第11話 量子の記憶(後編)


画面に浮かび上がった、日向博士の最後の映像メッセージ。チームは固唾を呑んで、その言葉に耳を傾けた。


「私の研究の真相は...恐ろしいものでした」

博士の声は疲れ切っているように聞こえた。

「量子コンピューターの開発を進めていく中で、私は...ある発見をしてしまったのです」


映像が一瞬、歪むように乱れる。そこには、何か恐るべきものが隠されているようだった。


「この世界は...単なる仮想現実にすぎないのかもしれない」

博士の表情が憂いに満ちる。

「すべてが、誰かの意図された構造の中で...動いているのかもしれない」


マツバが身を乗り出す。

「何を言っているんですか。そんなバカげた...」


「証拠は、量子レベルの演算プロセスに」

博士は言葉を継ぐ。

「この世界を支える根源的な情報が、ある特定のパターンに収束している。まるで、デザインされたかのように」


カエデの瞳が大きく見開かれる。

「つまり、量子の影響下に...この現実が作られているというの?」


博士は頷く。

「しかし、その真相を探ろうとしたため...私の生命の危機に」


チームの表情が一様に曇りを帯びていく。


「私は最後の力を振り絞って、この情報を残しました」

博士の視線がカメラに捉えられる。その中には、絶望と希望が交錯していた。

「この真実を知る者がいれば...この世界を変える手掛かりが、必ず見つかるはずです」


「博士...」

サカキの声が震える。


「さようなら」

最後に博士が口にした言葉は、まるで重力に呑まれていくかのように消えていった。


スクリーンの映像が消えると、部屋は完全な暗闇に包まれる。チームの5人は、静寂の中でお互いの呼吸を感じながら立ちつくしていた。


その時、隣りのAIサーバーから、小さな光が漏れ始めた。


ツバキが、ゆっくりと近づいていく。

「あれは...」


光が徐々に強まり、不思議な輝きを放ち始める。チームの視線が、その光に釘付けになる。


「これが...本当の世界への扉なのかもしれない」

アヤメの呟きが、暗闇の中に響き渡る。


サカキは、自らの手の内に宿る量子の力を感じる。

「行くしかない。この真実を、最後まで追い詰めるために」


一人一人が、固い決意を胸に秘めながら、光の中に踏み出していく——。


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