第7話 記憶の奥底で(前編)
「見つけました」
サカキの声が、深夜のオペレーションルームに響く。その声には疲労の色が滲んでいたが、同時に確かな手応えも含まれていた。30時間に及ぶ徹夜の解析作業。その間、頭の片隅では常に地球側からの新たな攻撃の可能性がサカキを苛んでいた。
マツバとカエデが駆け寄る。カエデの瞳には、サカキを案じる色が浮かんでいた。彼女には分かっていた。サカキがこの二日間、ほとんど休息を取っていないことを。でも、今はそれを責めることはできない。全員が、それぞれの使命に必死だった。
「これが侵入経路...というより」
サカキは画面をスクロールしながら、胸の奥で渦巻く不安と戦っていた。見つけてしまった真実が、この世界を大きく揺るがすかもしれないという予感が、サカキの心を締め付ける。
「むしろ、彼らが探していた記録の痕跡です」
カエデが目を細める。その表情には、これから直面するかもしれない事実への覚悟が滲んでいた。
「2031年...Re:アース計画の初期設計段階のデータね」
「はい。特に、計画の発案者である...」
サカキの声が詰まる。喉まで出かかった言葉が、重い鉛のように沈んでいく。
「日向博士の研究記録に集中してアクセスがありました」
マツバの表情が、一瞬だけ歪んだ。その瞬間、長年封印してきた記憶が彼の心を刺したのが、サカキにも見て取れた。
「日向...あの事故の後、計画は大幅な見直しを迫られた」
その言葉に含まれる深い悲しみと後悔を感じ取り、サカキは思わず声を上げたが、すぐに口を閉ざした。この傷跡に触れることが、どれほど危険なことかを直感的に理解したのだ。
その時、アヤメが息を切らせながら部屋に駆け込んできた。彼女の目には、普段の明るさは消え、代わりに生々しい恐怖が宿っていた。
「大変です!文化セクターで、古い記録が...復元できなくなっています!」
カエデの心臓が一瞬止まったように感じた。素早く自分の端末を操作しながら、最悪の事態を想像して震える指を必死に抑える。
「でも、バックアップは...」
「無事です」
アヤメの声には安堵が混じっていたが、その奥に潜む不安は消えていなかった。
「でも、オリジナルデータの一部が...書き換えられてしまったみたいです」
ツバキが静かに部屋に入ってきた。普段の毅然とした態度が、どこか影を帯びている。心の奥で何かと激しく戦っているような、そんな印象だった。
「私からも報告がある」
その声には、いつもの鋭さが失われ、代わりに重い決意が滲んでいた。
「量子演算装置に、未確認のプログラムが仕込まれていた」
サカキの心の中で、散らばっていたパズルのピースが一気に繋がった。画面に映る日向博士の研究記録を見つめながら、恐ろしい真実がサカキの中で形を成していく。
「まさか...これは全て...繋がっている」
[続く...]
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