【ノエル編】第1章 第2節:特異点世界の人造天使

【ノエル編】第1章 第2節 第1話:存在しない者

 意識が覚めると、見覚えのある空間にいた。久しぶりな気がするし、つい最近までいたような気もする。なにもない、ただ真っ白いだけの空間。境界だった。

 以前は、グリムがノエルが眠っている間に接触する際、ここを使っていた。眠っている無意識の状態ならば、神に等しい存在ではなかった頃のノエルも、魂だけここに入り込めたという。

 うつろの気配が、ノエルの内側から消えている。あのときと同じように、魂だけがこの空間に入り込んだのだとノエルは直感で理解した。


 しかし、わからないことが一つ。


「誰? あなた」


 目の前にいる、黒いローブを着た誰か。三神教のローブと似ているが、背中を見たわけではないから判別はつかない。

 しかし、認識阻害がかかっているのは、かつてアイコも使っていた三神教のローブと同じようだった。相手が女なのか男なのかすらも、判別できない。


「私は正史の使者」

「正史?」


 声を聞いても、やはりどちらにも感じられる。私という一人称も、女性だけのものではない。


「今日は忠告に来た」

「無視かあ」


 話をしているようで、会話をしていない。そんなむず痒さがノエルの背筋を襲う。


「カイは存在しない」


 正史の使者を名乗る何者かが重々しい口調で告げたのは、突拍子もないことだった。ノエルは不愉快さを隠すこともできず、眉間にシワを寄せる。


「はあ? 意味わからないんだけど」

「正史に彼女は存在しない」

「何なの急に?」

「どの並行世界にも彼女は存在しなかった……あなたの世界を除いて」


 ますます意味がわからない。ノエルは大きく息を吐き、座り込んだ。


「仮にあなたの言葉が真実だとして――」

「気をつけて、虚無に飲まれないで」

「ねえ? お願いだから会話して?」


 眉間に刻まれたシワが、ますます深くなるのを感じ、ノエルは眉間を指でさする。


「真の敵も、神の子もすぐそばに」

「もしもーし? あのー、自分の世界に引きこもらないでくれるかなあ?」


 手を振るも、相手は微動だにしない。まるで見えていないとでも言わんばかりに、何の反応も返さない。ノエルは唇をキュッと結んだ。


「カイは存在しない」

「二度も言わな――」


 言い返そうとした瞬間、目の前の景色がぐらりと揺れた。


 ◇◇◇◇◇◇



 パチパチ、と何かが爆ぜる音に、炎が揺らめくような温かな気配。それらに揺り起こされるように目が覚めると、目の前には談笑する仲間たちがいた。何やらスイを取り囲み、カイとダリアがニヤニヤとしている。スイと話をしていたのだろうか。

 ノエルは、カイの顔を改めて見据える。自分に気づいて呆れたような笑みを浮かべながら、スープの入った器を差し出してくる彼女。スープを受け取るときに触れた手から感じた、確かなぬくもりと存在感。

 彼女は、確かに存在する。ノエルはそう強く思った。


「んー? どしたのー? 私の顔になんかついてる?」

「ああいや、なんでもない、ありがとう」

「変なノエルだなー……もしかしてさっきの力やばかったんじゃ?」

「そうじゃないよ、ただ変な夢見てただけ」


 ただの夢ではない。夢だと言いながら、ノエルはそれを理解していた。

 だが、信じる気にはなれなかった。素性の知れぬ相手の言葉よりも、今目の前にいる仲間を信じたい。そうして頷きながら、ノエルはスープを口に運び、飲み込んだ。


「それで、なんで野営を?」

「夜の竹下はあぶないんだよ!」

「スイがこう言うからさ、あのまま歩いたら着くの夜になりかねないでしょー?」

「なるほどね、ありがとう」


 目の前のスープを見つめる。ポテトと人参とベーコンで作られた、簡素なスープ。あの日、旅に出たときにアイコとルミと食べたのも、同じようなものだった。懐かしさを感じながら、ノエルはスープを一息に飲み込む。


