第3話 完治と発病

 次の日も熱が引かなかった。その翌日。目が覚めて、ボーッと病室にあるテレビでニュースを眺めていたら、


「昨夜未明、男性(47)がビルから飛び降りて死亡するという事故がありました。遺体からはアルコールが検出されており、ご家族の話では、前世は鳥だったと言う事で、またしてもアレードによる被害者が出てしまいました。みなさんも飲み過ぎには気をつけて下さい。続いてのニュースです」


 んー、私何者だったのかなぁ……?


「朱里ー、起きてる? 長いねーとんでもない大物だっりするんじゃないの? もし、転職とかするなら私にも相談してよ」


「転職かあ……。だよね、まだ全然記憶戻ってないから、わかんないけどね……」


 本当に少しも思い出さないんだなあ……。


 この時代に社会人で人だった記憶を取り戻した人の転職率は70パーセントを超えていた。前世の記憶で成功した人が続々と現れていて、役所でその証明書が発行されていて、履歴書にも書けるほどだった。


 いつの間にか眠りに落ちていて、次に目が覚めたのは翌日の昼だった。目が覚める直前に何か夢みたいなものを見た気がするが、覚えていない。それよりも、前世の記憶が戻っていた。戻るというより、知識が増えた感覚で、頭がすっきりして、熱も引いていた。


 いつも熱の引いた患者さんに聞いていた事を自分でしてみる。


 私は、近い前世で心理学を大学で教えていた。その時の名前は……、えと、高野春子。独身で……、なんで死んだんだっけなぁ? 思い出せない! 35才くらいまでの記憶はあるな。んーでも、一つ前の前世じゃない気がする。二つか三つ前だと思う。

 茜に報告するか、ナースコールするまでもないな。

 体は元気なので、自分の足で行く事にした。その途中で大樹にあった。


「朱里、もう平気なの? 記憶は? 俺の事覚えてる?」


 元気そうな私を見て、熱が引いたとわかったのだろう。大樹はすぐそう聞いてきた。


「うん。超元気。もちろん覚えてるよ、今までありがと、大樹」


 私の肩に正面から手を置いていた大樹は、安堵の様子から、不安な表情へ変わった。


「今までって? 俺振られちゃうの?」


 この何日間かで大樹はアレードについて結構勉強していたようで、300人に1人にしか思い出せない人の記憶を得るであろう私が心配になったのだろう。人が変わった様になる例は少なくないのだ。


「ばーか」


 それから役所で前世の記憶が認められて結構な経歴の持ち主となった。まだ、この頃の前世承認システムは出来たばかりで、ちゃんとはしていなかったが、テストみたいなものや、大学に高野春子の教授としての名前が残っていた事から認められた。

 すぐに看護師として職場復帰したが、民間企業に押されて部署自体が無くなる事が決まったので、そのタイミングで寿退社にした。 

 それから、数日後、私と大樹は私の前世の記憶にあった大学付近を懐かしみながら散歩していた休日。


「んー、この辺は見覚えないなぁ……」


「そりゃそうでしょ、朱里がここにいたの60年くらい前でしょ? この辺新しい建物ばかりだよ」


 などと、会話していたら、大樹がアレードを発症してしまったのだ……。


「大樹ー、ウチ着いたよ。歩ける?」


 すぐにタクシーで帰宅した。


「うん。ごめんね」


「何言ってんの? 大丈夫。私プロだから、何か食べたい物とかあったら遠慮しないで言ってね」


 その日、大樹はそのまま寝てしまい、4日後熱が引いて完治した。

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