第2話◇とりあえず現状把握とヒロインに会ってみた◇

 俺は日付を確認して今日がゲームでどの辺りなのか確認した。


 『さくさく』は2年生4月の新学期から、年を明けて桜咲く次年度3月末までの期間が描かれる。


「今は4月後半に入った所……と言うことはゲーム冒頭か」


 というか……。


霧島きりしま亮二りょうじって学園生だったのか」


 主人公と同じ学園に通う生徒だったのは予想外だった。

 圧倒的不良のオーラ満載なので道行く人々が避ける避ける。


 どうやらこの男、母子家庭に育った不遇の身であり、父親が若い女と蒸発。


 母親もスナック勤めではあるが、客でもある彼氏のところに入り浸って碌に家に帰って来ない。


 一見するとグレても仕方なさそうに見えるが、亮二りょうじ亮二りょうじで一人なのをいい事に家に女を連れ込んではよろしくやっている事が多々あったらしいので、あまり同情はできなかった。


「お……?」


 自分の記憶と状況をぼんやりしながら考えていると、教室の窓の外から何やら騒がしい声が聞こえてきた。


 ザワ……


 人々の注目する声が聞こえてくる。

 そこには一際目を引く集団がこちらに歩いてくるではないか。


(おおおおっ、あれは……)


「まったくぅ。ラクトって昔からちゃんと起きないよね。わざとやってる?」

「んなわけあるか。悪かったっていってるじゃねぇか」

「毎朝起こしてあげてるこっちの身にもなってほしいわね」


 ハーフアップのロングヘア。桜色の髪に花柄のリボンアクセサリーを付けた可憐な美少女。


 ゲームのタイトルを象徴する可憐さを表した鮮やかなピンク色だ。

 華奢な肩から伸びる全体的に細い体に特徴的な胸部の膨らみ。

 全体的にバランスの取れた女らしいプロポーションが眩しい。


『佐藤 優奈ゆうな


 「花咲く季節と桜色の乙女」におけるメインヒロインだ。

 主人公とは幼稚園からの幼馴染み。


 品行方正で真面目。学園のアイドルであり、男子にも女子にも高い人気を誇る美少女。


 料理上手で面倒見が良く、寝ぼすけでズボラな主人公を何かと気にかけ、毎朝起こしに部屋までやってくるほどの仲だ。


 使い古され設定ではあるが、王道中の王道を行く最強のヒロインだ。


(しかもあれは……)


「いやはやぁ。らっ君の寝起きの悪さは筋金入りですからねぇ。幼馴染みに甘えて起こしてもらえるのを楽しみにしてるんでしょうよ」

「バカ言ってんじゃねぇっ。好きで寝起きが悪い訳あるかってのっ」

「あんまり寝てばかりだと頭がパーになりますよ」

舞佳まいかにだけは言われたくねぇなぁ。胸と頭の成長が中学校で止まってる舞佳にはぁ」

「むきーーっ、おっぱいは関係ないじゃないですか!」

「イテッ、蹴りはよせよ、蹴りはっ」


 健康的な足が覗くミニスカートがヒラヒラと舞い踊っている美少女。

 はつらつとした足取りと、ピコピコと揺れる鮮やかなライトグリーン色のポニーテールの可愛らしさのバランスは神懸かっている。


『宮坂 舞佳まいか

 

 近所の格闘ジムの跡取り娘。主人公に思いを寄せており、照れ隠しにお見舞いされるハイキックは、ひらりと舞い上がるスカートから覗くパンチラショットと共にゲームの名物となっている(全年齢なので当然見えない角度だが)。


「お兄ちゃん……いつも優奈ゆうなお姉ちゃんの朝ご飯食べられて、羨ましい……」

「それならいっその事うちに住むか? 小雪なら大歓迎だ」

「はうぅ……お兄ちゃん、いいの?」

「おおいいぞ。お前は妹みたいなもんだからな」

「……ぷぅ……また妹扱い」


白峰しらみね 小雪こゆき

 

