第41話 私に触れて欲しい Ⅲ
湧いていたギャラリーのおかげで無事にうさぎの人形を奪取でき、更に写真まで撮ってもらえてテンションは高めだ。
丁度お腹が空いてきた頃合いなので、近くの屋台の綿アメを作ることにした。
自分の顔面よりも大きいサイズに膨れ上がり、それぞれ違う味の綿アメが出来上がった。
「そっちレモン味でしょ? 一口だけ頂戴♪」
「いいぞ!」
「アーン♪」
玲奈は目を閉じて口を近づける。
俺は少しずつ綿アメを玲奈から遠ざけていく。
中々綿アメに辿り着けない状況だ。
……何だか、揶揄うのが楽しくなってきてしまった。
「あ、あ、アーン? あれぇ?」
「もう一回やってみて!!」
「うん。アーン……」
『ペタっ……』
今度は前に来過ぎてしまったので、綿アメが玲奈の横顔にくっ付いてしまった。
「玲奈ちゃんと前見ないから」
「あぁっ、ワザとやったなぁ〜!!」
ポカポカと叩いてくる玲奈は、やはり愛おしい程に可愛かった。
「綿が顔にくっ付いてるぞ!」
「えーっ、どこぉ??」
「ほら、目の横あたりにあるから取ってあげる!」
「はぁい♪」
……また目閉じちゃったけど。
プルっとした唇を突き出してきて、何やら誘ってる感じが半端ないが……。
「んん〜〜」
(これはもう……やっちゃっていい??)
……ダメダメ!
まだ早いから、熱い口付けは今じゃないだろ!
だから普通に取ってあげた。
少し残念そうにしていたが、すぐに向き直って話し始める。
「はい、これで綺麗になったかな」
「フワフワしてるから、全然気付かなかったよ」
「言わないでおこうか迷ったけど、可哀想だから教えてあげたんだよ?」
「ええっ、隼人くんって、たまにイジワルだから悪い子だよねぇ〜」
「いや、子供っぽくて可愛かったからそのままでも絵になったよ」
「私だって今年17だよ?! 子供じゃないし〜」
「ははっ、冗談だって!」
何気ない会話をしながら祭りの屋台を散策していると、玲奈が何かを発見したようだ。
「あの子、一人ぼっちだけど、もしかして親とはぐれちゃったのかな?」
「ずいぶん小さい子だから心配だな」
「私、ちょっと声かけてくる!」
「あ、待って……!」
玲奈が行ってしまった。
子供の方も保護者を探しているようで、人混みを掻き分けながら前に進んでいる。
……人が多いから見失わないように後を追わなければ!
『ドカっ……!』
遠くを見をしながら歩いていたので、ガタイの良い見知らぬ兄ちゃんとぶつかってしまった。
面倒そうな人間に遭遇したかも……やたら睨んできてるし、謝ってさっさと逃げてしまおう。
「すいません」
『くそっ、ちゃんと前見て歩けよな』
「失礼しました」
『けっ、気を付けやがれ』
ムカつく野郎だが、こんな輩を相手にしているほど暇じゃない。
まあ、何とか絡まれずに済んだので良しとしよう。
……そうこうしている間に玲奈と子供を見失ってしまった。
こうなると下から見つけるのは困難を極める。
高い場所に登って見渡してみようか。
人は多いけど、上からなら見つけるのはそう難しくはない。
「えーっと、俺たちが居た場所は……あ、玲奈、発見!!」
でも子供の姿がない。
無事に親が見つかったってことでいいのかな?
追いかけていた子供の代わりと言ってはなんだが……。
「アイツ誰?」
玲奈の手を引っ張って何処かへ連れて行く謎の人物。
「おい待て! 何処へ行く気だ!!」
特段嫌がっている素振りは見せていない。
見た感じ知り合いの可能性が高いと思うが、玲奈が嫌がらずに、且つ、俺を差し置いて付いていく
クラスメートの男子ではない。
……とするならば、まさかの彼氏?!
「いやいやいやいや、違う。霧島玲奈に彼氏がいないのは分かってるんだ!」
(だがそれは単なる妄想に過ぎず、実は俺に色々見せつつも、他に男が居たとか?!)
……嘘だ!
有り得ない!
俺は信じないぞ!
「……玲奈は正真正銘の変態さんだが、淫乱ではないんだ!!」
こんな時こそ、落ち着かなければ。
仮に奴が彼氏だったとしても別におかしな話ではない。
そもそも二年に上がってから、よく今まで何もなかったな、とは思う。
加えてこの無礼講な祭りの場だ。
可愛い女子を狙っている男はいくらでもいるだろうから、ナンパの可能性も捨て置けない。
……いずれにしても尾行して様子を伺うか。
何より今日一緒にデートを楽しんでいるのは、紛れもなく、この俺だ。
途中で取られたなんて、いい笑い者だぜ。
ちなみに今居るこの高台は、絶景の花火を見るための隠れスポットとなっている。
多分まだ誰にも知られていない、地元民ならではのデートスポットの一つだ。
「玲奈たち、どこに向かってるんだ??」
階段を登って。
わざわざ細い道に入り込んで。
それから裏道らしき場所に潜り込み……。
「目的地、ここじゃん! か、隠れないと!」
あまり盗み聞きは褒められる事ではないが、茂みに隠れて二人の話を聞くことにした。
————次回、玲奈視点からスタート。
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