第3話 障害とドジの壁
「あのねー。警察学校ではどんな夢のある教え方してんのか知らないけど、事件なんてそうそう起こるもんじゃないの。わかる?」
緑茶の茶葉を急須に入れながら流川はこれ見よがしにため息をついて見せた。
「東京ならわかるよ?大阪とかさー埼玉とかさー?でもここってほらちょっと都会ぶってるけど所詮は東北じゃない。東北大会には出れても全国じゃ手も足も出ないっていうの?わかる?」
(わかるようなわからないような……)
「それに俺たちが扱うのは特殊事件のみだしね!」
「……」
瞳子はポットから流れ出る湯を見ながら聞いた。
「聞きたかったんですけど、その特殊事件の特殊ってなんですか?」
「あー気になっちゃう?そこ」
流川は急須の蓋を閉めながら笑った。
「3K事件だよ」
「3K……?間取りの話ですか?」
瞳子が真顔で聞き返すと、
「面白いねー、瞳子ちゃん」
流川はますます笑った。
「臭い!汚い!危険!な事件」
「え、それってどういう……」
瞳子が聞き返そうとした瞬間、
ガシャン。
事務所の方から派手な音がした。
給湯室からのぞき込むと、嶋が落としたコップを拾っていて、
「中身なかった?セーフ!」
安孫子が優しく笑っていた。
「あのさ。もしかしてさっきの気にしたりしてないよね?」
瞳子のすぐ横から事務所を覗き込みながら流川が言った。
「さっきの……といいいますと?」
「だからさ。嶋に挨拶したのに無視されたでしょ?」
流川の視線が嶋から瞳子に移る。
「ああ……それなら別に気にしてません。警察の世界ではよくあることですから」
「よくあることって?」
「未だに男性文化ってことですよ。女性を認めない人も多いから」
「あー。ちゃうちゃう。そう言うんじゃないんだって」
流川はそう言うと、開け放っていた給湯室のドアをそっと閉めた。
「発達障害って知ってるでしょ?」
「?まあ聞いたことはありますけど」
「あいつ、それだから」
流川は急須を軽く回しながら言った。
「ええ?偏見でそういうこと言うのどうかと思いますけど」
「偏見じゃなくてマジだから。医師の診断もついてるし」
流川は並べた6つの湯飲みに順にお茶を注いだ。
「注意力欠如型ADHD。だから自己紹介も自分の番が回ってきたのにボーっとしてるし、挨拶されても聞いてないし、今だってほら。コップ落としたでしょ」
「いやあ……でもそんなの誰しもが検査したら何かしらの結果が出ると思うし。白か黒かじゃなくてグレーゾーンの人が大半っていうか」
日々のちょっとしたミスで発達障害だなんて決めつけられたらたまったものではない。
「医者なんか受診すればそれなりの診断結果出すんじゃないですかねー?私だってネットのセルフチェックとかすると当てはまったりするし、ちょっとドジなところがあるからペンなんかしょっちゅう落としたりするし、それに……」
「何回?」
「え?」
「何回?1日にペンを落とす回数」
「それは……1回とか2回とか」
「10回以上。あいつの場合は1日のうちに10回以上物を落とす」
「…………」
「それが、生まれながらの障害と
瞳子が言葉につまっていると、
トントン。
捜査五課の扉がノックされた。
「佐久間係長はいらっしゃいますか」
そこには髪の毛をオールバックに結んだ凛とした女性が立っていた。
「事件です」
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