第2話 レッドシダー

 重く曇った空の下、冷たく湿った苔の匂いに、杉のような香りが混じる。ここにプルメリアの気配がないことだけは確かだろう。あたりには枯葉のじゅうたんが広がり、ぽつりぽつりとした小鳥の鳴き声が、次々とそこに吸い込まれていく。目の前が霞んで見えるのは、私の疲れのせいだろうか。それとも、低く垂れ込めた霧のせいだろうか。もう、どうでもよくなってきた。


 しばらくの間、まともに眠れていない気がする。真っ暗闇に放り込まれたと思いきや、ぐるりと周りは冷たく乾いた空気に包まれ、体の下から突き刺されるような震えと低い響きに覆い尽くされた。しばらくすると、重く長い加速を感じて、体がふっと浮き、耳鳴りに次ぐ耳鳴り。


 一体、あれはなんだったのだろう。私は巨大な鳥の腹にでも入れられたのだろうか?

 思い出すだけでも頭痛が蘇る… そんなことを考えながら、木々の間のぬかるみ道を抜けていくと、おもむろに灰色の建物が現れた。


 知らないけど知っているような気がする、全てが整ったような匂い。その奥には、混じり合いの世界。最後に聞いた「クッキー」の響きがふいに思い出される…

 その温かさに落ち着きを取り戻したのも一瞬のこと、ガラスの向こうからたくさんの視線を感じて、私の心臓はまた忙しくなった。


 灰色の建物からは、背が高くて帽子を被った人が出てきた。この人からは、ごはんの匂いがする…どこか塩気のある香り。その人は、慣れた手つきで私たちを順番に向こう側へと連れていく。


 私を抱き上げると、「シマイだ」と言った。

 シマイ…初めての音だ。ここでの新たな合言葉だろうか?


「クッキー、寒くない?」

 そう、やはりここでもクッキーなのだ。ではシマイとはなんだったのだろう。そして大丈夫、私は寒さには負けない自信があるのだ。


「クリーム、いい子だね。」

 今度はクリーム?私の聞き間違えだろうか。「ク」しか正しくないじゃないか、失礼な。


 違和感を覚えたのも束の間、私のすぐそばにどこか懐かしい匂いが舞い降りた。


 ほんのりとプルメリアの甘い空気をまとう、まるで陽の光を浴びた砂浜のような色をした、ふわふわとした小さな体。

 薄青く丸い目玉がこちらを向き、私はいつの間にか息を飲んでいた。


 これは一体何が起きているのだ。見たところ、柔らかな毛並みのその小さな存在はどこか無防備で、透き通る目は穏やかさに包まれ、幸いにも私は身の危険を感じない。「シマイ」とは、共同生活の合図だったのか?


 永遠とも思われる一瞬が過ぎたのち、私たちはどちらからともなく徐に挨拶を済ませた。


 はっきりとわかる。プルメリア、そして温かい潮風。


「クッキー」と呼ばれたような気がした私はそそくさと体を丸め、私たちは体を寄せ合いながらしばし休んだ。何かを感じるには、今日は… あまりにも多くのことがありすぎた。


 きっとあなたもそうだよね、クリーム?

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