第8話


「私のターン!ドロー!手札からもう1体の【LNGコスモス・ガードナー】を召喚するよ!」

「……っ!来たか!」


 スズがカードを掲げると、新たな女騎士が場にあらわれた。すでに存在する【LNGコスモス・ガードナー】とは色違いの盾を装備しており、お互いに顔を見合わせると力強く頷いた。これで厄介なコンボが完成してしまったか。

 【LNGコスモス・ガードナー】の真価はロック効果にある。このアタッカーが場に存在する限り、他のプラント族アタッカーを攻撃対象に選択できないのだ。そして【LNGコスモス・ガードナー】が2体並ぶと、それぞれの効果が適用されてプラント族アタッカー全てに攻撃できなくなるため、攻撃を封じられてしまう。【LNGコスモス・ガードナー】しか場に出せないものの、確実に攻撃させない妨害コンボだ。現に、大きなコスモスの花でできた盾が2つ並んだことで【JKガールズ・水麗のシズク】は右往左往している。

 しかし、このコンボはあくまで戦闘を妨害するものだ。今の私の手札ならば突破できるはずだ。

 

「ひとまず私はこれでターンエンド」

「私のターン。山札からカードをドローしてメインシーンに移行。……はぁ?」


 思わず間抜けな声が出てしまった。

 無理もない。さっき引いたカードが、デッキに入れた覚えのないものだったのだから。


『おぉ!マスターってば武装カード【ガールズ・ファイトミラー】を引いたね!これは私を召喚して装着しなきゃだよ!』

「おい」

『ヒィッ!』

「このゴミカードは、お前が、入れたの?」

『いっ……1枚くらいいいじゃんっ!これは私たちにとって大切な装備なんだよっ!?それに!私だってちゃんと戦いたい!もうスペルのコストとして消費されるのは御免なんだからねっ!』


 ほーう。カードの分際で生意気な。

 主人を無視して勝手にデッキをいじるとは、随分と手癖の悪い駒になってしまったようだ。

 そこまで言うのならお望みどおりにしてやろう。


「……メインシーンに移行。私は場の【JKガールズ・水麗のシズク】を墓地に送ることで、スペル【道連れスーサイド・ロープ】を発動。スズの場の【LNGコスモス・ガードナー】を墓地に送る」

『……え?』


 呆けた表情のシズクの首に呪われた縄が巻き付く。危険を察知した魔法少女はすぐさま逃れようとするが、もう遅い。憎悪の込められた意志のある縄は、スズの場の【LNGコスモス・ガードナー】ともども、力強く空中へと吊るし上げた。

 苦しそうに手足を動かしているが無意味だ。徐々に顔色が悪くなり、いつしか場には2つの醜いオブジェが完成していた。

 水などを操って戦うシズクのイメージカラーは藍色だ。そんな彼女が青紫色に変色した死体になって、見るに堪えない汁を垂れ流しているのは中々にウケる光景だ。もっと綺麗な青色になれたらよかったのにね。てか、自分の体液ぐらいキチンとコントロールしてくれませんか?


「出たね!スルメちゃんお得意の外道コンボっ……!」

「【JKガールズ・水麗のシズク】の効果で私は山札の上からカードを1枚ドローし、スズのELを500ポイント減らす。さらにスペル【武装回収班】を発動。ELを500ポイント減らすことで、墓地の武装カード【ガールズ・ファイトロッド】を手札に戻す」

