第13話◇思わぬ課題◇

「亮君、今日は帰ったらお夕飯の前にお部屋の掃除しよっか」

「すっかりお嫁さんだな。じゃあ一緒にやるか」

「うん♪ そうだね♪」


 俺としてもあの半ゴミ屋敷状態は早めに解消したい所だったので丁度良い。


 虫でも出てきそうだし、女を連れ込むのに適した衛生環境ではないからな。


 いっそのこと引っ越しできればいいのだが、そんな金の余裕もないし、早い段階でなんとかしないと。


 解決する方法には2つ心当たりがある。


 一つはサブヒロインの金持ちお嬢様。取り込めば経済的な問題はほぼ解決する。


 もう一つはヒロインの一人に高級マンションで一人暮らしをしている女がいるはずだ。


 この段階だとまだ登場していない。彼女の登場は5月に入ってからだ。


 実はそいつは隠しヒロインとして、全員のエンディングを見た後に攻略キャラクターとして登場する。

 

 それまでは5月の冒頭に引っ越してきたことが示唆され、サブヒロインとしてちょこちょこ物語に顔を出すものの、ほとんど登場しない。


 まあ彼女のことはその時が来たらゆっくり語るとしよう。


 彩葉いろはと楽しく駄弁だべりながら進む電車は学園との中間の駅に停車する。


 ここは俺にとって、前世の俺にとって非常に馴染み深い名前の駅だ。


 到着した電車の扉が開き、見知った顔が入ってくるのが見える。


(お。主人公ご一行のご到着か)


 一段と目立つ美少女四人とその他一人の男。


 言わずと知れたヒロイン達と主人公だ。


「私、行かなきゃ……」

「え?」


 すると、彩葉いろはのもっている空気が変わり、五人の方に駆け寄っていくではないか。


彩葉いろは初音はつねッ、おはよう」

初音はつね「おはよう彩葉いろはちゃん……」


優奈ゆうな「あ、おはようございます鬼沢先輩」

彩葉いろは彩葉いろはでいいって言ってるじゃん後輩ッ♪ おっぱい揉まれたいかぁ?」

優奈ゆうな「や、やめてくださいよぉ、分かりました、彩葉いろは先輩」


彩葉いろは「お、小雪こゆきのお嬢ちゃんもおはよう。今日は元気そうだね」

小雪こゆき「おはよう、彩葉いろはお姉ちゃん。今日は体調が良いの」


彩葉いろは「そっかそっか。それは何よりだよ。お、格闘娘はなんだか顔色がいいね。何か良いことあった?」

舞佳まいか「いやぁ、それがですねぇ、もの凄く幸せな夢を見たはずなんですが、どんな内容だったか忘れてしまいまして」

彩葉いろは「あっははは。相変わらずだねぇ君は。それと、モテモテボーイは今日も元気そうだねッ」


※主人公「モテてませんから。俺はいつも通りですよ彩葉いろは先輩」



 いきなり始まった怒濤の会話。まるでそこに俺がいなくなったかのように、彩葉いろはの人格が豹変したとすら錯覚する変わりよう。


 だが一瞬の驚きの後に、頭の中で蘇ってきた記憶で納得がいった。


 そうだ。これはゲームの序盤で繰り広げられる会話だ。


 ゲームだと一画面に登場人物が多すぎてテキストだと整理が大変なので、立ち絵と共に名前が表示される。



彩葉いろは「それにしてもモテボーイの幼馴染みは美少女揃いだ。初音はつねだけでもこっちによこし給えよ少年ッ」

※主人公「いやいや、初姉はつねえは渡しませんよ。それにモノじゃありませんからね」


彩葉いろは「釣れないなぁ。いや、連れないなぁ。このおっぱいは全ての人類の宝なんだぞう。皆でシェアして然るべきだろうに」

※主人公「ほほう。ではその理論でいくなら彩葉いろは先輩のおっぱいも全人類でシェアするもの。つまり俺が触ってもいいというフリですね分かります」


彩葉いろは「うにゃっ! そ、そんな訳ないじゃないっ! 女の子に対してセクハラだぞ少年ッ」

※主人公「昨今は女性にもセクハラが適用されるとご存じないのですか?」


彩葉いろは「私は女の子同士だからいいんだよっ!」

※主人公「横暴だッ!」


優奈ゆうな「ねえ二人とも、電車の中で騒いじゃダメだよ。周りの迷惑だから」


 なんて会話がラリーのように続いていく。


 しばらく眺めていたが、会話に入り込む隙間が存在しない。

 やはりこの世界はゲームなのだ。目の前の会話に割って入ろうという気がまったく起こらなかった。


 いや、できなかったと言う方が正しい。


 これは、思ったより由々しき問題かもしれない。

 ゲームの会話に入れないということは、イベントや好感度変動に介入できないことを意味してしまう。


 イージーモードかと思われたゲーム転生にも、思わぬ落とし穴というか、課題が存在したことを知らしめられた。

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