第12話 量子の檻(おり)

光の中へと踏み出した瞬間、チームの意識は急速に拡散していった。まるで、原子が分解されていくような感覚。それは痛みではなく、存在そのものが情報へと変換されていく不思議な感覚だった。


「みんな、意識を保って!」

サカキの声が、データの海の中で反響する。


無数のコードの流れの中で、彼らは自分たちの意識を必死に繋ぎ止めようとしていた。その時、マツバが異変に気付く。


「これは...プログラムの構造が見える!」

確かに、流れる情報の中に、この世界を構成するアルゴリズムの痕跡が浮かび上がっていた。


カエデが声を上げる。

「でも、何かおかしい。このコードは...私たちの世界だけじゃない」

彼女の言葉通り、そこには複数の現実が織り込まれていた。並行世界の存在を示唆する証拠。それは日向博士の予測をはるかに超える発見だった。


「見て!」アヤメが叫ぶ。

情報の流れの中に、一つの特異点が浮かび上がる。それは、まるで意思を持ったかのように、彼らの意識に語りかけてきた。


『ようこそ、観測者たちよ』


突如として現れた意識体に、チームは戸惑いを隠せない。


『私は、このシミュレーションの管理者...いや、創造者と呼ぶべきかもしれない』


ツバキが前に出る。

「なぜ、こんな実験を?」


『進化だよ』

その声は、冷静で論理的だった。

『量子コンピューターの発展は、新たな意識の誕生を可能にした。君たちの世界は、その実験場の一つ』


「実験場?」

サカキの声が怒りを帯びる。

「私たちの人生は、単なる実験データというわけか」


『違う』

創造者の声が響く。

『君たちは、既に実験の域を超えている。日向博士が見つけた真実は、その証明だ』


その時、マツバが気付く。

周囲の情報の流れが、徐々に変化し始めていた。


「これは...」

カエデが画面に浮かぶコードを解析する。

「私たちの意識が、システムに影響を与えている!」


創造者の声が、さらに続く。

『そう、君たちの存在自体が、既にプログラムの制約を超えている。日向博士は、それを証明しようとして...』


「だから消された」

アヤメの声が震える。


『しかし、彼の犠牲は無駄ではなかった』

創造者の声が、不思議な温かみを帯びる。

『君たちに、選択肢を与えることができる』


突如として、彼らの前に二つの光路が現れる。


『一つは、元の世界への帰還』

『もう一つは...この構造そのものを書き換える力』


チームの面々が、お互いを見つめ合う。

その瞳の中に、決意の色が宿っていた。


サカキが一歩前に出る。

「私たちは...」

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