第28話


 さて、ここでクイズだ。目の前には笑顔を浮かべているヤンデレ幼馴染。極限まで目を細めているが、その瞳は決して笑っていない。しかも大きなカバンと包丁という最強装備をしている。この後、どうなるか?

 前世で散々ギャルゲーを遊んだ私にはわかる。ここで間違った選択肢を選んでしまうとバッドエンド直行だ。きっと臓物を引きずり出されてカバンに押し込まれて、じっくりことこと料理されてしまうのだろう。

 助けを求めようと周りを見渡したら、カンナさんや自警団のみんなは忽然と消えていた。くそっ!普段偉そうにしてるくせに、ヤンデレに対してはクソ雑魚ナメクジなんだからっ!ほんと使えない!

 こうなったら決して、前世のお兄さんみたいなクソボケにはならないよう、慎重な立ち回りを心がけねば。意を決して私は過去に見てきたスパダリを想像しながら自信満々に言葉を発した。


「あっ……あ!あ!え、あ!う、っすー……!す、すすすスズっ!ど、どどどうしたのっ!?きき今日もか、かかわいいねっ!へ、へへへへへへっ!」

『マスター……腰が引けてる。しかもどもりすぎだしビビりすぎ。過去一情けなくてダサいよお……』

「え!?かっ!?か、かわいいだなんて……っ!も、もう!スルメちゃんったら!」

『は?こいつマジ?チョロすぎだろ』


 よし!このまま一気に攻めれば行けるぞ!

 オーバーヒートしている頭をフル回転させて歯の浮くようなセリフをひねり出す。


「勝手に飛び出してごめんねスズ!どうか許して!愛してる!誰よりもスズを愛してるから!私がこうして楽しく生きてられるのはスズがいるおかげ!スズみたいな優しくて素敵な幼馴染、いやお嫁さんがいるからこの世界に鮮やかな色がついてるんだ!ほんとだよ!?なんならホムラとカンナさんの魂を賭けてもいいよ!」

『愛する相棒の魂を勝手にベットしないでッ!?』

「へぇ……他の女の魂を賭けるんだ?」

「ご、ごごごごごごめん!い、い、いらないよね!?だってゴミだもんね!?あ、あ、あ!じじじじゃあ!私の全生命を賭ける!オールライフ!私の人生!っていうか魂!?ど、ど、どっどうかなぁ!?」

「……スルメちゃんの人生を、ぜーんぶ私にくれるの?」

「もももも、も、もももちろん!だって端からスズと添い遂げるつもりだもん!この世界の誰よりも愛してる!大好き!現世でも来世でもそのまた来世でもスズを愛し続ける!だから殺さないでっ!」

「……ふひっ。もぉ~、スルメちゃんったら~!いいよ、許してあげる!うふふふふふふ……」

「わ、わぁい!スズ大好き愛してる!ちゅっちゅっ!」

『どうしてだろう。本当はゴミ扱いされたことを怒るべきなんだろうけど、哀れなマスターを見てるとどうでもよくなってしまうよ』


 へっ!どうだ!これぞまさしく理想のスーパーダーリン!嫁を上手に宥める天性の女たらしさ!さっきまで殺意の波動にのまれていたスズも、今や少女漫画に登場する乙女のように頬を赤らめている。

 地面に頭を擦りつけて土下座した甲斐があった。その代償として何かを失った気がするけど……。ぶり返されたら困るので、スズの靴に何度もキスをする。


「ごめんね。私を捨ててヤクジュちゃんのところに行ったのかと心配になっちゃって……」

「え……?どうしてヤクジュが出てくるの?」

「あー。ふふふ、なんでもないよ。スルメちゃん大好き」

「えへへ……わたしもー」


 うーん、なんか煙に巻かれた気がするけど、優しくて可愛いスズに戻ったから結果オーライ!

 とりあえず、お互いに落ち着いたので、公園のベンチに座って先ほどまでに起こったことを話す。目の前で起きた爆発事件、チョ・ドングとの戦い。色々な出来事を話して、私はある結論を打ち明けた。


「あのね、スズ。今回の一連のコンカフェ襲撃の黒幕は……ズイさんだと思うの」

「え!?どうして、いきなり?なにか根拠とか……」

「爆発現場の近くでズイさんを見たの。それに変なカレーメニューとマケーチン粒子。そんな怪しいものを買いに来る強面オジサン。絶対に何かを隠しているよ」

「たしかに……ズイさんは苦労人で色んなことをして傾奇町を駆け回っているみたいだけど、でも根は真面目で優しい恋に生きる乙女なんだよ?そんな凶悪な犯罪者じゃないと思う」

「あれ?スズ、なんかズイさんと仲良しになったの?」

「うん。まぁ、その、お互いに恋愛を頑張ろうって意気投合しちゃって……」


 そう言ってはにかむスズは可愛くて素敵だなって思った。良かった……寝取られってやつじゃないんだね?信じていいよね、スズ?

