第38話◇嵐のような解決◇

 小雪こゆきの家の周りをウロついていたクッソ怪しい男を捕まえた。

 それも二人。


 とりあえず締め上げたら小雪こゆきのストーカーである事が発覚。


 思った通り、これってゲーム後半に起こる身バレ事件の流れに似てる感じがするな。


 だけどあれはもっと大規模だったが。



 やはりゲーム内で起こるイベントが順不同に前倒しになっている感じがするな。

  

 初音はつねの時もそうだったし、今回もゲーム内イベントの知識があって助かった。


 家の周りをウロついていた2人の男。

 小雪こゆきの家を特定して眺めていたらしい。


 特に彼女に危害を加えるつもりはなく、遠くから見ているだけだったとかほざいているが、そんなものはいつ欲望が発展して異常行動に移るか分かったものではない。

 

 人の欲望とは拡大するものだ。そのうち満足できなくなって実際の事件に発展するなんてザラにある。


 そして俺の知識通りであるなら、この二人はそれを実行する未来もあったはずなのだ。


「とりあえずそこに座れやお前ら」


 ビクつく男達をアスファルトに正座させ、並べて写メを撮って彩葉いろはに送る。


 すぐに返事が返ってくると、やはり小雪こゆきはつけ回されていることを悩んでいたそうだ。


 俺の知識があっていればこいつらは学園生だったはず。


「お前ら、学園の生徒だな」


 ビクリと反応する2人。当たりだな。


「学生証か身分証出せ」

「も、持ってません」

「あ?」

「ひっ」


 この期に及んで誤魔化そうとするとは。情状酌量の余地がなくなっていくことがわからんのかね。まあ初めから容赦するつもりもないが。


 俺にはコイツらを許すことができない個人的な事情がある。


 小雪こゆきのバッドエンドの一つだ。

 秋頃になると好感度が低い順にランダムでバッドエンドが発動する仕組みになっている【花咲く季節と桜色の乙女】というゲーム。


 時期がバラバラなのでいつ起こるか分からないため、フラグ管理が大事になる。


 とはいえ、ルート以外のヒロインはどうやっても最低一人はフェイドアウトしてしまうのでどうしようと防ぎようがないのだが。


 小雪こゆきのバッドエンドは、秋頃に雪峰ちるるの正体がバレ、それをSNSで拡散されてしまう。


 ちょうど両親が海外出張でいなくなってしまうタイミングで、今回のようなストーカー被害にも悩まされるようになる。


 詳しく描写はされないが、配信中に主人公のペンネームである「楽太郎」を「ラクトお兄ちゃん」と呼んでしまい、主人公にその正体がばれる。


 それで終われば良かったのだが、運悪く学園で小雪こゆきと主人公の関係を知っているキモオタがリスナーにおり、彼女のストーカーへと変貌していくというものだ。


 まさに目の前のこいつらのことだな。


 正規の攻略ルートだと、主人公が機転を利かせてストーカーを撃退することで事なきを得て、身バレ炎上騒ぎも小雪こゆき自身が隠れることなくファンの人達に訴えかけることで、かえって人気が高まるという怪我の功名的なイベントとして処理される。


