第5話 罪と罰
山岸からの【お願い】のあとも、俺は代わらずクラスメイトたちと遊んでいた。山岸はその輪の中に加わるように俺のクラスへとやってきたし、休日にも時折は俺たちのグループに加わっていた。しかし俺は、彼女のクラスへは赴かなかった。そして勿論、休日に彼女のグループに加わるようなこともなかった。
やがて、そんな一方通行の関係に山岸が不満を表すようになった。対等ではないと主張してきた。しかし俺には、その不満と主張は理解できなかった。約束どおりに山岸とは遊んでいたし、そもそも【お願い】をしてきたのは、山岸の方だ。よって、俺が歩み寄る理由などないと思っていた。譲歩する義理などないと思っていた。
だから俺は、言った。
「じゃあ、もう友達はやめる」
その言葉の直後、山岸は泣いた。大泣きした。泣き崩れた。しかし俺は、そんな彼女を見放した。いや、見捨てた。
そうして俺たちは、友達ではなくなった。
山岸は不満を
「アタシのクラスにも遊びに来てよ。アタシの友達とも遊んでよ」
その言葉を聞いたとき、俺は思った。
オマエと遊ぶ約束はしたけど、オマエの友達と遊ぶ約束はしてないぞ───と。
だから山岸が言ったことを、【お願いの追加】、【要求の上乗せ】、【俺との約束の
しかしまぁ、それは言い訳だろう。単に、山岸の相手をするのが面倒くさくなったのだ。
俺と山岸が友達ではなくなってから、暫くのこと。不思議なことが起きた。それまで俺と一緒に遊んでいたクラスメイトの女子一人が、俺と遊ばなくなったのだ。その理由は不明。本人に聞いても教えてくれなかった。
するとその翌日から、俺と遊ばなくなるクラスメイトが続出した。その全てが、女子。俺は女子が嫌がるようなイタズラでもしてしまったのかと思ったが、思い当たる節はなかった。
遊び相手が男子だけとなり、暫くは、その状態が続いた。しかし、それも長くはなかった。女子と同様に男子も、一人、また一人と、俺と遊ばなくなっていったのだ。
そうして夏休みを迎える頃には、俺は一人ぼっちになっていた。もちろん夏休みも、一人ぼっち。更にいえば、それからの中学時代、俺はずっと一人ぼっちだった。
あるときクラスメイトの女子たちの立ち話が、ふと耳に入った。別に聞き耳を立てていたワケではない。たまたま耳に入っただけだ。その話によると、どうやら山岸とその友達たちが根回しをして、俺のグループを解散に追い込んだ───とのこと。俺を一人ぼっちにしたのは、山岸だったのだ。
その話を聞いて、俺は怒りを覚えた───なんてことは、全くない。なるほどな、と納得しただけだ。一人ぼっちになった理由がハッキリとして、安堵したくらいだ。分からなかったことが分かるというのは、それだけで満足したりするモノなのだ。
更にいえば、俺を一人ぼっちにしたのが山岸で良かったくらいだ。俺は彼女を泣かせたし、傷つけた。そして、そんな彼女を慰めることも救うこともなく、見捨てた。理由はどうあれ、それは間違いない。だからその罰を受けたと思えば、なんということはない。
いや、罰を受けられて良かった。そうじゃないと、俺は未だに───いやいや、違う。歳を取るごとに、罪悪感が増していくことになっていた筈だ。拭い去れない罪に、後悔を募らせることになっていた筈だ。だから俺は、救われたのだ。山岸を救わなかった俺は、彼女に救われたのだ。彼女に救ってもらったのだ。受けるべき罰を与えてもらえたのだから。
とはいえ、一人ぼっちというのは中々にツラい。だから俺は自宅から遠く離れた高校に入学して、リセットすることにしたのだ。やり直すことにしたのだ。
高校では、数えるのに片手で足りるくらいの友達が出来ればイイ。平穏に過ごせればイイ。それが、せめてもの望みだった。
しかし今、そんな望みは叶わないかもしれないことを、俺は予感した。すぐ横にいる山岸の顔を見たことによって。
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