「さて、目的と情報を整理しようか」

「スイもせいりする!」

「私達の最初の目的は、三世界合一の謎の手がかりと世界の緩やかな自壊を防ぐ方法を探ること」

「そんために、こん世界に来たんよね」


 ノエルはスープが入った器を置き、ふうと息を吐いてから一瞬目を閉じる。目を開けて、言葉を待っている仲間たちの顔を見渡した。それから人差し指を立てて、得意げに鼻を鳴らす。


「前者に関しては、ひとつ仮説を立てました」

「なになにー!?」

「なんだろーねー」


 言葉が伸びがちな二人が、顔を見合わせて「ねー」と微笑む。


「モンスター娘と人造天使……凪さんは神々の実験と言ったよね」


 凪の言葉を脳内で反芻する。魔物と悪魔と人間の争いがあった。これは、ノエルのいた核世界の歴史と同じだ。

 しかし、平和になった途端モンスター娘の祖が生まれる。祖は同胞を増やしていき、既にいた人類種と争った。その種族間の争いが落ち着き平和が続いていたところに、急に発生したのが人造天使。彼らは各地を支配している。凪の口ぶりは、まるで同胞のスライム達が虐げられているかのようだった。


「つまり、わかりやすく三神が介入してる世界ってこと」

「介入度で言うとー、私達の世界より高い気がするよねー」

「いや実はそうでもないんだよね……私達の世界だって、結構介入されてる」


 アイコを操り人形にしようとしたコンパイラ、それを利用したプレイヤー。そして何より、プレイヤーの使徒であるアランによる歴史への数々の介入。依代など、アランの介入により歪められた歴史は数え切れないだろう。その上に成り立っているノエルには認識できないだけで、核世界は本来の可能性の歴史からは乖離している可能性があるとノエルは考えていた。

 神々の歴史への介入という点において、核世界とこの世界とではある程度は一致する。


「合一されかかっていて、私とエンブリオが改変できない特異点になった三つの世界……」

「わかったばい! ノエルっちは三つの世界は全部神が歴史を歪めたごた世界ち思うとるんやね」

「そういうこと」

『うん、筋は通るかもね』


 エンブリオのお墨付きを得て、ノエルは微笑む。


「だから、モンスター娘と人造天使に迫ることがヒントになると思う」

「むつかしい話だぁ」

「本当にねー」


 スイとカイが、また顔を見合わせて微笑み合っている。二人を見て微笑ましい気持ちになりながら、ノエルは言葉を続ける。


「自壊に関しては全世界だから、まだ何もわからない」

「まだまだ調査始めたばっかだしねー」

「で、新しい目的もできたばい!」

「そう、人造天使による支配の調査」


 カイが腕を組んで、首をひねる。これまでとは違う反応に、ノエルは「どうしたの?」とゆっくりとした口調で声をかけた。


「いや……人造天使は戦争に勝ったんだよねー?」

「そだよぉ、私達負けちゃったの」


 スイの体が縮こまった。本当に、体積が減っているように見える。


「戦争の勝者が敗者を支配するってさー、私達の歴史から見ても普通のことだよね?」

「まあ残念だけどそうだね」


 ノエルは言いながら、ゆっくりと頷いた。旧時代にも、それより前の時代にも、人々は戦争をしていたとノエルは仲間から聞いていた。まだ国というものがあった時代は、戦争に勝利した国が負けた国を支配下に置くことがよくあったのだと。

 カイが言いたいことも、なんとなく察していた。


「それを外側から来た私達がさー? 何かするって、いいのかなーって」

「わかるけど、支配がどういうものかが問題だと思う」

「言わんとしとうことはわかるばってん……」


 ダリアがモゾモゾ、と体を動かす。かと思えば、その場でゆらゆらと体を揺らした。


「たとえばさ、私達の倭大陸の地下に埋まってる日本も戦争に負けたでしょ?」

「で、アメリカっち国に一時期は占領されとったとよ」

「だけど、独立した国として認められて、自治権も日本にあったわけじゃん? 文化も混ざりはしたけど切り捨てられたわけじゃないし、虐げられたりも特にはしてなかったんでしょ?」