『お?おぉ……!?もしやっ……!もしやマスター!?』


 本当にうるさい奴だな。期待通りのプレイングをしてやるから静かにしてろ。


「そして相手の場にのみアタッカーが存在するとき、私は手札からアタッカー【JKガールズ・炎激のホムラ】を特別召喚できる」

『うぉー!任せてマスター!あんなヤツ消し炭にしてやるから!』

「当たり前だろ。私は武装カード【ガールズ・ファイトミラー】と【ガールズ・ファイトロッド】を、【JKガールズ・炎激のホムラ】に装着する」

「これでAPは2200っ!」

『すごい……!これが私の本当の力……?今なら何でもできそう。もう何も怖くない、怖くはない……!』


 ここまでお膳立てしてやって、ようやくAP2200か。つくづく強化しがいのないカードだ。


「ファイトシーンに移行。【JKガールズ・炎激のホムラ】で【LNGコスモス・ガードナー】を攻撃。アホアホファイヤー」

『違うわい!そんなバカげた必殺技じゃないっ!』

「はぁ……。じゃあなに?」

『ラブ・フレイム・スラッシュだよっ!』

「同じくらいバカげてるだろ。……えーっと、ラブ・フレイム・スラッシュ」

『ありがとっ!よーっし!AP1200のゴミ花を燃やしてやるぞー!』


 その場でくるりと1回転すると、ホムラはウィンクして光り輝く魔法のロッドを構えた。刹那、【LNGコスモス・ガードナー】に向かって炎の刃が飛んでいく。色々と強化されたアホアホファイヤーに焼かれた女騎士は、この世のものとは思えないほどに苦しみがこめられた悲鳴をあげながら、ついには炭と化した。


「これで私はターンエンド」

「うぅっ!スルメちゃんどうして?どうしてホムラちゃんをいつもの外道コンボのコストにしないの?」

「たまにはそういうときもある」

『いつもこうあって欲しいけどねっ!』


 そしたら勝てなくなるわ。

 とりあえず、これでスズのELは1100か。ただ手札が5枚もあるのでリソースは潤沢。強力なカードを持っていないといいが。

 そんなことを考えていると、突如スズは不気味な笑い声を漏らし始めた。


「ふふふ。うふふふふ!そうだよね!そうだった!私ってばうっかりしてたよ!」

「……なにが?」

「スルメちゃんは、ホムラちゃんのことが大好きだってこと!すっかり忘れてた!」

「は?」


 このムッツリスケベのマセガキはいきなり何を言っているのだろうか。

 我が幼馴染の頭がおかしくなったのか、と心配になってしまうが両目を見開いたスズは言葉を続けた。気のせいかな。可愛らしいお目々が充血しているように見えるんだけど。


「幼稚園のとき、大好きな相棒って言ってたもんね。可愛くてカッコよくて素敵っていつも周りに自慢してた。世界で一番のカードだって嬉しそうに話してさ」

「言ってない」

「すっごく大切にしてたもんね。いっつも丁寧にお手入れして、ベッドに持ち込んで一緒に寝て、おやすみのキスを必ずしていたよね」

「してない」

『よく覚えてるよ!昔のマスターはこっちが恥ずかしくなるくらいにデレデレだったな~!』

「黙れ」


 当時はイラストとかキャラクターとかバックストーリーが理想的なカードだったから、ほんの少しだけテンションが上がっていただけだ。一応これでも人生2回目なわけだから、そこまではしゃいでいなかったはず。

 スズは堰を切ったように語り出した。


「肌身離さずって感じだったよね。幸せそうに笑って抱きしめててさ。私が話しかけてもそっちのけだったりしてさ。新婚カップルかよ。だいたい何でスルメちゃんのファーストキスをあんなカードが奪ってるんだろうね?おかしいよね?意味わかんない。どうして私じゃなくてあいつを愛したの?私がキスしようとしてもあーだこーだ言って恥ずかしがって拒否したくせに。あいつにはいつもスルメちゃんの方からキスしてた。私は寝惚けたスルメちゃんにベッドから蹴とばされたりしたけど、あいつだけはずっと大事に抱きしめられていた。何度も寝言で大好きって言ってるのを聞かされた。それは私じゃなくてあいつに対する言葉。ホムラ、ホムラ、ホムラ。何回もあいつの名前を愛しそうに呼んでた。どうして?なんで?所詮は紙切れなんでしょ?なのに人間の私よりもあいつを優先して。いつもいつもいつもいつもあいつばっかり愛して」

「聞いて?今のスズはマイナーカプ厨と同じくらい無理筋な妄想をしている」

『やっぱり幼馴染のスズちゃんにはわかっちゃいますか~?マスターと私の絆ってヤツが~!』


 は?そんなものないんだが?別にアホムラのことなんか好きじゃないし。

 それにしても流れは最悪だ。何か調子に乗ってクネクネしているホムラはどうでもいいけど、問題はスズだ。さっきからずっと思いつめたような表情でブツブツと独り言を繰り返している。瞳孔は開き切っていて、憎しみと殺意のこもった視線をARビジョン上のアホに向けている。

