第2話

 小島は武蔵野のマンションの屋上に立っていた。自宅の屋上である。二〇階建てのマンションからはゴーストタウンと化した東京が見える。

 どうしようもないほど誰もいなかった。

 これから死のうというのに小島は不思議とカナという恋人のことを思い出していた。もう五年も前に別れた女だ。別段美人でもなく、これといって取り上げるようなこともない女だったがふとしたことで恋人になり、少しの間交際した。

 特に思い出す心当たりもなかった。しかしよく思い出せば、あの五年前が一番幸せだったのかもしれない。大学の単位に憂い、将来の進路を語り、ゼミの教授の文句を垂れていた日々・・・

 しかし、もうないのだ。

 何よりも人間と会っていたことだけでもきっと幸せだったのだろう。もう叶うことのない幸せだが。田舎に残してきた両親は無事だろうか。死んでしまっていないだろうか。

「その時」が近づくにつれ次々に思い出された。


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