 ノエルが髪の毛の先をくるくると弄びながら、空を見上げる。カイは「まあねー」と短く答え、呆けたような顔をするスイの頭を撫でた。


「そういう支配の形なら、まあ私達が介入するのは確かにお門違いだしよくないんだろうと思うよ?」

「ばってん、誰かが虐げられとうようなら?」

「叩き潰すよ、そんなのは支配や統治とは呼べないと思うから。あと、気に食わないからね」

「……ノエルってさ、結構アレだよねー、ちゃんと考えるのに最終的には脳筋だよねー」


 呆れたように笑うカイに微笑みを返し、ノエルは地面の上に寝転がり、「まあね」と一瞬目を閉じてから勢いよく飛び上がった。


「ちょっと私だけで偵察してくるか」

「マジで言ってるー?」

「うん、ちょっと寝すぎて寝れそうにないしね! みんなは休んでて」


 ノエルが腕まくりをして力こぶを作ってみせると、スイ以外の二人が適当に手を振った。スイはしっかりと手を振り、「がんばってねぇー!」と鼻を鳴らす。


「スライム族の件もあるしね、見極めないと」


 スライム族の祖である凪は、同胞を頼むとノエルに言った。まるで、同胞が人造天使の支配下で辛い目にあっているかのような口ぶり。先ほどは支配の形にも色々あり、可能性を見極めるかのようなことを言ったノエルだが、心中ではもうほとんど決まっているかのように考えていた。


 ゲートを使い、竹下へと入る。まだ夜も浅く、それなりに人々の往来があった。核世界と明らかに違うのは、そこにモンスター娘と思しき人々が混ざっていることと、建物の配置、そして建物の造りである。核世界の竹下は、純然たる田舎町といった風情であり、異世界から流入した建築物はごくわずか。そのほとんどが、木造の平屋だったのだが、目の前に広がる竹下の町並みは、どこか旧時代を思わせるような近代的な雰囲気をまとっている。

 もっとも、ノエル達からすれば過去の文明であり、近代的と評するのはおかしいのだが。ラウダがたまにそう表現していたためか、ノエルもそのような感想を抱いていた。


「全然違うね」


 周囲に聞こえないような声量で、ぼそっと呟く。


『だな、浮遊都市に近いかもしれん』

「あー、そんな感じだ……建物がなんかメカメカしというか」

『コンクリートが基本だけど、瑪那回路が建物に張り巡らされているね』


 この世界にあまねく存在するエネルギーである瑪那を取り込み、張り巡らせる瑪那回路。多くは、機械の動力源として使われている。ノエルの持つ精霊の剣にも、複雑な瑪那回路が仕込まれており、これにより魔法使いや悪魔でなくともある程度は魔法の力を使えるようになっている。

 ノエル達はその上に、さらに複雑な瑪那回路を施し、ある程度の現実改変を即座に行えるようにした。もっとも、瑪那回路に負荷がかかるため、連続使用は不可能だが。


「それにモンスター娘も大勢いるね」

『元の魔物の特徴を汲むからわかりやすいな』

「私達の世界にもいる魔物ならね」


 往来しているモンスター娘を見渡すと、ちらほらと見知った魔物の特徴を受け継いでいるらしき人もいる。門をくぐり街の中に入り、すぐ右手の建物から赤ら顔で出てきた犬の耳と猫の尻尾を持つ彼女は、ワンキャットのモンスター娘、さしずめワンキャット娘だろう。


『偵察というが、どうするつもりだ?』

「ひとまず、街をぶらついて買い物したり?」

『なるほど、向こうからの接触を待つわけだね』

「そういうこと」


 こうまで自分たちのいた世界と違えば、アテが何もないのと同じことだ。適当な店に入り情報収集をしてもいいが、それよりも人造天使のほうから見つけてもらったほうが話が早い。先程遭遇した人造天使が言うには、ここはラファエラというのが統治しているらしい。

