第4話 そして絶望は。

 僕は飲み会を断れない。本当は断りたい。だけど断って恨みを買うのはごめんだ。僕の立場は微妙だから処世にはいつも気をつかっている。ジュノーの初出撃後、納入企業のお偉いさんと自衛隊のお偉いさんたちと現場の僕たちでパーティーが開かれた。上層部的には今回の演習結果は大満足なものだったらしい。一人の少年の命が失われているのに。


「本当に綺麗な顔ですねぇ。おねぇさんイケナイ気分になってきちゃったなぁ。二次会は二人きりでエチチなホテルとかどうですかぁ?」


 荒城が僕に悪酔いして絡んでくる。ウザいことこの上ない。


「男日照りならホストクラブにでも行ってこい」


「いやですよ。あんなブス共しかいないところになんて用はないんです。私は面食いなんです。令了くぅんのほっぺにちゅちゅしたいですぅ」


 タコみたいに唇を伸ばしてくるので、近くにあった刺身のワサビの盛りを指で掬って荒城の口に突っ込んでやった。


「びゃぁあああああ!」


 荒城は悲鳴を上げながら、トイレの方へと走っていく。ざまぁみろ。ウザい奴は退治できた。あとは終わるまで静かにしていよう。そう思ったのだが。





この世には二次会って言葉があるのだ。






 僕は会社の重役さんと基地司令たちに連れられてとある店にやってきていた。通されたのはVIPルーム。高い酒がテーブルの上に並び様々な人種の美しい女たちが男たちの横についている。おっさんたちは女の子たちの胸を触ったり尻を揉んだりキスしたりしてセクハラを楽しんでいた。そして一人また一人と女と共に部屋を出ていった。


「ここってあれですか?売春宿?」


 僕はさっきから横についてくる女がキスしてこようとするのを避けたり足を絡めてくるのを避けたりしていた。そのたびに店側が何か配慮するのか色々な女の子を次々と送り込んでくる。


「そうだぞ。もちろん金は気にしなくていい。ここのお代はあちらの会社持ちだ」


 基地司令は両脇に女の子を侍らせていた。そして剝げかかったあたまに両脇から女の子にキスさせていた。そんなことしたって髪の毛は絶対に生えてこないと思う。


「帰っていいっすか?」


「それはもったいないぞ。ああ。わかった。まだ童貞だな。なに、素人も玄人もはっきり言って同じだよ。突っ込んでしまえば同じ穴でしかない」


「くずいぃ」


「そうだな。お勧めの子を紹介してあげよう。気立てのいい子でな。私もよくリピートしてるんだ」


「司令と穴兄弟になりたくねぇ…」


 そして司令はボーイさんに頼んで女の子を一人連れてこさせた。茶髪に緑色の瞳の白人の女の子だった。可愛らしい顔をしている。


「マリリンです!よろしくね!えーっと君のことなんてよべばいいかな?」


「寿限無寿限無」


 僕は適当に自己紹介した。


「それ昔話のネタだよね!それくらい知ってるって!なんてよべばいい?なんてよばれたい?」


「別に…」


「恥ずかしがり屋さんなんだねぇ。司令さんとかは光輝KOUKI君ってみんなに呼ばれてるよ!」


 司令がドヤァって顔している。禿げ→光輝く。くそ安直で笑える。


「じゃあもういいよ。半兵衛って呼べ」


 メッチャ自虐込みだ。でもいい。どうせそう名乗るのは今日だけだ。


「うん。半兵衛!よろしくね!いえーい!」


 マリリンは僕にハイタッチしてくる。僕は渋々ながらそれに応えた。


「半兵衛って防人なんでしょ?!すごいよね。いつもKOUKIくんが自慢してるんだよ。うちのエースだって!」


 司令を見るとなんか恥ずかしそうにしている。やめろ。中年のおっさんのそういう仕草は羞恥を呼び込む。


「…大したことないよ。…なんにもできないもん防人なんて」


 今日あったことを思い出す。


「そんなことないでしょ。いつも街を守ってるじゃん!私たちガイジンはフェンスの外に簡単に出れないから防空壕にも入れないしサイレンの音とかすごく怖いけど、いつも無事でいられるよ。それって半兵衛が守ってくれてるからだよね。いつもありがとうね!」


 少し心が温かくなるのを感じた。真正面からお礼を言われたのは初めてかもしれない。みんな防人の義務を当然だと考えている。誰も僕に感謝なんてしない。どうせ娼婦の営業トークなのに嬉しいと思う自分がいるのを否定できない。


「さて。そろそろ私はしけこむよ。君たちももっとまったりとしたところで話すといいさ」


 司令は両脇に女の子を連れて部屋から出ていった。まさか3p?!性豪なのか?!


「じゃあわたしたちも行こうよ。もっと半兵衛のこと知りたいなぁ」


 僕はマリリンに手を引っ張られて部屋を出る。そして廊下を連れられてとある部屋に連れ込まれた。そしてドアが閉まるとマリリンが首元に抱き着いてきてキスをしようとしてきた。僕はそれを顔を反らして避ける。


「…君の仕事はわかるけど。そういうことする気にならないんだ」


 僕は部屋にあったソファーに座る。マリリンはその隣に座ってきた。


「わかるよ。童貞なんでしょ。大丈夫!ちゃんとリードするよ!わたし初めての人が失敗しても笑ったりしないし!むしろちゃんとできるように応援するから!」


「そういうのじゃねぇんだよ。…今日。目の前で人が死んだ」


 僕がそう言うとマリリンは気まずそうな顔になった。


「僕と同い年くらいの子供だった。まだ未来があったはずなのに大人たちの薄汚い都合であっさり死んだ。誰もその死を悲しんでない。その子はガイジンだ。僕や君と同じ。命の安いガイジンさんさ」


