第3話 新たな地平線

サカキが円形の建造物に足を踏み入れると、そこには多様な背景を持つ人々が集まっていた。各々が熱心な議論を交わしながら、Re.アースの未来について真剣に検討している様子だ。


「あら、サカキさん。お待ちしていましたよ。私たちのプロジェクトに加わっていただけると伺っています」


環境工学の専門家であるカエデが、端正な立ち居振る舞いでサカキに近づいてきた。30代半ばの彼女は、地球環境の再生プロジェクトのリーダーとして、Re.アースの環境システム設計を担当している。


「はい...よろしくお願いします」


サカキが若干緊張した様子で答えると、隣で黙々とデータを分析していた男性が顔を上げた。量子計算の第一人者であるツバキだ。


「ふむ。君の論文は読ませてもらったよ。分散処理アーキテクチャの最適化に関する考察、なかなか興味深かった。理論と実装、両方の視点を持っているのは貴重だな」


ツバキの素っ気ない、しかし的確な評価に、カエデが柔らかな笑みを浮かべながら続ける。


「現在私たちが直面している課題をご説明させていただきます。Re.アースの環境システムと社会インフラの統合、これが最優先事項なんです。地球の二の舞いは絶対に避けなければ...」


その時、若い女性が小走りで近づいてきた。


「カエデさーん!新しい文化ゾーンのコンセプト、できましたよ!あ、サカキさんも見てください!これ、超クールでしょ?」


Re.アースの文化創造部門を担当するアヤメだ。彼女は日米のハーフで、デジタルアートの分野で革新的なプロジェクトを手がけている。


「だってほら、Re.アースって単なる避難先じゃないじゃないですか。私たち人類の新しい物語を紡ぐ場所。そこには自由なクリエイティビティが必要不可欠なんです!」


アヤメの熱のこもった説明の最中、部屋の奥から重みのある声が響いた。


「アヤメ君、その情熱は理解できる。だが、セキュリティの観点も忘れないでくれ」


Re.アースのセキュリティ責任者であるマツバが、腕を組んで近づいてきた。


「いかなる創造活動も、システムの安定性が大前提だ。特に最近は、地球側からの不正アクセスが増えている。我々の理想と現実のバランスを取らなければならない」


マツバの言葉に、全員が思慮深く頷いた。


「あの...具体的に、私に何ができるでしょうか?」

サカキが遠慮がちに尋ねると、カエデは優しく微笑んだ。


「サカキさんには、まず基幹システムの診断からお願いできますかしら?ご存知の通り、Re.アースは前例のないプロジェクト。予期せぬ不具合が日々発生していますの」


ツバキが補足する。「ああ、特にメモリ領域の最適化が課題だな。君の経験が活きるはずだ」


「やったー!新しい仲間だー!」

アヤメが無邪気に喜ぶ中、マツバは静かに付け加えた。

「君の力を期待している。ただし、機密保持は厳守だ」


サカキは、個性的なメンバーたちの歓迎に、徐々に緊張が解けていくのを感じていた。植物の名を持つ彼らと共に、この仮想世界で新たな生命の芽を育んでいく。その思いが、確かな決意として胸に宿り始めていた。

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