第5話 激昂
イチルは何かの溶液で満たされたカプセルの中で体育座りをしている。
「防人はけっこう素質を持つ者のが多いのです。ですが贖児の適正者はごくごくまれにしか存在しなかった。だからプーパエクテスは第一第二世代共にあまり多くの数を量産することが出来ませんでした。まあもっとも適正者の選別を日本人に限らずにガイジンたちにも広げれば話は違ったんですがね。難民ガイジンたちは日本人の三倍の人口を誇ります。いくらでも適正者は見つけられます」
荒城はイチルの入っているカプセルを撫でながら愉快そうに笑っていた。
「だからガイジンさんたちからも贖児を餞別すればプーパエクテスの大規模量産は可能でした。ですが、そこには反乱のリスクがつき纏っていたのです。防人はガイジンでも問題ないのです。家族を人質にしたりパイロットスーツに爆薬仕込んでもよし毒針入れてもよし。反乱対策はいくらでもできます。ですが贖児はそうはいかない。彼らの機嫌は損ねられない。プーパエクテスに搭載後は殺すことも難しい。もし反乱など起こされたら、日本は滅ぼされれるでしょう。ガイジンさんたちに日本への愛着なんてないんですからね」
くくくと荒城は嗤っている。この世界の不条理を愉し気に語っている。
「だからつくられたのが冠凪シリーズです。安定した性能と日本国家民族への帰属意識を持った贖児を量産できれば、これ以上ない安定した戦力になる。政府は焦っています。プーパエクテスを早くもっと量産したい。今や日本人はこの国でマイノリティなんです。圧倒的な力を持って怖い怖いガイジンさんたちを弾圧したくて仕方がないのです。本来は怪獣と戦うための力だったはずなのにね。嫌ですねぇ政治ってやつは。すぐに目的を見失うんですもの」
おかしな話だ。僕だってそのガイジンの一人だ。だけど日本人たちを脅かす力なんてない。いつも力で押しつけられている側なのに。僕はホルスターから銃を取り出して荒城に向ける。
「イチルをそこから解放しろ。じゃなきゃ撃つ」
「嫌です」
「僕は本気だ!」
「私だって本気ですよ。それに贖児になるのはイチルちゃんの願いでもありました。あなたのいる世界を守るんだって言っていましたよ。愛されてますねぇ」
「お前みたいなやつが愛を語るなぁ!」
僕は引き金を引いた。弾は荒城の胸に当たり彼女は床に倒れた。
「一体何の騒ぎだ!!」
銃声を聞きつけて歩哨がこちらの方へ向かってくる。僕は銃を撃ちながら、ジュノー・レジーナに乗り込み。胸部のイチルのいる部分を閉じて、同時にコックピットのハッチも閉じる。そして機体を起動させて立ち上がりハンガーから外へと出る。
『こちら管制室!ジュノー・レジーナ!直ちに停止せよ!繰り返す直ちに停止せよ!』
「うるさい!黙ってろ!」
僕は通信を遮断する。そして量子エンジンを臨界まで上げて、空に向かって飛び立つ。浜松市の上空を飛び越えて太平洋に出る。そのまま何も考えずに僕は飛び続ける。
「イチル。なあイチル。聞こえないか?僕の声が聞こえないか?なぁ?!なあってばぁ!声を聞かせてくれよぉ!!」
コックピットと贖児のいるコア部は近い。声はきっと届いているはずなのに。返事はちっとも帰ってこない。
『ふははは!ついに化けの皮が剝がれたなぁ!くそガイジン!』
渡辺の声が聞こえた。プーパエクテスが三機僕の後ろを追いかけていた。
『撃墜命令が出たぞぉ!お前の命はどうでもいいとのお達しだ!はは!あはは!やっとだ!やっとお前を殺せるぅう!』
「邪魔すんなぁ嗚呼ああああ!」
僕はレバーをガチャリながら右手にエネルギーを貯める。バチバチと周囲の空間を歪めながら右手の光は渦を巻いていく。
『くははは!そんなテレホンパンチなんか効くかよぉおおお!』
渡辺は背中のキャリアーからビームソードを抜いて僕の方へと迫ってくる。彼のお仲間の機体も同じように剣を抜いて迫ってくる。
「チャンバラごときで僕を殺せると思うなぁ!!」
迫ってくる二機のうちの片方が振りかぶった剣を僕は上空に飛ぶことで回避した。そしてそのまま後ろからその機体を羽交い絞めにして、もう一方の機体のコクピットに向かって剣を振らせる。
『ぐぁああああああああああああああああああああああ!!!!』
そのままその期待のコックピットは真っ二つに裂かれた。かろうじて中のパイロットには刃は届いていない。
『森野ぉおおおおおおおおお!!!』
「安心しろお前もついていくんだよ」
羽交い絞めにしている機体の背中からナイフを奪って、コクピットのカバーだけを剥がす。そして肩にナイフを刺してから海に向かって蹴っ飛ばす。
『花村ぁああああああああああああああああああああ!!』
こうして僕は二機の機体を墜とした。あとは渡辺だけだ。
『く、くそおぉおおおおおおおお!自衛隊式銃剣術!89式ィィぃイ突きぃいいい!!!」
バカみたいなわざで僕に突っ込んでくる。カウンターしてくださいと言わんばかりじゃないか。
「テレホンパンチはお前の方だったな」
僕は相手の突きを躱して右手で渡辺機の頭を握りつぶす。そしてそのまま右手を振るって海に向かって叩きつける。
『ちぐじょぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお』
僕はそのまま彼らに背を向けて飛び去る。戦闘をしてハイになっていた。気がついたら伊豆半島の上を飛んでいた。このまま東京に乗り込んで政治家たちを皆殺しにしてやろう。息が荒くなる。そんなときだ。
『止まってください。あなたを東京へは行かせません』
女の声が通信で入った。そして前方から一機のプーパ・エクテスが近づいてくるのが見えた。見たことのない機体だ。ジュノー・レジーナと同じ第三世代機か?
「邪魔だどけぇ!こんな世界!今すぐに終わらせてやるんだからなぁ!」
僕は背中から剣を抜く。向こうもまた剣を抜いた。そして僕たちの剣は交わり火花を散らせたのだった。
---作者のひとり言---
守らないなら終わらせればいいじゃない!
ハルアキ君ブチ切れの巻。
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