第4話 天敵との再会

 入学式を終え、教室へと戻っている俺。式に向かうときにはクラス全員で整列して体育館を目指したが、戻るときには、てんでバラバラ。余所よそのクラスの生徒ともゴッチャになって、烏合の衆の一員として歩いている。


 一年生全員が一挙に退席したのだから、廊下は大渋滞である。よって、なかなか前に進めない。押し合いし合いとまではいかないが、中々に密な空間をダラダラと歩くしかない。


 こんなことなら一組から順番に退席させたら良かったんじゃないのか?


 教師たちの手際の悪さに不満を募らせつつ、歩く。そんな俺の横に見覚えのある女子生徒がいた。それはクソビッチを自称するあの超絶美少女───ではない。


「ゲッ!? アンタも、この高校ここだったの!?」


 ゴミクズを見るような目で俺のことを見ている女子。そんな彼女の名前は、山岸やまぎし 香音かのん。俺の───天敵である。








 小学生の頃、俺は人気者だった。そんな俺が中学校では悪者になっていた。その第一の理由はもちろん俺にある。しかし第二の理由を探すなら、それは山岸にあるだろう。


 山岸とは小学校からの知り合いだ。それどころか小学一年生からの知り合いだ。俺たちはそのときに同じクラスになり、なんと小学生時代の全てにおいてクラスメイトだった。中々の因果である。とはいえ俺たちの学年は二つのクラスしかなかったので、決してあり得ないことではない。クラス分けは一年生、三年生、五年生に進級するタイミングで行われていたので、八分の一の確率である。それくらいの確率なら引き当てたとしても、なんら可笑おかしなことはない。


 小学生のとき、俺は人気者で多くの生徒に囲まれていた。その殆どの場合において山岸は俺のそばにいた。俺と同様に山岸もまた人気者だった。男子の人気者といえば俺。女子の人気者といえば山岸。そう誰もが認めるほどの状態だった。そんな俺たちの仲はとても良かった。


 その関係が崩れたのは中学一年生のときだ。


 中学に進学し、俺と山岸は別々のクラスになった。そのことによって、それまで六年間を共に過ごしていたのがウソのように俺たちは会わなくなった。俺は自分のクラスメイトたちとだけ仲良くしていたのだ。


 小学生の頃はクラスの垣根を越えて交流の輪を広げていたが、中学生になると、そんなことはしなかった。それはそうだ。クラスの数が違い過ぎたからだ。小学校では二クラスしかなかった。しかし中学校では五クラスにまで増えた。流石にそれだけの数のクラスを越えて交流の輪を広げようとは思わなかったし、できるとも思わなかった。だから俺は自分のクラスに留まった。そして山岸のことを考えなくなっていた。次第に忘れていったのだ。


 しかし山岸はそうではなかった。俺のことを考えていた。俺のことを忘れなかった。


 そして五月。ゴールデンウィークが明けると、俺は山岸から告白された。


 俺の答えは、ノー。山岸とは小学生のときは仲良くしていたが、それは親愛の情によるモノであり、恋愛感情ではなかったからだ。


 しかし山岸は食い下がった。


「恋人になれなくてもイイから、友達になりたい。また友達になりたい。一緒に遊びたい」


 そう言ったのだ。


 俺はその願いを聞くことにした。別にどうということはない。小学校のときと同じように遊べばイイだけなのだから。


 しかし、その行為は間違いだった。俺の考えは甘かったし、そうして下された俺の判断は、間違いなく間違いだったのだ。



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