 だがバッドエンドルートの場合、直接表現はされないものの、 小雪こゆきはある時期を境に入院し、恐らく死亡している。


 そしてストーリーテキストの中で「怪我をして入院」というフレーズがある。


 病弱設定の小雪こゆきが、わざわざ体調不良ではなく「怪我」によって入院する。


 しかも、ストーカーに悩まされる時期のイベントの後でだ。

 このストーカー関連の事案は攻略ルートに入っていないと解決する描写はない。



 つまり、バッドエンドルートに入った小雪こゆきは、恐らくこいつらにレイプされ、そのショックで心身が弱り、入院先で死んでしまう。


 これを実際に表現したエロ同人も存在するし、設定資料や脚本家インタビューからそのような裏設定を考察している人もいた。


「どうしても出せねぇって?」

「だ、だから、持ってないですから」


「それならそれでいいが、次に俺が見かけた時にどうなると思う?」

「ひぃい、だ、出しますッ、出しますからっ」


 1人が従うともう一人も連鎖的に同じ反応をし始める。


「よし、それとスマホ出せ」


 こういうやからは大体隠し撮りとかもしてる筈だ。

 案の定スマホからは小雪こゆきの登校中の姿を隠し撮りしている写真が大量にでてきた。


 しかも学園内での隠し撮り。色んな女子学生のパンチラ写真も出てきた。



「なるほど」


 太った男とガリメガネの男。2人とも程度の違いはあれど隠し撮りストーカーだったので余罪の追求が必要だな。


 しかもなんだ? ちるるのSNSアカウントのDMに自分の下半身の写真送りつけてやがった。


 これ、普通に性犯罪じゃねぇの? まあ、今の段階で通報したところで大した罪にはなるまい。


 恐らくもともと小雪こゆきをつけ回していたのだろう。

 それがある時になってVTuberである事を知り、自宅付近までやってきた。


 であるなら、今後二度とこんなことをしないように徹底的に【分かって】もらう必要があるな。


「よし、今からお前らの家にいくぞ」

「そ、それはどういう?」

「他にも隠し撮りがあるかもしれんだろ。それにクラウドに保存されたデータもあるだろうし、DVDに焼いてネットショップにでも売りに出している可能性もある。そういうの全部出せ」


「「ひっ、ひぃいいいっ」」


 ……


 さて、1日がかりだったが2人の自宅におもむいて証拠となりそうな物品を可能な限り、思いつく限り押さえておいた。


 まあ自宅に行ったからといって全てを差し出すとは思えん。


 むしろこういう陰湿いんしつな奴は後で復讐のために手段を残しておくものだと踏んだ俺は、全部終わった後にこう告げておいた。


「これでいつでも遊びに来られるなぁ。ご両親にも挨拶できるし」


 自宅を押さえられている事と、己の悪行を親や警察にいつでもバラすことができると言うことを理解してもらうためだ。


 ついでに二人とも裸にひん剥いて大股開きアヘ顔ダブルピースのポーズで写メを撮っておいた。もちろん顔写真の入った学生証を胸の前に掲げてだ。


 普通にグロ画像なので目に付かないファイルの奥底にしまっておくことにする。


 他にも色々と黙らせる為の策を講じておいたが、面倒なので割愛しよう。


◇◇◇


 全部終わったことを報告すると、彩葉いろはを通じて小雪こゆきがお礼をしたいからと、次の日の学園終わりに自宅に招待された。


「あ、あの、霧島先輩っ」


 小雪こゆき宅に向かおうという放課後、帰り際の廊下で優奈ゆうなが声を掛けてきた。


「やあ、佐藤さんか」

「はい。佐藤優奈ゆうなです。あの、小雪こゆきを、幼馴染みを助けてくれてありがとうございますっ」

「いや、ほとんど偶然の産物だから気にしなくていい」

 

 実際はゲーム知識を活かしてイベントを先回りした結果なので、偶然という言葉は当てはまらない。


 これが小雪こゆきのストーカーイベントの先取りだと気が付いたのは偶然だが。


 それにちょっと毛色も違った。本来は顔バレや身バレまでして、それを拡散されてしまう。今回はそれもなかった。


「それでも、私達、怖くて何も思いつかなくて……」

「仕方ないさ。だけど白峰さんを守ろうと必死に頑張ったんだろ。友達思いなんだな」


「ぁ……」


 思わずスッと手を差し出し、優奈ゆうなの頭をクシクシと撫でてしまう。


 彼女は抵抗することなく受け入れて微かに声を漏らす。


「ぁう……ふにゃ……♡」

「っと、すまん、思わず。子供扱いしたわけじゃないからね」

「ぁ、は、はい。大丈夫です」


 頬が赤く染まり、ぼんやりと俺の顔を見つめる彼女の瞳に、例のハートマークが浮かび上がってパスが繋がったのが分かる。


(お。おおおっ、マジか! 優奈ゆうなとパスが繋がった)


