第4話 破局


「大樹? ……うん。熱引いたね。記憶は?」


「最後は犬。えーと……」


 大樹の記憶の事を聞いてみたが、はっきりしてるのは、一つ前の前世は犬で老衰した事で、その前の前世は順番は曖昧だったが、アリや小魚もあって他にもあったらしいのだが、よくわからず、かなり昔の前世に人間もあったらしい。ただその事はほぼ覚えていないらしい。私は5日以上発熱が続いた患者しか見た事が無かったため、大樹のあまりの記憶の無さに少し驚いたが、こんな感じなのかとも納得した。アレード発病後に性格が変わったと言う事はよく聞く事だったので、それから数日、大樹に違和感を感じたが普通に生活した。

 そして、前々から決めていた婚姻届けを提出する前日、


「朱里、ごめん。結婚出来ない。本当にごめん」


 私は意味がわからなかった。私たちの関係は上手くいってると思っていた。この数日間は、いつもの大樹とは違う気がしていたが、アレードの後遺症的な物かと思っていたからだ。 


「大樹、理由を聞いていい?」


「俺、朱里の事は好き。今でも好きなんだけど、なんかアレード後は違う好きになっちゃったというか……」


 言葉を返せなかった。


「なんか、俺……、女の子を恋愛対象に見れなくなったと言うか……、別に誰か男を好きになったとかじゃないんだけど……、だからごめん」


「もしかして、前世の記憶にあった、人だった時の記憶女だったの?」


「…‥あんまり覚えてないんだけど、たぶんそう。あと、これは関係あるか判らないんだけど、一つ前の前世での犬の飼い主が男の人でとても可愛がってくれてた思い出があるんだ」


 私はどこにぶつけていいかわからないこの感情を両手をギュッと握りしめこらえて、


「そか、それじゃあ仕方ないね」


「朱里……。もう少し時間をくれないか? 自分でもよくわからなくて……」


「うん。私も考える時間欲しいかも」


 私は言ってはいけない事を言いそうになったので、少し荷物をまとめて同期だった茜のところに、とりあえず泊めてもらう事にした。学生時代からの付き合いだったので相当落ち込みもしたが、茜の、


「結婚しちゃう前で良かったよ」


 など、の励ましでだいぶ落ち着いた頃、大樹から連絡があり、両実家に婚約解消の挨拶に行く事となった。結婚式も決まっていたが、当然キャンセルになった。意外だったのが、両実感共に円満に解消してくれたのだ。大樹の父親の話しで、


「かあちゃんには言って無いんだけどさ、俺も昔、人間だった記憶があって、かなり女好きだった。これが性別逆だったらと思うと怖いよ」


 などと、励まされたりもした。

 これからの人生大樹のが大変だろうと言う事はお父さんもわかっていたはずなのに本当にありがたい。

 私の実家では、


「じゃあ二人は恋人じゃなくて友達になれば良いんだ」


 と、言われて大樹はそれにすごく乗り気だったが、私はまだそこまで割り切れなかった。

 それからしばらく実家で過ごしたが、流石に職を探さなければならない。私の経歴だと職探しにはさほど困らないのだ。人生二周分を認められているからだ。この時代ではかなり価値の高い経歴である。全世界でアレード後に増えた職業は様々ある。アレードに直接関わる仕事はもちろんだが、例えば、来世占いとかまであったりもする。

 

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