罪人の祈り

夜依伯英

罪人の祈り

 罪人の許には、一つの秘密以外に何も残らず、その秘密も彼を傷付けることしかしない。罪を赦す者、救いの主が彼を訪ねるまで、彼は何一つも愛せないまま。彼の枕元には今でもずっと好きなもの。想い出と悲しみの象徴が寝そべっていた。彼のピエロは笑わない。彼は言葉を辿って祈る。


「私が受けた愛が、あなたにも注がれますように。私が受けた祝福が、あなたにもありますように。あなたが光り輝く道へ歩き始められますように。あなたが怖い夢を見ませんように。あなたが淋しくなりませんように。あなたが頭を抱える憂鬱に押し潰されませんように。あなたが他人を恐れずに済みますように。あなたが家族を愛せますように。あなたが家族に愛されますように。あなたが自分を愛せますように。あなたが私を愛さずにいられますように」


 罪人は、鎖を引いて光を見ていた。空が明るい黒に沈んで歌っていた。月が泣いているのを見ると、罪人は手元から零れ落ちる砂粒に気付いた。彼は、それが金色に、玉虫色に光り輝く粒であることに気付いた。それが増えたり減ったりするのを見つめて、結局彼の許にはやはり何も残らない。秘密が叫ぶのを聞いて、彼は煙草に火をつけた。煙が揺らめく夢の中、精霊の譫言の中で、彼は光る板に希望を探す。その光は決して輝かず、彼の目を、手を、脳を震わせる。そこに何もなくても、彼の空の彼方の海には無形の面影が暗く閉じている。

 その板が何も言わないでままいるのを見て、聞いて、無音に耳を傾けて、彼は自分の罪を再認する。ああ、これは自分が犯したあの罪であり、あの罪は子を孕んだのだ。もし、あの輝きがもう一度柔らかい微笑みで歌うなら、そう思いつつも彼は罪に押し潰される。彼の罪は、彼の選択。彼の選択は、彼の罪。彼は罪を犯し続ける。思い直すことなどない。どれだけ憧れていても、その道を歩むことは二度とない。もしも翼があったのなら、どこまでも飛んでゆけたのだろうか。罪人は、彼の足首に抱きつく重力を見た。それは小さい魔物であった。それは酷く浮ついてしまうような軽さ、軽薄、そういった重力の魔であった。彼はその魔物を殺すこともできずに、存在の耐えられない軽さのうちに沈んで死んだ。

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