 彼女と対話をし、人造天使側の言い分を聞きたかった。


「今の私達はフラットじゃないからね、凪様から話を聞いて、私は人造天使が悪いことをしてるって決めつけちゃってる」

『いい心がけだね、ノエル。君らしいよ』


 ひとまず、先程ワンキャット娘が出てきた店に入る。赤ら顔で出てきたことから想像はついていたが、中はどう見ても酒場だった。外装は物々しいが、内装はノエル達の世界とあまり違いがないように見える。違うのは、壁と床、そして家具類の材質くらいのもので、雰囲気はそう違わない。

 しかし、その空間を形作る人々の光景は、少し違っていた。愉快そうに酒を煽る人間に、それを指さして笑うモンスター娘。一人でしっぽりと飲む悪魔に、カウンターには人造天使と思しき者もいる。


「いらっしゃいませ」


 ノエルに気がついて駆け寄ってきた店員も、人造天使らしかった。戦った相手と同じような、機械の翼が背中についており、体も機械のように見える。


「一人なんですけども」

「カウンターへどうぞ」

「はい、ああとりあえず柑橘系の炭酸酒ください」

「レモンとゆずがありますが」

「じゃあ、ゆずで」

「かしこまりました」


 一番入口から近いカウンター席に座り、厨房を覗き見る。人造天使と人間が混ざって働いているようだが、人造天使は主に指示を飛ばしており、人間が料理を作ったり皿洗いをしたりしているのが見える。

 運ばれてきた炭酸酒に口をつけ、メニューを眺めながらノエルは首を傾げた。


「思ったより普通だなあ」

『だね、人造天使のほうが立場は上らしいけど、ほら見て、あっちの席じゃ人間と飲んでるのもいるよ』


 エンブリオの言うように、人間と人造天使が二人きりで酒を楽しそうに酌み交わしている席もある。支配する者とされる者という立場から想像するよりも、ずっと親しげだ。

 モンスター娘も普通に店にいて楽しそうにしているということは、モンスター娘が特別虐げられるということでもないのだろう。そんな推察をしながら、ノエルは早く提供されそうな漬物とボアピッグの煮豚を注文する。


「よう姉ちゃん、一人かい?」


 しゃがれた声に話しかけられ、声がした方を向く。隣の席でグラスを傾けながら、タバコを吸っている男の悪魔だった。額に紋章が浮かんでいる。

 悪魔が普通に表社会にいることもノエルからすれば珍しいが、酒を飲んでタバコを吸っているのはもっと珍しい。ノエルは丸くした目を細め、努めて平静を装った。


「ええ、一人です」

「ふうん? 複数の魂が見えるがな」

「私の他に二人、私の中にいるんですよ」


 男の悪魔は一瞬目を尖らせたように見えたが、すぐにニヤリとした笑みに変わった。


「お前さん、ただもんじゃなねぇな」

「あなたも結構高位の悪魔じゃないですか?」

「おっ、わかるかい? 触腕は6本よ」

「上級悪魔ですねえ」


 すぐに触腕の限界数を自慢するところが、いかにも上級悪魔といった風情だった。今の半合一状態では、ノエルはうつろの記憶を見ることができ、以前うつろの出会った上級悪魔たちに関する記憶を見たが、誰もが最初に触腕の数でマウントを取ろうとしていた。

 ノエルはわざとらしく微笑み、男に鋭い眼光を送る。


「マウント勝負は相手が悪いですよ?」

「だろうな、姉ちゃんの前じゃ俺なんか赤子同然だろうぜ」

「それがわかっているなら、ただ数比べのために声をかけたわけじゃないですよね?」


 相手から本題を聞き出そうと切り出すと、料理が運ばれてきた。ツヤツヤとした照りのある煮豚を口に運び、酒を煽る。自分が作る煮豚のほうが美味しいなと思いながら、その目は男悪魔を見据えていた。男悪魔はグラスに残った麦酒を一息に煽り、膝に勢いよく手を置く。