 僕は俯く。彼の死はいったいなんだったんだろうと。データ取りには貢献したのだろう。だがその生は?ガイジンたちはフェンスと呼ばれる隔離区域での生活を余儀なくされている。仕事の時以外はそこから出ることは出来ない。フェンスの内側では治安は崩壊している。疫病、犯罪、ドラック、人身売買、人種間対立。この世の汚辱がそこに詰まっている。


「僕は小さいころ宇宙飛行士になりたかった。夢は叶うって信じてた。それが今や怪獣相手に命張って戦うだけの日々だ。なあマリリン?」


「なぁに?」


「君は何になりたかった?」


 意地悪な質問だと思う。娼婦になった女に将来の夢を問うなんて残酷だろう。


「わたしは。わたしは…アイドルになりたい」


 マリリンは真剣な顔でそう言った。


「なりたい?なりたかったじゃなくて?」


「わたし、いまでもアイドルになるための活動してるよ。絶対にアイドルになるの。みんなの前で踊って歌って笑顔にするのが夢なの」


 マリリンは立ち上がってベットの上に立つ。そして踊りはじめ、歌いだす。


「~~~♪」


 それは華憐で愛らしく、なによりも希望に満ち溢れている歌だった。


「どう?なかなかやるでしょわたし」


 マリリンは額の上でピースをしている。僕はそれを見て思わず笑ってしまった。


「ほら笑顔になった。わたしきっとアイドルの素質あるよね」


「…かもしれないね」


 マリリンはベットから降りて俺の前に立ち、俺の額にキスをした。そしてぎゅっと胸に俺を抱き寄せる。


「世界ってさ。酷い場所だと思うの。でもだからね。きっとみんな頑張るんだよ。頑張って頑張って最後に幸せになるの」


 僕はそのひどい世界を守るために戦っている。それでもいいのだろうか。


「だからありがとうね。わたしたちが生きるこの世界をいつも守ってくれてありがとう」


 マリリンは優しくそう囁いてくれた。僕はその言葉で強張っていた体の力が抜けるのを感じた。もしかしたらこういう温もりも幸せなのかもしれない。そう思った。













 結局ヘタレなので、やることはやらずにマリリンとお喋りだけして朝を迎えてしまった。それでも楽しかったから構わない。憑き物が落ちたように感じた。早朝の浜松の街を僕はゆったりとしたペースで歩き、基地へと向かう。寮に戻って爆睡する前にプーパ・エクテスのハンガーによった。僕が世界を守るための剣。その存在を改めて感じておきたかった。


「これからもよろしくな相棒」


 僕の機体にそう話しかける。返事はもちろん帰ってこない。だけど十分だった。


「あれぇ?令了くぅんですかぁ?!もしかして私に会いに来てくれたんですかぁ!うれしぃい!」


 振り向くとそこには荒城がいた。ツナギの上に白衣を着ている。朝早くから仕事熱心なことだ。


「いやたまたま来ただけなんで。じゃ失礼します」


 僕は寮に向かって歩く。だが荒城に手を掴まれて止まってしまった。


「どうですか!どうせならジュノー・レジーナも見ていきませんか!最新の操作インタフェースやエンジンなんか防人として興味ないですか?!」


「ないよ別に」


「じゃあ!操作シミュレーションマシンに乗りません!安心してください!そっちなら死にはしませんから!次世代機のすごさを体感できますよ!」


 ちょっとそれには興味を覚えた。いずれは次世代機も戦場に配備されて乗ることにはなる。その前にお試ししておくのもありかもしれない。僕は荒城の後ろをついていってジュノーのハンガーへとやってきた。














 だから此処で見たものは。





















 何かの間違いであるべきだったんだ。


















「これがプーパ・エクテス、ジュノー・レジーナの中枢部である【贖児あがちご】です!」


「ふぇえ…」


 僕はそれを見て茫然自失した。脳がその風景を処理できなかった。


「あぁ?もしかして知りませんでした?プーパ・エクテスの中枢部の正体。いやぁその顔いいですねぇ。綺麗な顔が汚い真実に歪む顔!ぺろぺろしたいなぁ!」


 プーパ・エクテスの中枢部は国家機密だ。整備士もそのコア部分には手を出さず必要があれば中央の防衛技術研究所へと返却している。


「【贖児】。この子がプーパ・エクテスの根幹です。怪獣という神にも等しい存在をこの世界に繋ぎとめる楔の巫子」


 僕は両手で口を押える。認めたくない。知りたくなかった。教えてほしくない。これ以上もう見たくない!


「防人と同じように、【贖児】も人々の中かから選別されます。ですがそれだと機体性能差がどうにもピーキーになりすぎます。だから第三世代からは改良を加えたんです。冠凪シリーズ」


 いやだいやだいやだいやだいやだ!


「そのプロトタイプ。過去最高の人造巫女。個体名、逸琉いつる。ああ。そういえばあなたの幼馴染でしたっけ?良かったですね。これからは同僚ですよ」


 絶望は目の前にあるんじゃない。とうの昔から用意されていたんだ。僕はその陰に今追いつかれた。











-----作者のひとり言-----


この世界の浜松市は大都会なんだぜ!具体的には名古屋よりもでかいんだぜ!


あと大岡山も大都会なんだぜ!でも設定だけで特に出る予定はないんだぜ!





個人的にはマリリンちゃんがかわいい。


マリリンちゃんが可愛いと思った方は


٩(⁎•ᴗ•⁎)و⚑マ・リ・リ・ン!マ・リ・リ・ン!と応援コメントを残してあげてください!



ではまたね!



あ、主人公がかわいそうだと思った方は★をつけていってください。


ではこんどこそbye!


 



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