第28話◇古き良き体操着◇

 その日は三年生全クラス合同の体力測定があった。


 男子生徒は女子の着替えスペース確保の為に廊下に出ていくことになるのだが……。


 そこでまたぞろあの大声を聞く事になった。


『妖精さんのご都合により、世界の常識を改変させていただきまーす☆』


「はあ?」

「ど、どうしたの、霧島君?」


 クラスメートの男子がビクつきながら驚きの声を上げる。


「ぁ、いや、悪い、なんでもない」


 その瞬間に景色が一瞬だけ色が反転したような感じになり、すぐに収まった。


(なんだったんだ? 今回は何が起こった?)


 妖精さんの事だからきっとヒロイン関連のことなんだろうが、今回はいつもと少し言い方の種類が違ったような……。

 

(妖精さんのご都合ってどういう……えッ⁉)


 考えを巡らせているヒマもなく、その答えは直ぐに目の前にやってきた。


「お、おおおっ⁉」

「ど、どうしたの、霧島君」

「え、いやだって、お前、アレ」


 名前も覚えていないクラスメートの男子に気を遣う余裕もなく、目の前の光景は俺の口をアワアワとさせてしまう。


「え?え? どうしたの?」

「あれ、お前、あの体操着って」

「え? 女子の体操着がどうしたの? だよね」


 ブルマである。それは今を遡ること数十年前に絶滅したと言われている伝説の女子体操着、ブルマというものであった。


(実物は初めて見た……っていうか、ゲームにもそんな設定なかったぞ?)


 ゲーム内の体操着姿は白いシャツと青のハーフパンツだった筈だ。


 エロゲーとかだと普通にブルマってのはあるが、さくさくは全年齢向けだけあってエロい体操着などというものは存在しなかった。


 体力測定は体育館組と校庭組の二つに分かれ、それぞれの項目を終わらせてから移動する仕組みになっている。


 運良く彩葉いろは初音はつねと同じグループになることができ、彼女達のブルマ姿という貴重なショットを拝むことができた。


 もしやこれは妖精さんの趣味なんだろうか? 非常に眼福である。


 季節は暖かくなり始めた頃と言うこともあって、ジャージを上から履いている人もいなかった。


 学年全体の女子達全員がブルマを着用しており、この新しい時代に古き良き文化が蘇った素晴らしい光景だった。


(うーむ、初音はつねのおっぱいはブルマ姿だと非常に映えるな。しかもヘソ出しルック。ムラムラしてくるな。体育倉庫閉じ込められイベントとか起こらないかな)


「やっほー亮君ッ☆ 格好いい所見せてよね♪」

「お、おお。頑張るぜ……」

「あ、あの……私に何か付いてますか?」


 彩葉いろはに話しかけられても上の空で答えてしまう。

 

「あ~。私達の体操着姿に見とれてるな~」

「お、おう。二人とも美少女だからな」

「やだもーっ、亮君の正直者~♡」


「い、彩葉いろはちゃん、私、恥ずかしい」


 どうやら彼女達の中でもこの格好は以前からの当たり前という認識になっているらしい。


 しかもどういうわけか、初音はつね彩葉いろはも靴下ではなくニーハイソックスという出で立ちだった。


(ブルマにニーハイ。実に有りだな)


 思わずそんな本音が声に出そうになる。ブルマというのはほとんど下着のような形をしている。


 しかも、どういうわけか実在のブルマよりも布面積が非常に小さく、ハイレグ染みた食い込みによって際どい素肌が見えそうになっている。


(下着とかどうなってるんだろ? 強制的にTバックに変更されてるのか?)


 更にはシャツも若干短いヘソ出しルック。たまらんな。完全にエロゲーのそれだ。


 周りを見れば女子の格好全部がそれであり、誰一人その格好に異を唱える者はいない。恥ずかしがっている人はいるようだが、それが当たり前なので受け入れている様子だった。


 中でも初音はつねは肉々しい体付きのせいで異性からの注目度が異次元である。

 

 確かゲームでも体操着のヒロインに欲情する描写はあったが、あれは秋の体育祭における初音はつねのおっぱいに対する言及だった筈だ。


「亮君がんばってー♡」


 そんなこんなで体力測定が始まり、それぞれの項目を淡々とこなす時間を過ごしていく。


 まずは100メートル走に始まり、鉄棒による懸垂の回数、握力、立ち幅跳び。すべてトップの記録を叩き出す。


 この身体めちゃくちゃ体力あるな。見た目はゴリマッチョなだけあって力も強い。


 ソフトボール投げやなんかでも凄まじい記録を連発し、これは流石に異常だと思い至る。


(もしかして、【絶倫帝王】でバイタリティーが爆上がりして体力や筋力も影響受けてるとか?)


 そうとしか考えられない。身体の筋肉の充実具合は転生に目覚めた日より密度が高い気がする。


 ひょっとしたら女の子の攻略数とかが関係してくるのかも……。


 ◇◇◇


「きゃー♡ 亮君格好いい~♡」

 

 測定競技で記録を出す度に彩葉いろはが騒ぐもんだから、女子達からの注目が徐々に増してきている。


 借り物の肉体とはいえ、女の子から黄色い声を上げられるのは案外いいものだ。


「チッ……霧島の野郎、調子に乗ってやがるな」


 しかしやっかみの声も聞こえてくる。面と向かって絡む奴は流石にいないが、急に髪を黒く染めて真面目になろうとしやがる、みたいな種類の声は聞こえてくる。


 恐らく今までコイツに迷惑をかけられていた奴もいるだろう。


 トラブルに巻き込まれないように気を付けないとな。


『突然ですがラッキーちゃーんす☆!!!!!!』


「どわッ⁉」


 走り幅跳びで踏み切ろうとした瞬間に凄まじい大音響が頭の中で反響し、バランスを崩してひっくり返ってしまった。


 ザワッ


 ドッッスゥウウンッ!


「クソッタレ。大声出さないと死ぬ病気にでもかかってんのか。おーイテテ」


 耳元にメガホンを当てられたような大声を出されて思わず声が出てしまう。


 最近は油断しないように声を出さない心構えだったのに、見透かしたように更にデカい声で脅かしてきやがった。


「りょ、亮君、どうしたの?」

「いや悪い。なんでもないんだ。ちょっとバランス崩しただけ」


 心配した彩葉いろはが駆け寄ってきてくれた。

 こいつって結構甲斐甲斐しいんだな。俺自身の部分より、霧島亮二の部分が喜んでいる。


 彩葉いろはと一緒に駆け寄ってきた初音はつねも心配してくれる。


 と、ここで先ほどのラッキーちゃーんす☆のことが頭をよぎる。


 以前もこのイベントは初音はつねの時に起こった。

 と言うことは、今回もそれが起こったとみて良さそうだ。


 妖精さん、もしかして初音はつねがお気に入りなのか?


 ラッキーちゃーんす☆と言うことは何が起こるのかは自分で探さないといけない。

 しかし今回は目の前に初音はつねがいることで俺自身が初音はつねをターゲットに定めることにした。



 体力測定は午後の授業目一杯の時間を使って行なわれる。

 校庭での項目が終わり、俺達のグループは体育館に移動することになった。


 そこでの出来事は校庭の時と大差ないので割愛しよう。


 俺としては早くブルマ姿の初音はつねとドスケベ行為に耽りたかった。


 そして……


「ハア?」

「た、助けてください~~」


 壁から尻を生やした初音はつねのブルマ姿がそこにあった。


 ……ナニコレ?

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