「取引がしたい……どうだい? 俺を利用してみねえか?」

「ほう?」

「俺がくれてやるのはこの世界の情報、そして人造天使とモンスター娘に関する研究者の身柄」


 ドキリ、と心臓が跳ねた。目の前のニヤケ面をしながらも、どこか真剣そうに語る彼を鋭く睨む。


「あなたもですか……私の素性知ってるんですね」

「有名人だからよ、特に悪魔の間じゃな」

「でしょうね、こっちの世界の私、なんか女神になっちゃったらしいし」


 自分ならば絶対に取らない選択肢を取った、別の世界の自分。彼女に内心で「ふざけるなよ」と文句を言いながら、肩を竦める。


「で、あなたは私に何を望むんですか?」

「熾天使ラファエラの救出だ」

「救出?」


 疑問を口にして言葉を待つ間、煮豚を口に放り込む。男悪魔は言葉を選んでいるのか、腕を組んで「んー」と唸っていた。煮豚を飲み下すと、手を打ってニヒルに笑う。


「お前さんの故郷が近くにあるだろ? ここは」

「まあ、そこが変わってなければ、あるね」

「だからここは流石に天使共も大人しくしてんだよ」


 故郷の近くで他の種族に何かをすれば、女神が飛んでくるのだろう。争いを静観しているらしい女神にも、そこは譲れない部分なのかもしれないと、ノエルは静かに頷いた。


「福岡一帯は熾天使ラファエラってのが、結構穏便に統治してんだ」

「ふむふむ」

「だが、最近になってラファエラが別の熾天使に捕まっちまってな、博多は結構荒れてるらしいんだわこれが」

「なるほど、それで穏健派のラファエラを救出して、その荒らしてる他の熾天使というのを倒してほしいと」


 ノエルは、首の後ろあたりを擦りながら、先程戦った人造天使のことを思い出していた。彼女は、ここから先はラファエラの統治する場所だと言った。その場所に怪しいやつを通してはおけないと言いながら、異世界のノエルだと理解したうえで襲いかかってきた。


『食い違ってるように感じるねぇ』


 エンブリオの意見に内心同意しつつ、ノエルは残った煮豚を漬物と一緒に口に放り込み、酒を飲み下す。


「あと、ここじゃお前さんを見かけても人造天使共は襲ってこないと思うぜ」

「まあ、そうだよね、ここの雰囲気見るとさ」

「つうわけで、情報を得るにも天使共を探るにも、この話に乗った方がいいと俺は思うぜ? 多少怪しいかもしれんがな」

「怪しい自覚あるんだ……」


 ため息をつきながらも、男の言う通りだった。ここで情報を集めても、恐らくは情報は得られないだろうことは酒場の空気から感じ取れる。目の前の悪魔のような情報通でもない限り、ラファエラのことも知らされてはいないのだろう。それは、襲ってきた人造天使が知らなかったことからも察せられる。

 もっとも、彼女の言葉を信じるのなら、だが。


「わかったよ、その怪しい話、乗ってあげる」

「そうくると思ったぜ! 俺はコハクってんだ、よろしくな異世界の女神様」

「異世界の魔女ノエルだよ、女神じゃない」

「へへっ、わあったよ、ノエル」


 女神と呼ばれる度に、背筋がゾワゾワとする。これから行動をともにするだろう相手に、茶化されているというニュアンスだとしても、そう呼ばれるのは我慢ならなかった。

 ノエルは立ち上がり勘定を済ませ、コハクと店を出る。涼しい空気に当てられ、大きく伸びをした。


「とりあえず仲間のところ戻るけど、来るよね?」

「もちろんだ、事情も詳しく話とかねえといけねえしな」

「なんで君がそんなに情報通なのか、とかもね」

「その当たりもじっくりしっぽり聞かせてやるぜ」


 ノエルはゲートを開き、コハクと一緒に仲間たちの元へと戻った。ゾクゾクとした感覚を左腕に感じながら。

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