Hiei's eye☆カルテ1:探していたパズルのピース
第7話
『通勤時間帯なのに、こんなにも空いているなんて・・・そういえば今日は日曜日だったんだな。』
自宅マンション近くの早朝の新笠寺駅のホーム。
普段の俺は自家用車で勤務している病院まで通勤しているが、この日に限っては電車を利用。
昨晩、突然現れた名古屋医大の産婦人科教室の三宅教授に、飲みながらゆっくり話でもしようと誘われ、断れなかったからだ。
そのせいで、昨晩は飲酒運転で自宅に戻るわけにも行かず、三宅教授から押し付けられたタクシーチケットをありがたく受け取ってタクシーで帰宅。
お気に入りのブルーメタリックカラーのミニワゴンは病院駐車場に。
『それにしても、三宅教授、相変わらずだった。』
"婿に来いよ・・・家内が経営している病院、君にやるからさ。"としつこく囁かれながら注がれた口当たりのよい新潟の日本酒を飲み干さずにはいられず、少々二日酔い気味。
それでも休めないのが、医師という仕事。
『今日は日曜日で外来(診察)もないし、少しはのんびり仕事できるだろう。』
二日酔いの頭を少しでも目覚めさせる缶コーヒーを買うために、駅のホーム中央にある自動販売機のほうへ歩みを進めた。
婿・・・か・・・
いつもは、”俺はそんな器とかじゃないですから”ってサラリとかわすのに、久しぶりに酒を飲んだせいか、そんなことが未だに頭に残ってしまう
結婚とか真面目に考えたことなかった
これだけ忙しくければ、それが現実味を帯びることなんてない
それにこの忙しさに嫌気が差したりすることもないぐらい、頭の中の大半は仕事で埋め尽くされている
でもなによりも
俺が守りたいのはたったひとつ
仕事で埋め尽くされている頭の中にずっと居座り続ける彼女
・・・・ただそれだけだ
それだけなのに、それがいつまで経っても叶わないのは彼女の消息を未だに掴めていないから
『この世の中、32才ともなると、結婚とか考えなくてはいけないのか?』
溜息をつきながら、切符を購入した時にスラックスのポケットに入れておいたおつりを取り出して、自動販売機の硬貨投入口に入れた。
『やっぱ、無糖だよな。』
微糖コーヒーと間違わないように、もう一度目視で確認して、無糖コーヒーのボタンを押す。
ゴロゴロ・・・ガコン!
もうすぐ電車が来るという駅員のアナウンスと重なる缶コーヒーが自販機内で転げ落ちる音。
朝方は少し寒くなってきたせいか、少しひんやりする手を伸ばして、その缶コーヒーを取り出し口から取り出そうとした瞬間だった。
「危ないですよ!!!!下がって下さい!!!」
慌てた様子を隠そうとしていない駅員の怒鳴り声に思わず辺りを見回す。
駅員の姿を見つけることができないうちに、後ろからどんどん近付いて来る電車の駆動音。
それに引き寄せられるように、ホームの白線の外側へ進もうとする1人の女性の姿。
”列車への飛び込み自殺”
その言葉が俺の頭を過ぎった瞬間。
『・・・・お前・・・・何、やってるんだ!!!!!!』
怒りがぐっとこみ上げた。
電車の乗員、乗客が危険に晒されるかもしれないその無責任な行動に
そして何よりも自らの命を粗末にしようとしているその行動に怒りを堪えることなんてできなかった。
そんな感情が俺の中で湧き上がりながらも、自分の体は前に飛び出していて
気がつけば俺はこの手で彼女の手を強く引き
そして、この腕で彼女を抱きかかえていた。
腕の中で震える彼女。
汚れた彼女の口元をハンカチで拭いながら
その表情に目をやった俺は思わず息を呑んだ。
そして自分の覚醒状態を疑う。
・・・・・これは夢なのか?
それとも
・・・・・現実なのか?
今、自分の腕の中にいるのが
ずっと捜し求めていた彼女だったから。
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