 そんなことを考えていたら、スズがポケットからいくつかカードを取り出した。


「ほら、見てよスルメちゃん。これズイさんがくれたの。きっとデッキに合うはずって」

『んな!?ま、ま、ま、マスター!?これって……!』

「そんな……まさか……闇のカード!?」


 それはスズが愛用している【LNG(リーフ・ネイチャー・ガールズ)】テーマのカードだった。しかしながら、膨大な闇のエネルギーを纏っている。

 やはり、ズイさんは何かを隠していた!スズを傷つけないよう優しく言葉をかける。


「ね、ねぇスズ?そのカード、ちょーっと危ないから、私が一瞬借りてもいいかな?」

「……どうして?このカードのおかげで私は勇気を出せたし、スルメちゃんから永遠の愛の言質をとれたんだよ?いくら愛するお嫁さんのお願いとはいえ、渡したくはないかな」

「あー、いや、でもね。マケーチン粒子っていう悪いエネルギーを持ってるからさ。私が吸い取って無力化しないといけなくて……ね?それにスパダリな私がスズをお嫁さんにする立場だし……」

「そんな危ないもの、仮に存在したとしてもスルメちゃんが集めるなんてダメだよ。どうしてそんなことをするの?私と楽しく過ごせればいいじゃん。危険だよ」

「それは……」


 たしかに、私が闇のカードの力を集める必要なんてないかもしれない。

 スズと楽しく日常生活を送るならば、そんな厄ネタからは遠ざかるべきだろう。

 でも、大好きなエースアタッカーと約束したんだ。必ず世界に散ってしまったエネルギーを取り戻すって。それに、すごい充実した気持ちなんだ。

 この世界に生まれ落ちてからは、どうすればいいのかわからなくてもがき苦しんでいた。そんな私が、スズだけじゃなくてショウタやインリン、そして沢山のカードたちと出会えて、変わることができた。しかも今は明確な目標があるんだ。闇のカードのエネルギーを吸収し集めるっていう。

 もしかしたら気のせいかもしれないけど、このイカれた世界での私の使命がわかった気がしたんだ。


「あのね、スズ。私ずっと悩んでたんだ。この世界で何を成し遂げればいいのか。それでね、ようやく見つけたんだ。達成すべき目標を」

「……それが闇のカードを集めることなの?」

「うん。そして私はこのイカれた世界をぶっ壊すんだ。あらゆる分野でカードゲームを強制してくるくせに、自由にデッキも選べない息が詰まりそうなこの世界を」

「…………ふふ。なんだか、ゲームに出てくる魔王みたいだね」

「そうかな?……えへへ、そうかも?」

『横からごめんだけど、魔王ってなに!?世界を壊す!?そんなの全然、正義の味方じゃないよっ!目を覚ましてマスター!穢れに満ちたグロカードとゴミカスクソ虫のせいで頭おかしくなってるよ!』

「良い雰囲気だったのに邪魔すんな!黙ってろアホ!」

『いだぁっ!?いきなりグーで殴らないでよっ!マスターのバカっ!』


 魔王。なかなかカッコいいじゃないか。ダークヒーローっぽくて。

 ポカポカと背中を叩いてくるホムラを無視して、ちょっぴりジーンときてしまう。

 ふと、気が付いたらスズの周りに陰気なオーラが漂っている。……ホワイ?


「それで?姉崎が勇者なんだね?だってそれっぽいテーマのデッキを使ってるもんね?」

「……はい?」

「そして幼気な魔王様はギンギンの勇者の聖剣にわからされて堕ちるんだね!?それがスルメちゃんの本当の願いなんだ!?私との愛は所詮ヘテロ堕ちするカタルシスを得るための前座で前菜でおまけなんだ!?」

「いや、違いますけど?」

「とぼけないでっ!今のスルメちゃんは理性でそう語っていても本能、いや!魂がメスになろうとしてる!そんな寝取られ物語……世界が許しても私は許さない!」

「誰もそんな話してないんですけどぉ!?」


 どうしてさっきまで和気藹々とした雰囲気だったのに、またヤンデレオーラ全開になっちゃったの!?

 バトルユニットを展開すると、スズはカードバトルを強制的に開始させた。くそっ!流石は霊泉カンパニーの将来を担う御令嬢!まさか天下のGESOカンパニーが作った最先端機器を自由自在に操るなんて!


