第6話 終わりの始まり
散る火花がモニターを赤く染め上げる。それは僕の視界と同じ色だ。敵の機体と伊豆半島の上空をグルグルと飛び回りながら切り結び合う。この敵の技量は明らかに渡辺達なんかとはレベルが違う。
『なぜですか?なんで反乱など起こしたのですか?!あなたほど立派な防人はいなかったはずなのにぃ!』
通信で敵の女パイロットの叫びが届いてくる。だがそれは僕の気持ちを逆なでするだけだった。
『わたしはあなたのお陰で希望を持てた!なのにどうして!』
「まるで僕を知ってるかのような口を利くなぁ!」
右手にエネルギーを貯めて敵機体の左手を握りつぶす。小さな爆発と共に敵機体の左手は肘から先を失った。
『わたしたちの敵は怪獣のはずです!』
敵機体はちょこまかと飛び回って太平洋の方へと逃げていく。
「怪獣よりも人の方がずっと憎い!醜い!悍ましい!あああああああああああああああぁああああああああああああ!!!」
レバガチャして背中の砲台のすべてを敵機体に向ける。すべての狙いをコックピットに集中させた。だが僕はその状態で引き金を引けなかった。すぐに狙いを敵機体の各部関節にずらして引き金を引く。放たれたビームはすべて狙い通りに関節にヒットした。だけど敵機体は健在だった。
『流石ですね。もしも同じ機体だったらきっと敵わなかったでしょう。ですがわたしはこの機体、ディアナ・カリストーの力を使えます』
敵機体、ディアナは青白い光に包まれていた。性能はよくわからないが、おそらくビーム砲撃を無効かしたのはアレの力だろう。ディアナは手にビームソードを構えて僕の方へと突っ込んでくる。
『大人しく沈んでください!これ以上名誉を汚さないでください!』
「名誉なんて元々ない!」
僕は敵の剣を背中から抜いた大刀で捌く。敵のフィールドの力がわからない以上踏み込むのは分が悪い。だがこいつをたおさなければ東京へはたどり着けない。
「量子エンジンリミット解除。エネルギー放射!!」
ジュノーの右手が焼け落ちる。その代わりに大きな光り輝く手が生えてきた。その手を横薙ぎに振るって敵のフィールドを無理やり破った。
『無茶苦茶なぁ!でも利き手がないなら!わたしがぁ!』
「手に頼ってんじゃねぇよ!!」
ディアナは右手のビームソードで僕のコックピットを突いてくる。僕はエネルギーを刃形にしたつま先で相手のコックピットを横蹴りする。
『きゃあああああああ!!!』
「ぐうぅぅううう!」
僕の蹴りは相手のコックピットの表面を削ったが、中のパイロットは殺せなかった。逆に相手の突きも僕のコックピットの横を貫いてコックピットのカバーを剥がしただけで致命傷にはいたらなかった。そして僕たちの機体は互いにもみくちゃになりながら重力に引かれて落ちていく。そしてどこかの地面に墜ちた。どうやら伊豆大島まで飛んできていたらしい。すぐに立ち上がろうとした。だけどディアナが僕のジュノーを押し倒してきた。そしてお互いのコックピットが向かい合う。
「はぁあああああああああ!!」
向こうのコックピットから人影が飛び出してきた。そして僕のコクピットの中へと入ってきた。それは敵のパイロットのようだった。防人専用の紺色の詰襟軍服を着ている。下はタイトスカートで濃い色のストッキングをつけていた。女はナイフを僕の首筋につきつける。同時に僕は銃を抜いて相手の胸に銃口を押しつけた。
「写真で見たときは信じられませんでした。でも本当に紫色の瞳なんですね」
「おまえこそなんだ?金髪に青い目の白人?そんな奴が防人をやってるのか?」
敵の女はとても美しい少女だった。だけどどう見ても日本人じゃない。金髪に青い瞳の白人だった。
「あなたと同じですよ。わたしは母が日本人です。父が何人かは知りませんが」
自分以外のハーフに初めて出会った。それも防人の。もしかしたらいい友人になれたかもしれない。でも今は敵だ。
「すぐに投降してください。あなたの活躍はわたしたち混血児たちの希望なんです」
「希望?そんなものこの世界にはないよ。あるのは絶望だけだ」
「何があったっていうんですか?!防人の栄誉を捨ててまでそれは成さなきゃいけないことなんですか?!」
この子は防人であることに誇りを持っているようだ。そんな子に真実を伝えることには抵抗を覚えた。僕をもって希望といった。まだこの世界に希望があるって信じてる。その信念を汚す資格が僕にあるとは思えなかったのだ。
『よくやった河村三尉。そのまま盈月二尉を拘束し続けろ』
ヘリの音がした。そしてラベリングで兵士たちが降りてくる音も。軍人としての直感が囁いた。ここでゲームオーバーだと。僕は銃を降ろしてシートに深く座ってため息をつく。そして迷彩服の自衛官たちがやってきて僕は拘束された。金髪の少女が僕のことを悲し気な目で見ていたのが印象的だった。そしてヘリに乗せられる。
「いやぁ。派手に壊しましたねぇ!まあデータいっぱい取れたんでよしですけどぉ!」
「大人しく死んどけよ」
ヘリには荒城が乗っていた。どうやら防弾ベストか何かを着ていて死ななかったようだ。手錠をかけられていなかったら今すぐにでも絞め殺してやるのに。
「いや。いい試合を見ましたよ。桜ちゃぁんは強かったでしょぉ!彼女、東京の精鋭防人なんですよ。歴代トップの成績で入隊したんです」
「あのこ、桜って言うんだ。…随分と普通の名前だな」
「ええ。どこにでもいそうな名前の何処にもいないレベルの逸材です。明日からあなたの部下にするんで可愛がってくださいね」
僕は呆気に取られた。これほどの騒ぎを起こしたのに、今の感じだと無罪放免のようじゃないか。
「ぶっちゃけあなたが駄々こねて暴れてもこっちとしては構わないんですよ。それより怪獣退治の方がずっと大事なんです。あなたはそのために必要な人材なんです。残念ですけど愛のために散るなんてかっこいい死に方出来るなんて思わないでください」
荒城はヘラヘラと笑っている。殺されかかったのに何もこの女には動揺を与えていない。きっと化物の類なのだろう。敵討ち自体意味のない精神の持ち主。
「僕はもう世界を守る気なんてないんだけど」
「でもジュノーの中のイチルちゃんは?」
すでに死んだも同然のイチルだけど、僕にとっては大事な人のままだった。
「希望はなくても、愛はあるんでしょ。なら戦えよ。戦って戦って戦って愛を証明しろ。それだけがあなたに許された生き方ですよ」
荒城はそう嘯く。だけど僕にはもう他にやることがない。なら見届けよう。この世界の終わりを。イチルの傍で…。
プロローグ・完
そして戦争は続く。
---作者のひとり言---
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ではまた。
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