第5話 反撃

 数日後、心紬みつむ達はアポを取り、穂奈実ほなみに接触していた。


「貴方達が、報道の内容を否定しようと動いてくれてる方々ですか? 未だ、思考が追いついていないところもありますが、とりあえず、ありがとうございます」


「俺達は、ほなみんにお礼を言われる程のことは......」


「彼の話はさておき、僕達は今、証拠集めをしています。今回の話が、そのラストピースになる予定です。それでは、写真に映る男性との関係性を教えて頂けますか?」


「はい。この方は、私が所属していたエスポワールのプロデューサーで、私をスカウトした張本人です。私は、彼のことを気の良いプロデューサーとしてしか見てなかったのですが、彼の方は、違ったようで......」


「というと?」


「結婚を視野に入れたお付き合いをしたいと、ある男性からアプローチを受けて、私もそれに了承したいと考えていました。だから、ファンを裏切りたくなくて、アイドルを辞めると決意したんです。そしたら———」


「絶対ダメだ。第一、ぼくは君が加入してるから、エスポワールのプロデューサーをしているんだ。君が辞めたら、意味がない。ファンに隠しても良いから、どうかアイドルを続けてくれ」


「というように懇願してきたんです。けど、私も信念を曲げるつもりは無かったので、押し切って、辞めることに同意してもらいました。その時、去り際に……」


「後悔することになるよ」


「——との言葉を残して、連絡が途絶えました。でもあの日、急に彼から、どうしても話したいと連絡があり、仕方なく応じました。そこでは、肩を抱かれて」


「君が他の人のものになるくらいなら、ぼくのものにしておけば良かった」


「——って言ってきたので、鳥肌が立って、思わず突き飛ばして逃げました。今思えば、私も軽率でしたが、それ以上に、彼の私に対する執着は異常だと思います」


「なるほど。その人との連絡履歴は、証拠になるかもしれないな。出来たら、提供して下さい」 


「分かりました。でも、私が証拠を選別するのは身が持たないので、可能であれば、そちらにお願いしたいです」 


「はい、承知しました。ところで、もう一つ提案があるのですが、聞いて頂けますか?」 

「はい、何でしょう?」


「実は、記事を書いた者は、娘の治療費のために、仕方なく従っていたようで、お金さえ確保出来れば、真相究明に助力すると言っています。複雑だとは思いますが、力を貸して頂けませんか?」 


「......条件を三つ了承してくれるのであれば、良いですよ。一つ目、人づてではなく、対面で私と会うこと。二つ目、私の夫やファンに謝罪すること。三つ目、迷惑をかけたであろう今の会社に対して、何らかの形で責任を取ること、以上です」


「とのことだ。細田ほそだ、出てこれるか?」


(俺は、度来わたらいさんに持たされていた盗聴器越しに、細田へ呼びかける。すると......)


「初めまして、白鳥しらとり穂奈実さん。自分が、例の記事を書いた者です。条件、承りました。ですので、どうか、娘の治療費を集めるためのクラウドファンディングの呼びかけに協力して頂きたいのです」


「言質はとりましたよ。私がクラファンに協力する代わりに、真相究明と残り二つの条件、しっかり達成して下さいね」


「はい。時間はかかるかもしれませんが、必ず達成します」


「うん。本日は、ありがとうございました。後、話に入ってこなかったそちらの二人は、私のファンの方だよね。協力してくれて、ありがとう」


(俺達、今回はほとんど働いてないけど、ほなみんに労ってもらえるなんて、幸せだ。)


 穂奈実との話し合いを終え、事務所へ帰りつくと、度来が細田に指示をして、真相の公表を急いだ。そして、一週間後、遂に記事が公表された。  


「あっ、流石に細田の会社じゃないんだな」


「みっつー、細田はただの情報提供者だからな。仮にアイツが記事を書いていたら、世に出される前に権内ごんないが止めに入るよ」


「確かにそうだ、色々考えて動いてくれた度来さんに感謝だな」


 しかし、真相が公表されてすぐ、権内がコネをフル活用し、記事のもみ消しを図った。もちろん、完全に消えてなくなった訳ではないが、数日が経過した頃には、情報の拡散は、ある程度せき止められていた。


「うぅ、何てこった! 折角俺達が頑張ってきたことが、無駄になるなんて......」


「有動君、落ち着いて。この事態、僕が想定していなかったと思う?」


「まさか度来、お前!」


仲地なかじの推察通り、とっておきのカウンターを仕込んでおいたよ。そろそろ、公開されるはずだ......」


「何々、ゆいち~と権内社長、仲良くドライブデート。社長が既婚者かつ年齢差が二回りの彼らに対し、周囲の反応は!? って、度来さん、これはヤバいよ」


「こちらはでっちあげじゃなくて、ある程度真実な所が笑えるよね」 


「度来さん、本当なの?」 


「うん、細田の話を聞いた時から、怪しいと思ってたんだ。だから、変装した彼をはりこませていたら、この写真が撮れたって訳。まぁ、本人達はでっち上げだと否定するかもしれないけど、矛先が彼らに向くのは確実だね。しかも、反撃の手段はこれだけじゃない」 


「なっ、conectコネクトに、みほぽんを始めとした元アイドル達の暴露系動画が挙がっているだと?」


「仲地、よく気づいたね。今は投稿されたばかりだから、未だ小さな火種だけど、次第にこれは大きくなるよ。記事は出版社を抑えれば良いけど、conectは個人が自由に投稿出来るから、簡単には収まらない。これで、世間の白鳥さんに対する目は、被害者の内の一人となるはずだ」


(良かった。一時はどうなることかと思ったけど、度来さんのお陰で、解決したな。いや、なかじーとほなみん、後は......細田の協力もあったか。) 


「みんな、俺に協力してくれて、本当にありがとう。今日はみんなで、ぱーっと打ち上げだ!」 


「みっつー、良い提案だな。おれも参加するぞ。度来はどうする?」 


「それって、お酒飲みながら騒ぐだけでしょ? 僕にとっては、面倒この上ないんだけど……」 


「お酒が嫌なら無しでいいんで!後、俺が奢りますよ」


「有動君がそこまで譲歩してくれるなら、参加しようかな」


 その後、心紬達の打ち上げが行われ、三人は、存分に羽を伸ばした。だが、未だ終わりではない。何故なら、穂奈実と細田の約束が残っていたから———


                 続く

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