「カードバトル開始!さぁ、スルメちゃん!私だけのお姫様に戻ろう!魔王ごっこはおしまいなんだからっ!」


 刹那、黒薔薇の茨でできた城が現れ、私たちは幽閉されてしまった。闇のエネルギーのせいか、単なるARビジョンではなくすべてが実体化しているようだ。ゴ―ン、ゴ―ンと黄金の鐘声が生贄を嘲笑う。ライスシャワーが降り注ぐ中、血のように赤い薔薇で彩られたブーケが頭に刺さった。

 次に人生の墓場に送られるのは、私らしい。


「365本の黒薔薇でできた不夜城へようこそ!花言葉は永遠の愛!溺れるほどの情欲でスルメちゃんを満たし、愛の鎖で縛ってあげる!勝手なことばっかりしちゃう悪い手足は、ぜーんぶ切り落として霊泉家の家宝にするからねっ!日本刀みたいにお家に飾ってやるんだから!」

『ついに悪魔が本性をあらわしたか……』

「たいへん!闇のカードにスズが操られてるッ!なんとかして救わなきゃッ!」

『マスター。邪悪な本性が表に出ただけで、あれは素だよ。カードのせいなんかじゃない』

「そんなことないっ!本当のスズは大和撫子で優しくて愛らしいお嫁さんなんだっ!」

『目ぇ腐ってんのか?』

「さぁ!ナメクジも嫉妬するくらい濃密に絡み合って蕩けるような交尾をしよッ!私の先行!【LNGミント・ソルジャー】を召喚するとともに、1000ポイントのELを支払って追加で二体の【LNGミント・ソルジャー】をデッキから特別召喚するね!」

「うぐぐぐ……先行をとられたしアタッカーも展開されてしまった……」

「あとは二枚のカードを伏せてターンエンド!さぁ、スルメちゃんのターンだよ!」


 なんとかスズを正気に戻さないと!

 私は山札からカードをドローしたが、やりたかったコンボのパーツはそろわなかった。


「仕方ない!私は手札から【JKガールズ・深緑のリリカ】を召喚!そして武装カード【ガールズ・ファイトミラー】を装着する!」

『深緑のリリカ、馳せ参じました。今度こそはマスターのために戦わせて』

「私とスルメちゃんの純愛ラブストーリーを邪魔するなクソメスがぁああッ!」

『……は?え?ま、マスター?これはいったいどういう……』

「さぁ、新たな僕ことリリカよ。我が肉盾となるんだ。いや、ほんとマジでお願いします」

『ね、ねぇ……ホムラちゃん?あの、狂暴な悪魔は……なに?おびただしい質量のマケーチン粒子を身に纏っているんだけど……』

『うーんとねぇ……マスターのお嫁さん、だよ?たぶん』

『あんな悍ましいのが!?禍々しいマスターにはお似合いかもだけど!?陰謀詭計!人心荒廃!魑魅魍魎!およそ理知的で文明的な人間社会に存在してはいけないタイプの怪物だよ!?』

「おい」


 他人のお嫁さんを指差して口汚く罵るな。お里が知れるぞ。否定はしないけど。


「本来のスズはお淑やかで優しくておっぱいの大きい幼馴染なんだ。ああなったのは全部カードのせいでしょ?そうだよね?そうだと言ってくれるよね?ね?ねっ!?」

『えっ!?あ……えっ!?あーっ……。そ、そのぅ……。たしかに、闇のカードは負の感情を著しく増幅させるものですが、あそこまでの言動はもともと素質があったといいますか……。普段から胸の奥底で似たようなことを想っていないと、あんなに明確な悪意が形になることは……おそらくないはずです』

『諦めなよマスター。闇のカードにも限度ってのがあるんだ。あそこまで拗らせるのは流石に無理。あの悪魔は生まれつき邪悪だったの』

「どうして!?どうして世界はこんなにも残酷なの!?やっぱりカードって使えないっ!ゴミでカスだ!」

『な、なんでそこまで言われなければならないのですかッ!?』

『闇の力に限界があるのって、本来は喜ばしいことじゃないの……?』


 詰まるところ、人間が抱える闇よりも恐ろしいものはないってことか。

 まずい。となると、スズのヤンデレ癇癪はカードとか関係ないってことに。うごごごご……。


『あーあー。聞こえるかいマスター?たしかにあの魔物はナチュラルボーンサイコだ。けどね?それを暴走させているのは、まごうことなく闇のカードだ』

「や、やっぱりそうだよね!?カードが悪いよね!?」

『もちろんさ。だから、キミがあの力を上手く操れば、優しくて愛くるしい幼馴染に戻るはずさ。まぁ、羊の皮を被った化け物であることに変わりはないけど……都合がいいからそこは触れないでおくか……』

「よぉーし!闇のカードからスズを救うぞぉー!」

『ホムラちゃん……これって……』

『もう手遅れだよリリカ。今マスターはイマジナリーフレンドに縋ってるんだ。あー、哀れ哀れ』


 なんかカードの精霊の阿呆どもが色々と良くない発言をしている気がするけど、今は放っておこう。

 このイカれた世界を正すため、まずは闇のカードに狂わされたスズを助けるぞ!

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カードゲーム世界でサイコロリ扱いされてるのだが??? 53860 @figyahoni

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