第6話 追跡の痕跡


「このアクセスパターン...」

サカキは眉をひそめながら、分析画面に映る一連のログを凝視していた。侵入事案から48時間。休息を取る間もなく、データの解析を続けていた。


カエデが背後から覗き込んだ。

「何か見つかったの?」


「はい...」

サカキは画面上の特定の箇所を指さした。

「攻撃は複数のポイントから同時に行われていますが、よく見ると...ある一定のパターンが見えてきます」


「パターン?」

カエデが身を乗り出す。


サカキは分析用の補助画面を開きながら説明を続けた。

「私が以前設計したシステムには、特徴的な処理の"癖"があったんです。それが、この攻撃コードにも残っています」


その時、オペレーションルームのドアが開き、ツバキが急ぎ足で入ってきた。

「大変だ。文化セクターで新たな異常が検出された」


「え!?」

アヤメが慌てて自分の端末を確認する。

「でも、私のエリアには何も...」


「違う」

ツバキは首を振った。

「今回は歴史アーカイブへのアクセス試行だ」


サカキは息を呑んだ。

「まさか...データの改竄を?」


マツバが重々しい声で言葉を継いだ。

「最悪の場合、Re:アース計画の根幹に関わる記録が書き換えられる可能性もある」


会議卓を取り囲む面々の表情が、一様に険しくなる。


「でも、おかしいわ」

カエデが腕を組んで考え込む。

「なぜ歴史データを?セキュリティシステムを突破できなかったのなら...」


サカキは突然、キーボードを強く叩き始めた。

「違います。これは...」

画面に次々と新しいウィンドウを展開していく。

「攻撃は、初めから囮だったんです」


「何ですって!?」

アヤメが小さく叫ぶ。


「セキュリティシステムへの攻撃は、私たちの注意を引くため。その間に...」

サカキの声が震える。

「彼らの本当の目的は、Re:アースの歴史データを確認することだった」


「どういうことだ?」

マツバが前に進み出る。


サカキは深く息を吐いて、言葉を選びながら説明した。

「おそらく、彼らは私たちが構築した新世界の"矛盾"を探しているのだと思います。Re:アース計画の正当性を否定できるような...」


「つまり、私たちの存在を否定する証拠を」

カエデが冷たい声で言葉を継いだ。


重苦しい空気が部屋を満たす。天井に映る地球が、今は以前より遥かに遠く感じられた。


「だとしたら...」

アヤメが震える声で言う。

「私たちの世界は、本当に正しいのでしょうか?」


その問いに、一瞬の沈黙が落ちる。


「正しいわ」

カエデが強い声で答えた。

「なぜなら、私たちはただ逃げ出しただけじゃない。新しい可能性を、ここに作ろうとしている」


サカキは静かに頷いた。

「だからこそ、守らなければ」

キーボードに手を伸ばす。

「歴史の痕跡を辿って、彼らの侵入経路を特定します」


マツバが全員を見渡した。

「各自、持ち場に戻れ。だが...」

一瞬だけ、その厳しい表情が和らぐ。

「互いの連絡は密にしろ。我々は、一つのチームなのだから」


全員が力強く頷く中、サカキの指先が再び動き始めた。画面に映る無数のログの中に、きっと真実への手がかりがある。そう信じて。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る