第9話
『へっ?』
呼び捨てされたことで混乱しているあたしの目の前に
さっきまでの笑顔は別人のような般若がそこにいて。
「へっ、じゃねーぞ。まお、自分で訂正しろよ。」
くそ~
なんであたしが叱られなきゃいけないんだ
般若顔で
「まお、そこ座ってろ。」
くそ~
なんで般若顔のまま、あたしのレポート、読んでいるんだ?
「まお、ECUは尺側手根伸筋だろっ!尺側手根屈筋はFCUだろっ!」
くそ~
一文字間違えただけじゃんか!
「まお、お前、よだれついてるぞ、レポートに。ないわ~。」
よだれ?!
しまった
「あと、まお、見学、俺につくなよ。邪魔だから。」
そう言い残して、岡崎先生はあたしを置き去りにした。
それにしても完拒否?!
どうしたらいいの?
『・・・・バツ・・ですか・・・』
昨晩、医学英和辞典を片手にしながらできるだけ医学専門用語を用いて徹夜で書き上げたレポート。
細部を添削されることなく、赤ペンで大きくバツをつけられたそのレポートを手元に残されたあたしは呆然とするしかなかった。
「わはは。真緒、そのレポートのバツ、なに?」
『バツだよ、バツ。』
帰宅後、絵里奈に同情されることなく笑われた。
どう書いたらいいのかわからないレポートを。
『絵里奈はレポートどうだった?』
「えっ、これ?」
日本語だらけだった絵里奈のレポートは
仏の松浦先生の手によって細かく赤ペン添削されていた。
しかも“頑張れ!”のエール付きで。
『般若~・・・鬼だ・・・』
今晩もあたしはすやすや眠る絵里奈の隣で
どう書いていいのかわからない的外れかもしれないレポートを書いていた。
実習2日目
般若と仏
バツと頑張れ
親友との格差に溜息をつかずにはいられない
情けない実習2日目の夜は
泣いているのが親友にバレないように枕に顔を突っ伏して嗚咽を堪えた
そんな夜
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