 昔からスズは少し思い込みの激しいところがあって、一度暴走すると止まらない。これはもうダメかもしれんね。こうなると煮えたぎった感情を発散しきるまで待つしかない。


「そう。スルメちゃんの愛を一心に受けているのがこいつなんだ。だから私はホムラ……お前が!羨ましくて!狂おしいほどに!憎い!」

『あれ?あれあれ?気のせいかな?さっきからチビりそうになるほどの殺気を感じるんだけど?』

「ああなってしまったスズは手のつけようがない。大人しく死を受け入れて」

『ヤダよ!?カジュアルなカードバトルでどうしてそうなるのさ!』

「今のお前は戦闘で破壊されないんだってね?なら死にたくなるくらいに苦しめてあげる!私のターン!ドロー!」


 なんか黒い靄をまとっている気がするのだけど、大丈夫だろうか。

 そんな私の心配をよそに、スズはドローしたカードをさっそく掲げて使った。


「手札からスペル【なんでもそろうホームセンター・ナチュラル】を発動!自分のELを500ポイント増やし、さらにデッキからAP1000以下のプラント族アタッカー1体を特別召喚する!来て!【LNGミント・ソルジャー】!」


 短剣と盾を持ち、頭にミントの葉を生やした少女が場に登場した。

 AP500と大したパワーはないが、問題なのが効果だ。現実のミント同様に狂暴ともいえるほどの展開力を持っている。


「【LNGミント・ソルジャー】は召喚・特別召喚時にELを500ポイント減らすことで、デッキからもう1体【LNGミント・ソルジャー】を特別召喚できる!」

「これで場には2体のアタッカー。となれば……」

「うん。スルメちゃんの想像通りだよ。私は2体の【LNGミント・ソルジャー】を生贄に捧げて、手札からトップグレードアタッカー【LNGローズ・ウィップ・クイーン】を生贄召喚!花々を支配者たる黒薔薇の女王よ!愚かな敵対者に!私の愛する幼馴染を寝取った略奪者に!苦痛と裁きを与えよ!」

『あえ?えと、APが……2400ぅ!?』


 すごいすごーい!何もしていない状態でAPが、2枚も武装カードを装着したアホムラよりも高いんだね!ホント、悲しさのあまり涙が出そうだ。

 スズの場には、嗜虐的な笑みを浮かべた黒ドレスの美女が現れた。その豊満な胸元には美しい大輪の黒薔薇が咲いている。漆黒のハイヒールを履いた美女は背筋を伸ばすと、びしり、びしりと棘の生えた鞭を振るう。さながらSMプレイの女王様のように見えてしまう。あと気のせいか、スズから発せられている黒い靄が、何らかの力を与えているのではないか。

 それにしても、私をホムラが寝取ったとか間違ったことを言うなし。これでも私は一途にスズを想い続けてるんだからねっ!おっぱい万歳!


「そして私は武装カード【ペイン・ニードルウィップ】を【LNGローズ・ウィップ・クイーン】に装着する!これでAPは400ポイント上昇!さらにこの武装カードが場にある限り、スルメちゃんはアタッカーを召喚できなくなる!」

「むむむ。中々に面倒な妨害効果」

「まだまだ!手札から武装カード【カオス・ニードルウィップ】を【LNGローズ・ウィップ・クイーン】に装着!APが400ポイント上昇するとともに、アタッカーの特別召喚を封じるよ!」

『あわわわ……これでAPが3200に上がっちゃった……!』

「最後に私はスペル【遺伝子組み換え増強剤】を発動!これで場のプラント族アタッカー1体は、次の私のターンまでAPが300ポイント上昇し、2回攻撃できる!」

「……これはすごい」


 まさか2回攻撃の効果まで付与するとは。スズはよほどホムラを痛めつけたいらしい。

 1300ポイントというAPの差はどれほどの痛みを与えるのだろうか。まぁ、今にわかるはずだ。


「行け【LNGローズ・ウィップ・クイーン】!目の前の泥棒猫に攻撃!ダークネス・カオス・ローズ・ウィップ!」

『えっ……!鞭が身体に巻き付いて……っ!いぎぃっ!?』


 棘のついた鞭がホムラを縛り上げると、身体を宙に浮かした。無数の鋭い棘が少女に突き刺さり鮮血が噴き出す。苦悶の表情を浮かべる魔法少女を見て、口元に弧を描くと女王様は勢いよく鞭を地面に叩きつけた。強力な衝撃とともにホムラは吐血する。

