All in One

第1話 普通の街、普通じゃない日常

　エリオットが暮らしている街「ルミナシティ」は、どこにでもあるような平凡な街だ。街の中心には広場があり、カフェやレストラン、雑貨店が軒を連ねている。学校帰りの学生や、家路につく人々で賑わう夕方の時間には、まるで街全体が生きているかのような活気に満ちていた。

　エリオットもまた、この街で普通の高校生活を送る一人の少年だった。特別な才能や知識を持っているわけでもなく、毎日を平凡に過ごしている。ただ、時折彼の心には、なぜか得体の知れない違和感が忍び寄ることがあった。

　「なんでこんな気持ちになるんだろう……」

　ある日の放課後、エリオットは学校の校舎から見下ろす街の景色を眺めながら、ぼんやりと呟いた。友人たちと別れたあと、一人で帰る途中に感じるその妙な感覚──それは、まるで自分が「ここにいるべきではない」という思い込みが引き起こすような感覚だった。

　そんな気持ちを抱えながらも、彼はいつも通りの帰り道を歩き続けていた。街の広場を抜け、通い慣れた道を辿っていくうちに、その違和感も次第に薄れていく。しかし、数日前から、彼の耳にはかすかな囁き声が聞こえるようになっていた。

　「エリオット……」

　それは、誰かが彼の名前を呼ぶような、遠くからの声だった。最初に聞いた時、彼は周囲を見回し、友達の誰かかと思ったが、そこには誰もいなかった。耳鳴りか何かだろうか？ そう思って気にしないようにしていたが、その囁き声は日に日に頻繁に聞こえるようになっていた。

　「なぁカイル、僕の名前を囁いてくるヤツ、君の仕業じゃないよね？」エリオットは友人のカイルに半ば冗談っぽく尋ねてみたが、カイルは「なんの話だ？」と首をかしげるばかりだった。

　それでも、囁きが耳に入るたびに、エリオットの心はざわついていた。学校や帰り道だけでなく、寝る前の静かな部屋の中でも、あの囁きが響くようになってきたのだ。「エリオット……お前には、役目がある」その言葉は、かすれた声で繰り返され、次第に彼の心に根付いていった。

　エリオットはついにその言葉に向き合う決意をした。深く考えずに放っておこうとしたが、いつしかそれは彼の心に小さな疑問の種を蒔き、彼を謎の探求へと駆り立て始めていた。

　「役目って、なんのことだよ……」

　エリオットの疑問は膨らみ、頭の片隅にしっかりと居座るようになった。誰に聞いても答えの出ない不安。だがその一方で、胸の奥に何かがざわめく感覚も覚えていた。それは、いつも感じる違和感とは違う──まるで新しい世界が自分を呼んでいるような、言葉にできない衝動だった。

　そして、その衝動がいよいよ強くなってきたある日の放課後、彼はいつも通る道にあるはずのない「古びた本屋」に足を止めた。

　「……こんな店、今まであったっけ？」

　見覚えのない佇まいのその本屋は、埃っぽい外観と薄暗いガラス窓から漏れる微かな光が、どこか異様な雰囲気を醸し出していた。まるで自分がその店に入ることを待ち構えていたかのような雰囲気を感じ、エリオットは吸い寄せられるようにその店に足を踏み入れることにした。