第4話 第一層
冷たい風が吹き抜ける空中迷宮の一層目。エリオットの前には、岩のような体を持つ巨大なゴーレムが立ちはだかり、無機質な赤い瞳でじっと見つめている。エリオットはその圧倒的な存在感に言葉を失った。
「どうして……こんなところに僕がいるんだ……?」
彼はただの高校生で、こんな化け物と戦うなど現実離れしている。エリオットは周囲を見渡し、他に道がないか探したが、ゴーレムが道を塞いでいる以上、この場を進むにはどうしても彼と向き合わなければならないようだった。
「無理だよ……こんなの……」
その言葉が終わるか終わらないかのうちに、ゴーレムが動き出した。重い足音が迷宮の床に響き渡り、エリオットに向かって巨大な腕を振り上げる。その一撃が迫ってくる瞬間、エリオットは本能的に体を横に飛ばし、間一髪で攻撃を避けた。
「くっ……本当に……死ぬかと思った……!」
彼の息は乱れ、心臓の鼓動が激しくなっていく。まさか自分がこんな死線に立たされるとは信じられない。これは夢だ──そう思いたいが、痛みや息苦しさが現実であることを否応なく感じさせる。
「どうして……どうしてこんな目に……」
その時、背後から聞き慣れた声がした。
「あらあら、早くも諦めるつもりかしら?」
振り返ると、そこにはアメリアが立っていた。彼女は相変わらずの妖艶な微笑みを浮かべ、エリオットの困惑を楽しむかのように見つめている。
「アメリアさん!?どうしてここに?」
「どうしてって……あなたがここでしっかりと進んでいるか見に来ただけよ」と彼女は軽い調子で答えたが、その瞳にはどこか期待を込めた光が宿っていた。
「見に来たって……こんなの僕には無理だよ!倒せるわけないじゃないか、こんな化け物……!」
アメリアはゴーレムをちらりと見つめ、再びエリオットに視線を戻した。「確かに、ただの高校生には荷が重い相手かもね。でも、それを超えなきゃあなたの『役目』も果たせないわ」
「役目……?そんなもの、こんな場所で戦うことが役目だなんて信じられない!」
エリオットの叫びに、アメリアは静かに微笑んだ。「そんなに簡単に現実を受け入れられないのは分かるわ。でもね、あなたにはその『役目』に立ち向かう力がある……少しだけ、手を貸してあげるわ」
そう言うと、アメリアは手にしていた「All in One」という古びた本を開いた。表紙の紋章が微かに光り、本のページから不思議な力があふれ出すようだった。彼女が呪文のように低く囁くと、ページに描かれた文字が淡い光を帯び、まるで本から能力が引き出されるかのような神秘的な光景が広がった。
「……目を閉じて、力を受け入れて」
エリオットは半信半疑ながらも、彼女の言葉に従い、ゆっくりと目を閉じた。すると、アメリアが彼の額に触れた瞬間、頭の中に不思議な熱が流れ込むような感覚がした。
「これで動体視力が少し強化されたわ。それだけで勝てるかどうかは、あなたの工夫次第よ」
エリオットは再び目を開け、彼女が言ったことを試してみることにした。ゴーレムに視線を向けると、不思議なことに先ほどよりもその動きがはっきりと見えるようになっていた。拳が振り下ろされる軌道や、わずかな関節の動きがまるでスローモーションのように感じられる。
「でも……これでどうしろって言うんだよ……」
動きが見えても、自分の体力や筋力が増えたわけではない。巨大なゴーレムに立ち向かう術があるとは到底思えず、ただ避けるだけの自分が情けなく感じられた。
ゴーレムは再び腕を振り下ろし、エリオットは間一髪でかわした。だが、その動きを観察しているうちに、エリオットは何か奇妙なことに気づいた。
「え……?もしかして、あの動き、少し……」
ゴーレムの拳が迷宮の床に激突する度、わずかに岩肌が剥がれ落ちている。ゴーレムの関節部分や表面に小さな亀裂が走り、動く度にその脆さが露わになっていた。まるで、彼の巨体を支えるのがやっとであるかのような印象を受けた。
「こんなに大きくて頑丈そうなのに、案外もろい……?」
エリオットはその事実に驚きながらも、さらに観察を続けた。確かにゴーレムは巨大で威圧的だが、その動きは鈍く、関節が硬そうに動いている。おそらく、無理に力を使い続ければ、体が自壊する可能性もあるかもしれない。
「なるほど……こういうことか」
エリオットはその隙を利用する方法を考え始めたが、頭の中に不安と恐怖が渦巻いている。「だけど……どうしてもこれが現実だとは思えない。僕がここで何かを成し遂げるなんて、無理だ……」
エリオットの言葉に、アメリアは静かに微笑みながら囁いた。「信じるかどうかはあなた次第。でも、あなたが動かなければ何も始まらないのよ」
彼女の言葉が頭に残る中で、エリオットは迷いながらも再びゴーレムを見つめた。その視線にはまだ恐れが残っているが、同時に小さな覚悟が宿り始めている。
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