 かなり痛そうだが、武装カードの効果でホムラは戦闘では破壊されない。苦痛のあまりホムラは地面に蹲っている。なお、一連の戦闘で私のELは2200ポイントに減少した。


『うぐぁっ……!』

「もう1回ぃ!スルメちゃんを奪うクソ女に最大限の苦痛と絶望を!ダークネス・ペイン・ローズ・ウィップ!」

『ひぎぃっ!』


 背を丸めたホムラを鋭利なハイヒールで踏みつけると、黒薔薇の女王様はビシバシと鞭を振るいだす。刺の鞭が少女の肌を裂き、一閃の鮮血が場に広がった。鞭が振り下ろされるたびに、ホムラは苦痛に顔を歪める。

 これでELが900ポイントになった。さて、カウンタースペルの効果を発動する準備は整った。今から、血だらけで虫の息の相棒に選択肢をくれてやる。


「さて……ホムラはこのまま戦うつもり?AP勝負で勝ち目なんてないけど?」

『はぁっ……はぁっ……。戦うよ……!だって私は正義の魔法少女だからっ……!』

「どうやって?私の手札にAP1300の差を埋めるカードなんてない。もう一度言おうか?AP勝負で貴女に勝ち目なんて端からない。」

『でもっ……!でもぉっ!』

「つまらない意地で能力を活かしきれずに負けたいの?それとも、自分の力を最大限に発揮して勝ちたいの?」

『うっ……うぅ~~!』

「私はどっちでもいい。でも、これだけは教えてあげる。【JKガールズ・炎激のホムラ】というカードが最高に輝くプレイングをできるのは、この世で私だけ。場から墓地に行ってこそ貴女の真価は発揮される。目の前の悪逆非道な女王様に復讐したくないの?私に任せれば最高の苦痛をあいつに与えられる」

『うぅ~~~!!うぅぅぅぅぅう!!!』


 ホムラはロッドとミラーを握りしめながらボロボロと大粒の涙をこぼしている。自身の無力を嘆いているのだろう。

 それでも私の提案をまだ受け入られずにいる。どうやら魔法少女としての理想像と、強敵を倒すための現実解をめぐって葛藤しているようだ。

 一応、武装カードを5枚ガン積みすれば、AP3500に届かなくもない。ただ、もしスズが【LNGローズ・ウィップ・クイーン】以上に素のAPが高いアタッカーを出せば、1~2枚の武装カードで盤面はひっくり返されてしまう。もともとのAPが低いアタッカーで真正面から戦闘を挑むのは、かなり分が悪い。だから私は【JKガールズ】アタッカーでAP勝負したくないんだ。

 駄々をこねるホムラを諭していると、嫉妬でヒステリー状態に陥っているスズが声を荒げた。


「なんなの?独り言?それともまた、そこの泥棒猫に話しかけているの!?許せないっ……!大して強くもない見た目だけのカードのくせにっ!お前ばかりスルメちゃんの寵愛を受けてっ!」

『強くない……見た目だけ……』

「ほら、言われてるよ?ねぇホムラ。どうするの?」

『………………お願い、じまずっ!』

「なに?」

『わだじをっ!かがやかせてっ……!』

「よかろう」


 その言葉が聞きたかった。

 無様に大泣きするホムラのロッドについた水晶に映る私は、それはそれは素敵な笑みを浮かべていた。そりゃあそうだ。愚かな手駒を屈服させたのだから嬉しさのあまり笑顔になってしまうさ。

 もう二度と逆らうなよ。


「自分のELが1ターンに2400以上、減少したことで伏せていたカウンタースペル【涙の鉄道、レイル・オブ・ティアーズ】を発動できる。私は自分の場のアタッカー1体を墓地に送る。さぁ、【JKガールズ・炎激のホムラ】よ!我が勝利の礎となれ!」

「なっ!?ここでこいつをコストに!?」


 私の宣言とともに、アンデッドの建設労働者たちがホムラに群がる。目当ては鉄道を作るための材料、ヤツの骨だ。ゾンビどもは魔法少女の四肢を押さえつけ、ブチリ、ブチリと嫌な音を立てながら肉を噛みちぎっていく。響き渡る少女の悲鳴。労働者たちの雄たけび声。ゆっくりと時間をかけながら、ホムラの命は削られていった。

