第11話 『私の居場所は』
最近、瑠奈のSNSアカウントの投稿がますます派手になってきたような気がする。
彼女の「リア充カップル」ぶりを見せつける写真や投稿がどんどん増えている。
先日、後輩の美咲が俺たちの偽カップル関係に疑問を抱いて、嫉妬めいたコメントを残して、直接物申しにきて以来、瑠奈はより一層「リア充アピール」に力を入れているようだった。
今日も放課後に瑠奈に呼ばれ、近所のカフェで「デート風」の撮影をすることになった。
俺は彼氏役としてカメラの前で笑顔を作り、楽しそうに振る舞うよう指示を受ける。
正直、照れくささが拭えないが、瑠奈の満足そうな顔を見ていると、いつも結局つき合ってしまう。
「よし、これでOK!塩谷くん、ありがと!」
満足げにスマホを操作する瑠奈は、さっそく撮った写真を編集し始めた。
ドリンクの色合いや明るさを調整し、自分たちの顔を少し加工する。その手際はまるでプロのようだ。
瑠奈がSNSの投稿に夢中になっている様子を見ていると、ふと気になることが頭をよぎった。
それは今までも抱いて来た彼女の行動に対する疑念だった。
彼女は何がそんなに楽しいのだろうか。いや、そもそも何を求めてここまで一生懸命に「リア充カップル」を演じているんだろう?
「なあ、瑠奈」
俺が声をかけると、彼女は一瞬だけ顔を上げたが、すぐにスマホに視線を戻した。
「ん?なに?」
言葉に迷ったが、俺は正直に聞いてみることにした。
「その……SNSにそんなにこだわる理由って、何なんだ?なんでそこまでリア充アピールに必死になるんだよ?」
瑠奈は一瞬、動きを止めた。そして、しばらくの沈黙の後、静かに呟くように答えた。
「……だって、前も言ったと思うけど、ここしか私の居場所がないから」
その言葉に、俺はハッとした。思わず見つめ返すと、瑠奈はどこか遠くを見るような目で続けた。
「リアルで友達が少ない分、SNSではたくさんの人が"いいね"してくれるし、コメントで"羨ましい"って言ってくれる。そういうのが、私にとっては大事なんだ」
普段の明るいキャラクターとは違う、どこか寂しさを感じさせる彼女の言葉に、俺はどう返していいのか分からなかった。
「羨ましい」なんて他人から思われるために、彼女はここまで努力しているのか?自分の生活を"完璧なリア充"に見せることで、自分の価値を確認しようとしているのかもしれない。
前にもこのようなことを言われたが、俺にはその気持ちは理解できなかった。
しかしそれは彼女にとってはきっと切実な問題なのだろう。
「……SNSだけが居場所って、そんなの寂しくないか?」
俺はそう思わず呟いてしまった。すると、瑠奈は少し驚いたように俺を見て、それから小さく笑った。
「うん……寂しいよ。でも、今はこうするしかないんだ」
その言葉を聞いた瞬間、俺の胸が苦しくなった。
普段はSNS上で輝いている彼女の姿が、ただの演出に過ぎないのだと思うと、なんともやりきれない気持ちになった。
「塩谷くんも、こうやって付き合ってくれてありがとうね。おかげで私、頑張れてるから」
瑠奈は微笑みながらそう言った。その笑顔は、どこか無理をしているように見えた。
「……俺ができることなら、手伝うよ。でも、俺もSNSで見てる瑠奈しか知らないわけじゃないんだ。いつもの普通の瑠奈も、悪くないって思うけどな」
自分でも少し不器用な言葉だと思ったが、瑠奈は驚いたように少し目を見開き、それからほんの少し顔を赤らめた。
「……ありがとう、塩谷くん。でも、私はまだ……」
瑠奈は言葉を途切れさせ、再びスマホに目を戻した。その姿に、俺は複雑な感情を抱き始めた。
彼女が見せる「リア充キャラ」としての姿と、本当に彼女が求めている自分の姿との間で葛藤しているのかもしれないと、ぼんやりと考えながら俺は彼女の隣に座り続けた。
カフェを出て帰り道を歩いていると、俺は改めて彼女の存在について考えさせられていた。
彼女があそこまでSNSに執着する理由も、少しだけ分かった気がする。
それでも俺は、ただの「偽彼氏」としてではなく、もっと彼女の本当の姿を知りたいと思い始めていた。
「──自分の居場所がここしかない」
そう呟いた彼女の言葉が、胸に残り続けている。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます