第40話 私に触れて欲しい Ⅱ
【金魚掬い】
水槽の中に大量の金魚が放流されている。
水中を動き回る金魚を和紙で作られた脆い紙で掬い上げて、専用のボールに入れることが出来れば成功だ。
「えぃっ!! とりゃぁっ!!」
玲奈が軽快な掛け声と共に、腕を捲って挑戦を始めた。
「玲奈、そんな勢い付けたら取れないぞ!」
「すぐ紙が破けちゃうから、意外と難しいんだねぇ」
家庭科の授業で見ていたから分かる。
玲奈は繊細そうに見えるが、実は意外と不器用だったりするのだ。
黒くて大きめな金魚を執拗に狙っているみたいで、何回も紙を破って失敗を重ねている。
玲奈の横顔は真剣そのものだ。
……にしても、さすがに必死過ぎだろ!!
「むむ、取れない!」
「黒いのは大きくて難しいから、赤くて小さい金魚に挑戦しようよ」
「やだっ、狙うのはこの黒くて強そうなデメキンだよ」
「やだって……わ、分かった!」
……子供か!!
てな感じで突っ込みたいところではあるが、一回集中すると中々諦めないのが霧島玲奈だ。
……ここは二人の力を合わせようか。
「一緒に掬ってあげるからゆっくりね」
「わ、助かる!」
「玲奈が下から持ち上げて水から出したら、すぐに俺が下から受け取ってボールに移すからな!」
「うん、よろっ!!」
玲奈と肩を寄せ合って金魚を掬う。
肩と肩が触れ合っていることを実感しているのか、時よりモゾモゾと肩を動かしている。
……こういう時ですら、ちゃんと触れてやっているんだ。
「「今だ、とりゃっ!」」
水面から離れると同時に金魚掬い用の『ポイ』をボールに移動させ、無事に金魚の王様を捕らえることに成功した。
「……やった、さすが隼人くん!」
「だろ。金魚を掬わせたら俺の右に出る者はいないんだからな!」
「ふふっ、子供みたい」
「玲奈にだけは言われたくない!」
二人ではしゃぎながら喜んだのも束の間、店の人間から注意をされてしまった。
『やいやい、兄ちゃん達よぉ。協力して金魚を取るのは禁止だって看板に書いてあるだろ?』
「あ、マジだ」
「ごめんなさい、夢中になり過ぎて気付きませんでした!」
『……まあ頑張ってたから、これは餞別だ』
苦労して手に入れた黒い金魚は諦めて、変わりに沈んでいたスーパーボールを二個分無償でくれた。
青くて透明なスーパーボールと赤くて透明なスーパーボール、俺は青色を貰い、玲奈に赤色を渡した。
「色違いのお揃いだな」
「ハズレ枠の景品にしては結構綺麗だよね」
「覗いてみるとキラキラのラメが入ってて、透明だから反対側が見える」
「ふふっ、ほんとだ。隼人くんの顔がぐにゃって曲がって見える」
「俺の顔は見なくてもいいんだぞ!」
思い出に残る戦利品を手に入れて、金魚掬いを攻略した。
◆◇◆
【射的】
おもちゃのピストルを使用して、所定の位置から景品を撃ち落とせれば、その景品を貰うことができる。
コルクでできた所持弾は三発きっかりだ。
一回三百円と高校生に取っては地味に高い。
集中力が試されるこの遊び、子どもには少々難しいゲームとなっている。
「あの人形可愛くない?」
「ん、射的の景品のアレのこと?」
「そうそう」
「一番奥にあって、当て辛そうだな」
数ある景品の奥に隠れている人形。
サイズも小さめで狙うのが難しい。
玲奈の射撃のセンスが問われる局面だ。
玲奈はピストルを構える。
出来る限り銃を景品に近付けて、しっかりと狙いを定めた。
『パンっ!!』
「おっしぃ、ちょっとズレた」
「やっぱピンポイントで狙うのは厳しいんじゃないか……」
かなり難易度が高い、てか無理ゲーすぎる。
寸分違わない射撃の精度を要求してくるのだから、祭りのゲームとは思えないレベルの遊びだ。
「うっ、次こそ!!」
『パンっ!!』
横数センチ程ズレて、空を切る弾丸。
「惜しい惜しい!!」
残りは後一発だ。
と、ここで玲奈が苦悶の表情を浮かべながらも、囁いてきた。
(隼人くん、私に大いなる力を分けて……!)
(そんな大袈裟な!)
囁く時は大体本気だ。
何かを求めている……!
さすがに俺だって何をして欲しいかは、もう分かるぞ!
……だからピッタリと背中にくっ付いて、射撃が安定するように肩と肘を支えてあげた。
(( むはっ、近っ!! ))
相変わらず髪が綺麗だ。
いつも以上に良い香りが漂っている!
幸せを感じていたら、玲奈が反応を示した。
「はぅっ……」
「この反応……気合い入れるどころか、逆にフニャッとして、力抜けてないか?」
「大丈夫、気持ちぃ……いえ、集中力と精度は増してるから気にしないで触ってて」
プルプルと小刻みに震えているが、まさか……まぁ、細かいことはいいだろう。
若干シュールな光景なのは否めない。
浴衣姿の二人がベッタリと密着し、周りのギャラリーが少々ざわついてはいるものの、お互いの呼吸を合わせながら……放った。
『パンっ!!!』
景品と景品の隙間に入り込み、一直線に狙いの人形へと打ち出された。
途中の不自然に揺れ動く意地悪な障害物すらも避けていき、ついに人形の胴体へと弾が命中したのだが……。
「重すぎだろ!」
「えっー、今、絶対当たったよね!!」
すると、ケチ臭い店主が口を開いた。
『ダメダメ、景品は落とさないと渡せないからね。これは無効だよ』
気付くと周りには相当数の人が集まっており、店主に非難の嵐が舞っていた。
『ボッタクリやん』
『二人で頑張って当てたのにそりゃないわよ』
『流石にまけてやっても良くね?』
『SNSにアップしとくわ、射的のケチ臭いおっさん、ってな』
『『『 ブーブーブー 』』』
こりゃ予想外だ。
責められたおっさんは後に引けなくなり、景品であるうさぎの人形を玲奈に手渡した。
『ち、商売上がったりだ!』
……この人形ってそんな高価な代物なのか?
今回は全く知らない人に助けられてしまったな。
なんか地味に盛り上がってるし、感謝感謝!
結果として、玲奈は嬉しそうに人形を手に取り、近くにいた見物人と一緒に写真撮影をした。
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