 痛いよ。苦しいよ。やめて。許して。

 涙ながらに訴えるホムラだがゾンビたちにその悲痛な叫びは届かない。納期を守るため労働者たちは肉を喰らい、骨を奪っていく。ブチリ、ブチリ、ブチリ。徐々に肉を嚙みちぎる音が小さくなり、その頻度も落ちていく。いつしか哀れな魔法少女の残骸と血だまりができていた。その上に、ゾンビたちはホムラの骨で鉄道を作り敷設する。

 さぁ、舞台は整った。


「このとき【JKガールズ・炎激のホムラ】の効果発動。場にいるホムラが墓地に送られたとき、相手の場のスペルを2枚まで墓地に送り、相手ELを1000ポイント減らす」

「場に存在する武装カードはスペル扱い。ということはっ……!」

「その通り。目障りな武装カード【ペイン・ニードルウィップ】と【カオス・ニードルウィップ】を墓地に送らせてもらう」

「ぐぅっ!でもっ!私のELはまだ100ポイント残ってるし!場にはAP2700の【LNGローズ・ウィップ・クイーン】がいるよ!」

「……そういえば、スズはまだ見たことがなかったね。私の新エース。今から見せてあげる」

「え?」

「カウンタースペル【涙の鉄道、レイル・オブ・ティアーズ】の効果で、私は山札からトップグレードアタッカー【冥府の暴走機関車ポイズンスカル】を特別召喚できる。汽笛一声生き地獄。呪怨の汽車が死を散らす。愚かな魔法少女を踏み潰し、あらわれよ!【冥府の暴走機関車ポイズンスカル】!」

「そんなっ!?噓でしょっ!?」


 先頭に大きな髑髏をこしらえ、悪霊と瘴気をまとった蒸気機関車が、威勢よく汽笛を鳴らしながら鉄道の上を猛スピードで走る。暴走列車が通過した後に残ったのは、枕木と粉々に粉砕された魔法少女の骨だけだった。

 ご苦労様。ホムラのおかげでこの汽車が召喚できたよ。

 ありがとう。これからも私のために死んでね。


「【冥府の暴走機関車ポイズンスカル】は特別召喚に成功したとき、このカードを除くお互いの場のアタッカーをすべて墓地に送る。地獄の毒煙で魂を溶解させろ!トクシック・ペイン!」

「私の【LNGローズ・ウィップ・クイーン】がっ!」


 ポイズンスカルから、毒々しくおぞましい煙が噴き出す。瞬く間に場を毒煙が支配すると、徐々に【LNGローズ・ウィップ・クイーン】が溶け出した。グロテスクに溶解する自身を目の当たりにして発狂する女王だが、もはや打つ手などない。皮膚と肉は溶けていき、最後にはおぞましい断末魔をあげて絶命した。


「さて、他に何かある?」

「…………ない。ないよ。私はこれでターンエンド」

「そう。なら私のターンね。【冥府の暴走機関車ポイズンスカル】で直接攻撃」


 スズを指差すと【冥府の暴走機関車ポイズンスカル】が突撃した。ELはゼロになり、私の勝ちが決まった。

 いつの間にかへたり込んでいたスズのもとへ歩を進めると手を差し伸べた。さっきまで身にまとわりついていた黒い靄はなくなったみたいだけど、大丈夫だろうか。


「ははは……やっぱりスルメちゃんには敵わないや」

「そんなことない。スズのコンボは良かった。ちゃんとカードの効果を活かしてあげれば、並みのプレイヤーでは太刀打ちできないくらいに強くなれる」

「……そうかな?」

「もちろん。あと私とホムラを勝手に恋仲にしないで。私が好きなのは、その……えっと……あの……スズ、だけだから」

「……うん!私もスルメちゃんのことが大好き!だから私がんばるっ!頑張ってスルメちゃんの隣に立てるようなプレイヤーになるっ!」


 満面の笑みを浮かべたスズは、嬉しそうに私を抱きしめた。年齢の割に立派な胸が顔に押し付けられる。うっひょー!最高だぁ!そんなこんなで勝利のご褒美を満喫した私なのであった。

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