 こんな簡単にっ⁉

 予想外の幸運に口元がニヤつきそうになる。


「おーおー? 優奈ゆうなちゃんってばメスの顔になってますぞ☆」


 彩葉いろはのからかいに顔が真っ赤になる優奈ゆうな。 でもマジでそういう感じの顔になっている。


「め、メスの顔って何ですかッ。そんな顔してないもん」

「ははは、すまんすまん。こういうのは恋人くらいに昇格しないとやっちゃいけないよな」

「で、でも、霧島先輩って、なんだかお兄ちゃんみたいで、嫌じゃ、なかったです。あの、良ければ優奈ゆうなって、呼んでくれませんか?」

「ん? 構わないよ。優奈ゆうなちゃんでいいか?」

「い、いえ、優奈ゆうなで大丈夫です。先輩ですし」

「いいのか? 知り合って間もないのに」

「はい、大丈夫です。むしろそうしてもらった方が、私的にしっくりくるんです」

「そうか。そこまでいうなら遠慮なく優奈ゆうなと呼ばせてもらうかな」


 頭クシクシの時点で優奈ゆうなとパスが繋がった。

 メインヒロインの俺への好感度が爆上がりしていることに驚きを隠せない。


 彼女はゲーム内において非常に攻略が難しい。

 というのも、幼馴染みという関係性上、自分の抱いている感情が恋であることに気が付きにくいからだ。


 それがどうだろう。頼りになるちょっと悪めの先輩、という条件に変わった途端にこのチョロさだ。


 そういえば主人公のことをずっと「手の掛かる弟」みたいに思ってる描写が沢山あったな。


 もしかしたらお兄ちゃんが欲しかったのかもしれない。


 子供みたいな性格の主人公と突然現われた頼れる年上。

 優奈ゆうなは案外こういうのに弱いのか……?


 なんだか本当に自分が寝取られモノの同人誌に出てくるチャラ男みたいだ。

 優奈ゆうなの心は急速に俺へと傾いている。イージーすぎてビックリするくらいだぜ。


 昨日の主人公の暴走のこともあって、心の拠り所を求めていたのかもしれない。


 だってああいう事件の場合、真っ先に頼るのは主人公の筈だ。


 だけど現実はあの始末だ。まだ攻略前の小雪こゆきですら選択肢から外していたのだから、俺にとっては非常に幸運だったと言える。


 だってもしもあれが本当にゲームのイベントだったら、先日の現象と同じように俺が介入することは難しかっただろう。


 ◇◇◇


「あ、あの。改めて、ありがと、でした……、霧島、先輩」


 小雪こゆきの家に招待された俺は、優奈ゆうなと共に再びこの家にやってきた。


 初音はつねは家の手伝い。彩葉いろははバイトがあるので来られないとのことなので、俺、優奈ゆうな小雪こゆきの三人で改めて話すことになる。


 緊張しつつも辿々しく言葉を紡ぎながらお礼を言う小雪こゆき

 オドオドしているが、俺に対する恐怖はなくなっているようだ。


 むしろ恥ずかしくて言葉が出てこない感じが可愛いな。

 顔を赤くしてモジモジしているから間違いないだろう。


「大事にならなくてよかったよ。今後も同じ事が起こるかもしれないから気を付けてね」

「はい、気を付けます」


「しかし、君がちるるちゃんだったのには驚いたな」

「えっと、見てくれたんですか?」


(おっ、これは……)


「前に偶然切り抜きを見たことがあってね。正直興味のあるジャンルではなかったけど毎日見るようになったよ」

「ほ、本当ですかっ。嬉しいですっ!」


 さて、ここまでゲームにはなかった流れだが、なんと小雪こゆきのパスも動画のことを話した瞬間に繋がった。


 彼女の好感度が一定以上まで上がった証拠だろうから、ここから小雪こゆき――あわよくば優奈ゆうなまで纏めていただいてしまうとしよう。


「VTuberの配信ってどんな風にやってんだ? よければ見せてくれないか?」

「はい、大丈夫、です」


 ここに彩葉いろはがいたら、『亮君ってばお礼にかこつけて女の子の部屋に入ろうとしてるー』とか言われそうだな。


 さて、ここでエロ同人を発動。【催淫】を始めとしたエロいことに抵抗をなくしていくスキルによって普通ではない空間へと変貌する。


 今日はどこまで持ち込めるか分からないが、最後まで行ってしまえば制限時間は関係なくなる。


 さーて、頼むぜ妖精さん。


『リクエストにお応えしてボーナスターイム♡』

 

 キタコレッ


『君たち皆VTuber! エッチな衣装でペロペロ体験♡』


 またぞろエロ親父みたいなタイトルだ。最高かよ。

 妖精さんのチートタイムが発動し、何やら不思議な空間に変わったことを理解した。


 他の皆は特に反応を示していない。恐らくそれを理解しているのは俺一人だろう。

 

 さて、今回はどんな展開になるのかな。

 

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