第4話 非情な現実

(驚きのあまり、俺となかじーは、思わず声を上げてしまった。だって、ほなみんと同じユニットのゆいち~が、そんなことをしていたなんて、信じたくなかったから。)


「覚えてる限りで良いから、その時の会話内容を話して」


「はい、あの日は......」


 細田ほそだは、自身の記憶を呼び覚まし、当時の会話を再現する———


「それじゃあ細田、今回もよろしくな。構図としては、プロデューサーが穂奈実ほなみの肩を抱いて、高級料理店に入ろうとしてる感じで」


「はい、分かりました。それと、社長に質問なのですが、何故、結衣ゆいさんが同席しているのですか?」


「あぁ、今回の件、結衣も一枚噛んでんだよ。オレは、在籍中に穂奈実が男性と付き合って、グループやファンを裏切りましたって記事にしようとしたんだ」


「でもでも〜結衣は、ごんちゃんが提案したネタじゃ弱いかなって思ったの!だって、ほなみんは良い子ちゃん売りをしてるから、付き合うとか結婚のネタだと、彼女の幸せを応援しようってファンが出て来るし〜。だから、擁護しようのない浮気ネタをでっち上げる為に、態々待ってあげたんだよ♡」


「な、なるほど。お二人は不仲なんですか?」


「えっ、違うよ。あっちは結衣のことを嫌ってなかったし、好意的に接してきたからね。けど、結衣は、ほなみんのそういうとこが大嫌いなの」 


「何故ですか?」


「ビジュ、ダンス、歌......最初は何の能力も持ってなかった落ちこぼれの癖に、努力家の良いちゃん子キャラで同情を集めて、いつの間にか、結衣と麗菜れなの次に人気になっちゃってさ。顔と歌は結衣に及ばず、ダンスも麗菜に及ばない。なのに、なのに周りがどんどんほなみんのことをチヤホヤしだすんだもん。アイドルとして、結衣達未満のくせに、自分はみんなに気を遣える良い子です〜みたいな態度をとるな!気持ち悪いんだよ......

 ふぅ、スッキリしたね。そんな訳で、結衣はほなみんに不幸になって欲しいの! 細田さん、うちのプロデューサーとほなみんの記事をよろしくね♡」


「はぁ。ところで社長は、結衣さんの先程のような一面を知っていたんですか?」


「あぁ、知ってたさ。でも、結衣はエスポワールのセンター。つまり、一番金を稼いでくれる子だから、特別に許してるんだ。オレは、事務所内で結衣が一番のオキニだしな」


「ごんちゃんにそう言ってもらえて、結衣、すっごく嬉し〜。はい、ぎゅ〜♡」


「——と言った内容でした。写真に映るプロデューサーは同席していなかった為、どれ程関与していたかは不明です」


「そうか。もう良い、充分だ。今日はこれ以上聞けそうにないから、帰ってくれ。勿論、このことは権内ごんない社長にはオフレコでな」


「はい。えっと、一度暴露したら、自分が悪いことをしていたと認識させられました。彼女達やファンの方に申し訳ないので、先程の約束だけは、絶対に守ります。けど、この先依頼されても、断れる自信がないんです。お金が、必要だから」


「悪いことって分かったなら、さっさと手を引きなよ。お金の件は、僕が策を考えるから」


「ありがとうございます! 貴方程の賢い方が考えてくれるなら、安心です」


「その代わり、僕の手駒として動いてもらうから」


「承知しました。では、失礼致します」


(俺の頭の中はぐちゃぐちゃで、どうしたら良いか分からない。最初は、記者に対して苛立って、次は、権内社長を憎んだ。けど、何より胸に響いたのは、ゆいち~が、同じグループの仲間が、ほなみんの浮気報道に加担していたということだ。恐らく、なかじーと俺は、しばらくこのことを引きずるだろう。)


「二人とも、次に都合がつく日はいつだ?」


度来わたらい、今はそっとしといてくれよ。おれもみっつーも、傷ついてんだ」


「だったら、尚更この問題を解決すべきだ。立ち止まったところで、心の傷は治らない。それよりも、白鳥しらとりさんを始めとしたアイドル達の傷を癒してあげることが先決だろう? 彼女達も、傷ついているんだから」


「......お前、本当に度来か? 人を思いやって、寄り添える心があるなんて、知らなかった」


「なかじーのバカ!それは度来さんに失礼だ。でも、助かった。みんなのお陰で、俺は前に進めるよ」 


                  続く

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