第29話◇ラッキーちゃーんす☆再び◇

「た、助けてください~~」


 壁から初音はつねの尻が生えている。


 文字通りだ。体力測定が終わり、さあ教室に戻るかと思った矢先、誰もいなくなった廊下の片隅で壁から生えた初音はつねの尻を発見したのである。


 何を言っているか分からんだろう? 俺も分からん。


 現実のそれよりも布地面積の少ない赤いブルマ。


 尻の肉がたっぷりとはみ出して藻掻く初音はつねの呻き声と共にぷるんぷるんと揺れているではないか。


「何がどうしてこうなった?」

「だ、誰かいるんですか? た、助けてください~」

「あ~、桃園ももぞの、俺だ。霧島だ」

「き、霧島君ッ? た、助けてッ、助けてくださいッ。挟まって抜けないんですぅ」


 状況は非常にシンプルだが事情は複雑だ。


 壁から生えた尻。一見すると何かに挟まっているのかと思ったのだが、初音はつねの尻は文字通り壁から生えているのである。


 まるでエロ同人によくある『壁尻』だ。


 不思議なのは壁の周りには突き破ったようなひび割れや隙間などは一切ない。


 綺麗なコンクリートの壁に初音はつねの身体が埋め込まれているような状態だ。


 妖精さんめ、とうとう物理法則まで無視してくるとは、

 もはや何でもありだな。いや、まあ始めからそうか。


桃園ももぞの、色々聞きたいことはあるが、とりあえず身体は無事か? どこか痛い所はあるか?」

「い、痛い所はないですけどぉ。埋まっている場所がちょっとだけ苦しいですぅ」


 とりあえず死ぬような状態では無さそうだ。


 壁の向こうは無人の教室なので人から見られる心配はない。

 俺は扉から入って初音はつねの顔が見える位置に移動する。


 幸いにして扉にほど近い場所に埋まっていたので移動はさほど面倒ではない。


「大丈夫か?」

「ぁ、き、霧島君……これ、どうしたら良いんでしょうか?」

「うーむ。一体何がどうしてこうなってしまったのか?」

「わ、分かんないですぅ。転んだ拍子に壁を突き抜けて、気が付いたらこんな状態にぃ」

「なるほど、分からんな」

「はぅぅ」

「こんな状態じゃ人を呼ぶわけにもいかないな」

「は、はい……は、恥ずかしいですぅ」

「見つかったのが俺で良かったな。とりあえず引っ張ってみるか」


 まったく。見つかったのが俺で本当に良かった。

 俺のような超紳士的な人間でなければそのままエロ同人展開まっしぐらだったぞ。


 よし、とりあえず助けるフリをして胸を触ろう。

 尻からいこうとも思ったが、まずは初音にこの状況を常識にする暗示をかけないとな。


 このまま触ったんじゃただの変態だ。手順を間違えちゃいかんぜ。


「お、お願いしますぅ」

「あれ? 引っ張ろうにも、手はどこだ?」

「あ、あの、壁の向こう……お、お尻の方にあります」


 そういえばそうだった。壁から生えた尻の脇には初音はつねの白魚のような手があった。


「よし、とりあえず身体を引っ張ってみるか。すまんが脇に手を入れるが、構わないか?」

「うう、は、はい。緊急事態ですし、だ、大丈夫です」


 【警戒心解除】と【危機感緩和】のおかげで俺に対する忌避感はないようにみえる。

 

 とりあえず不安気に目が泳いでいる初音はつねを安心させるため、正面には立たずに脇に座り込んだ。


「大丈夫だ桃園。俺が必ず助けてやるかな」

「は、はい……ありがとうございます」


 涙目で助けを求める美少女というのは思わずグッときてしまうな。


 勿論、これが妖精さんのもたらしたラッキーちゃーんす☆なのは間違いないので、単純に助けるだけでは終わらない。

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