地獄の門を思わせるものである。
ロックは勇気を振る絞って扉を両手で押す。しかし、扉はびくともしない。彼はもう一度力を入れて押す。開く気配もない。扉を調べるが魔法をかけられているようにはみえない。
彼は座り込んで考え込む。すると扉の向こうから声がする。
「お前は引いて開けようとは思わんのか。」「どうも。」
ロックは立ち上がり、扉を引くと軽々と開く。彼は恥ずかしそうに座り込んでいるティアナの方を見る。彼女はドンマイと親指を立てる。ロックも親指を立ててから、魔王の根城に入って行く。
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