 アルビノカラーの薄幸美少女。

 そんな言葉が似合う小柄でか細い女の子が主人公の後ろをピタリとくっ付くように歩いて、淡雪のような白銀色の髪を揺らしている。

 

 去年の夏祭りに主人公に買ってもらったヘアゴムを大事に使っており、髪を結わえてツーサイドアップにしていた。


 体があまり丈夫ではなく、入退院を繰り返しているせいもあってか、周りと比べて成長が遅いのが悩みの女の子だ。


 実は人見知り克服のために始めたインターネット配信が大成功しており、VTuberとして大人気になっているのだが、それが発覚するのはゲーム後半になってからだ。


「ほ、ほら、らく君はおおらかだからぁ。でも毎朝優奈ゆうなちゃんを困らせちゃダメだよ」

「それなら初姉はつねえが起こしにきてくれたら幾らでも起きられるのになぁ」

「も、もうっ、らく君ったらそうやった直ぐに私のことからかってぇ。怒るからねっ、ぷんぷん」


 おどおどした態度と軽い猫背はコンプレックスを隠す為。


 優しげに垂れ下がった目尻、ぷるんと柔らかそうな唇。

 華奢な肩、細い腰のくびれ、相反するようにむっちりとした太もも。


 そして彼女を象徴する大いなる果実。驚きの105㎝(Lカップ)の大爆乳は、制服の前ボタンを左右にギチギチと引っ張るパツパツ描写がエロい。


 その誰もが目を引く爆乳と、エロスを凝縮したようなピンク色の髪と白いヘアリボンが特徴の美少女。


 一人だけエロゲの世界から迷い込んで来たのでは? と言われる淫乱ピンクと名高いオドオドお姉さん。

 それが彼女『桃園ももぞの 初音はつね』である。


 ピンク色の髪であることから、彼女こそメインヒロインだというファンもいるほど人気が高い。


 メインヒロインの優奈ゆうなと髪色がやや被っているのには秘密があるのだが、実は元が姉妹だったからって死に設定のせいだ。


(およっ、鬼沢おにさわ 彩葉いろはじゃねぇか)


「おうおう少年。あんま皆を困らせるなよぉ。モテるのも今のうちだけだぞ」

彩葉いろは先輩に言われても説得力ないなぁ」


 初音はつねの親友である鬼沢彩葉おにさわいろは

 飄々ひょうひょうとした態度だが皆のまとめ役をするしっかり者。


 面倒見が良くて良い女なんだが、残念ながら彼女は攻略キャラではない。

 

 ギャル風のメイクと赤い髪が特徴の今っぽい感じの風貌は、さくさくヒロインの中では少々異色だ。


(さくさくのヒロインそろい踏みじゃねぇか。感動的だな)


 現実の世界において白やピンクの髪色は文字通り色物である筈なのに、見事なまでに景色に溶け込んで違和感なくそこにいる。


 それがゲームの世界が現実になったことを証左しているようにすら思える。


(セントヴィーナス学園美少女四天王勢揃い、か……)


 さくさくの攻略ヒロインはこの学園において美少女四天王と呼ばれるほど注目の的となっている。


 ポンチョ風のブレザーとチェック柄のスカートを組み合わせた如何いかにもギャルゲーっぽい制服は、彼女達の魅力を一層引き立てている。


 このゲームは彼女達四人の攻略ヒロイン。五人目の隠しヒロイン。

 そして彩葉いろはを始めとする数々のサブヒロイン達で構成されている。


 学内にいるのは彩葉いろはを含めて二人だけ。


 三年生の校舎から見下ろす校庭には、もう一人の姿も確認できる。


(本当にゲームの中に転生しちまったんだなぁ)


 そしてそんな恵まれた環境にいながら、そのことをまったく自覚していない冴えない男。


 このゲームにおける主人公の姿を、俺は複雑な感情で睨み付けた。

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