第5話 侵入者と覚悟
サカキは、強い決意を込めて言った。
「私が...止めてみせます」
もはや迷いの見えない声で、サカキはキーボードを叩き始めた。指先は、確かな意思に導かれるように正確に動いていく。
「コードの構造が見えてきました」とサカキは画面を食い入るように見つめながら説明した。「確かに私の設計した基本アルゴリズムですが、かなり改変が加えられています」
画面上を流れる無数のコードの断片を、サカキは貪るように読み解いていく。3年前、環境への想いを込めて書いたそれらの文字列が、今は皮肉にもRe:アースを蝕もうとしている。
サカキは作戦を提案した。「トラップを仕掛けます。セクター7のメモリバッファに擬似的な脆弱性を作り出して...」
「危険すぎる」
ツバキが厳しい声でサカキの言葉を遮った。
「相手にシステムの深部を見せることになる」
「いいえ」
サカキは強く首を振る。
「これは私の設計したシステム。どこにどんな落とし穴があるか、誰よりも知っています」
カエデは静かにサカキを見つめ、頷いた。
「信じましょう。サカキさんを」
ホログラムスクリーンに映る地球の青さが、やけに鮮やかに感じられた。故郷。しかし今のサカキには、守るべき新しい世界がある。
突然、アヤメの声が高く上がった。
「侵入者の動きが...変わった!」
カエデが小さく微笑んだ。
「罠に掛かったわね」
そして、サカキの方を向いて続けた。
「サカキさん、あとは...」
「ええ」
サカキの指が、決定的なコマンドを入力する。画面上で赤く脈打っていた警告が、次々と消えていく。
「クラスターの切り離し、完了。不正アクセスを完全にブロックしました」とサカキは報告した。
オペレーションルームに、深いため息が漂った。緊張が解けていく音が、まるで聞こえるかのようだった。
マツバは静かな声で言った。
「見事だ。だが、これは始まりに過ぎないかもしれない」
その言葉に、全員が重い沈黙で応えた。確かに、地球側の攻撃は、これで終わるはずがない。
カエデが部屋の中央に歩み出ながら話し始めた。
「でも、私たちには分かったことがある。敵は私たちの技術を使おうとしている。それは、彼らにも弱点があるということ」
「カエデさん...」
サカキは彼女の真意を察して声を上げた。
カエデはサカキの目をまっすぐ見つめながら答えた。
「そう、サカキさん。あなたの知識は、私たちの最大の武器になる」
彼女の瞳が、強い光を帯びていた。
「Re:アースを守るために」
アヤメが小さく手を挙げ、声を添えた。
「私も...文化セクターのデータを使って、何か協力できるはず」
感動で目に熱いものが浮かびながら、サカキは呟いた。
「みんな...」
その時、マツバが不意に立ち上がり、指示を出した。
「警戒は解かず。全員、各持ち場での監視を強化してくれ。サカキ、君はこの攻撃の詳細な分析を頼む。次に備えなければならない」
全員が力強く頷く。部屋に満ちる空気が、決意に満ちたものへと変わっていった。
天井に輝く地球が、今は少し違って見えた。それは脅威であると同時に、まだ希望を持ち続ける人々の存在する場所。サカキは静かに誓った。この新しい世界を、必ず守り抜くと。
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