第3話 調査進展

 その後、一週間の調査を経て、度来わたらい心紬みつむ達に経過報告をしていた。


「基本的な情報は、有動うどう君達が調べていたから手間が省けたよ。僕は今回、浮気ニュースの記事を書いた記者に関して調査をしていたんだけど、白鳥しらとり穂奈実ほなみが所属していた事務所の社長と、数年前から癒着関係にあることが分かった」


「癒着って、具体的にはどんな事を?」


「有動君、仲地なかじ、この記事を見てくれ。例の記者が書いたもので、元アイドルがいかがわしい店の客引きに転職!? って見出しだ」


「この子、みほぽんか? 海外留学をするから、アイドルを辞めるって言ってたのに......」


「仲地の言う通り、彼女は、引退後に海外へ行ったことをSNSで報告している。だから、記事の内容と真実が食い違っているんだ。でも、それらしい服を着ている彼女の写真はあるから、信じてしまう人もいるだろう」


「合成写真か、雑誌の仕事と騙して撮影。はたまた、打ち上げの罰ゲームとか?」


「そう、有動君の推察通り、写真だけなら、いくらでも偽装出来る。全員が信じなくても良い、周囲に疑念を抱かせ、彼女の信頼を低下させることが目的だろう。他にも、何件か類似した記事があったけど、全部同じ記者が書いていたから、ほぼ確定だ」


「やり方があくどいな。でも、事務所側は、退所したアイドルに仕返しが出来るってメリットがあるけど、記者には何のメリットが?」


「仲地の質問に対して、今までの経験を踏まえて返答するなら、賄賂とかだね。だが、数日間記者に尾行してみても、未だ、決定的な証拠が掴めていない。僕は暫くの間、記者を追いかけるよ」


「度来さん、ありがとう。」


「けど、記者ばかりに集中せず、白鳥さん本人や、写真の人物......エスポワールのプロデューサーも調査対象にすべきだと思う。まぁ、それは追々かな」


 経過報告を終えた度来は、調査を再開した。そして、五日が経過したある日に、事態が動いた。 


(退社後の記者を尾行していたけど、ようやく、エスポワールの事務所社長と会ったな。僕の想定より遅かったけど、まぁ良いか。そして、二人が向かってるのは......個室のお店とか?そこなら大丈夫だと思ってるんだろうが、甘いね。)


 度来は、何食わぬ顔ですれ違い、記者の服に、盗聴器をつけた。 


「......ほら、そろそろ到着だ」


「社長、ありがとうございます」


「おい、怪しまれるから、普通に呼べ」


「はい、権内ごんないさん」


「いらっしゃいませ。ご予約の権内様ですね。こちらの個室へどうぞ」


(オッケー、普通に聞こえるな。それじゃ、僕は人気の少ない路地に入って、次に、ボイスレコーダーを近くに持って来て......)


「それで、細田ほそだ。穂奈実の件に対する報酬だ。今後も、オレの為に動いてくれ」


「あっ、ありがとう、ございます。でも自分は、そろそろ手を引こうかなって」


「こんだけ記事をでっち上げといて、今更逃げんのか?てか、逃げられねぇよな。社内のお荷物だったお前を拾って、恩を与えてやったんだ。それに未だ、足りてねぇんだろ?」


「......そうですね。権内さん、今後とも、よろしくお願いします」


「細田の働き次第では、上乗せしとくよ」 


(良し、そこそこ有力な証拠が集まった。でも、アイツらと出くわすのは危険だから、退散するか。)


 帰りのタクシーの中で、度来は、今日の成果に関して考える。


(直接見た訳じゃないから、何を賄賂として渡していたか、分からないな。それに、正攻法で入手した証拠ではないから、これが決定打にはならない。となると次は......人手が必要になりそうだな。)


 翌日、度来は心紬達を呼び出し、進捗報告と、協力依頼を持ちかける。


「......聞いてもらった通り、これが僕の調査結果だ」


「度来さん、凄いですね。早速、公表を!」 

「みっつー、ちょっと焦りすぎだって。多分、未だ早いぞ」


「仲地の言う通り、今のを証拠とするのは弱い。けど、重要なピースとなり得るんだ」


(度来さんがこれから何をしようとしているのか、俺には分からないぞ? なかじーは何となく察してるみたいだし、俺が馬鹿なだけなのか......)


「今から三人で、記者の細田に接触する」


「今日、休日だよな。どこにいるか分かるのか?」 


「仲地、大丈夫だ。行動パターンは調べてあるから、手元のネタで脅して、更に明確な証拠を引き出す」


「えっ、リスクが高くないですか?」


「有動君の言う通り、やや危険だ。しかし、数人がかりで囲めば、相手も萎縮するだろうし、僕の読みでは、彼は臆病で気弱なタイプだ」 


(確かに、会話を聞いた感じ、ビビりまくってたな。) 


「分かりました。なかじー、度来さん、協力して頑張ろう!」


『もちろんだ。』


 日が沈みかけた頃。度来、心紬、仲地の三人は、細田に接触する。 


「少し、お時間よろしいですか?」


「いえ、自分は、知らない人と話す事なんて、ありません」


「なるほど......でしたら、今ここで、貴方の重大な秘密を街行く人に暴露しても良いのですか?」


「えっ、何を言っているのか分かりません。言いがかりはよして下さい」


「それじゃあ、僕からヒントを差し上げます。社長、スクープ、報酬、後は......」


「ひっ、やめて下さい。従いますから、それだけは......」


「良い返事だ。二人とも、この人を車まで案内して」 


「分かった。みっつー、行こう」 


「あぁ、そうだな」


(いくら相手が気弱だとしても、数回の会話だけで、ここまでスムーズに誘導出来るものなのか? 改めて、度来さんが凄い人だと実感したよ) 


 それから四人は、仲地が運転する車で、度来の事務所までやって来た。


「それじゃあ、本題なんだけど、記事にある写真を撮影した当日のことを教えて」


「いや、流石の自分でも、そう簡単にはバラせないです」


「これを聞いても、未だ悠長なことを言ってられるかな?」


 度来は、昨日録音した会話を細田に聞かせる。すると、彼は観念したかのように、真相を告白する。


「......認めます。自分は、娘の治療費の為に、社長の命令に従って、白鳥さんを始めとしたアイドルの方を陥れるような記事を作成しました」   


(こいつの、この男のせいで、ほなみんや他の子が苦しんで......けど、堪えないと。俺が声を出したら、証拠集めの妨げになる。度来さんの合図が出るまでは、拳を握りしめて、歯軋りをしてでも、耐えるんだ。)


「なるほど、権内社長から貰っていたものは、金銭だったのか。」


「はい。履歴が残らないように、社長が自分に手渡しで......」


「そう、分かった。じゃあ次は、写真を撮影した当日のことを教えて」


「えっと、今回は少々特殊で、現場を撮影する直前の打ち合わせに、小野寺おのでら結衣ゆいさんが同席していたんです」


        『はっ?』


                 続く

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