第39話 私に触れて欲しい Ⅰ
自宅の近くにある大きな河川敷。
例年通りこの季節になると数々の屋台が立ち並び、夏の風物詩とも言える花火大会に打って付けのお祭り状態となるのだ。
河川敷は真ん中の川を起点とすると結構な高低差があり、上に行くほど景色がよく見える造りである。
いち早く席を確保するため、早い段階から来ている一般のお客さんが散見された。
「この辺で待とう」
俺は今、玲奈との待ち合わせ場所に指定した所に来ている。
出店が立ち並ぶ通りの入り口、長い河川敷下流のスタート地点だ。
既にだいぶ人が多い。
市外や県外からも遊びに来る程には有名な花火大会だからな。
羽目を外した同年代の連中もたくさん来ているようだ。
「ちょっと早すぎたかも……」
……待ち合わせより三十分も早い。
自宅に居座っててもやることがないし落ち着かない感じだったから、さっさと着替えて河川敷まで来てしまっていた。
祭り会場の入口付近をウロウロと徘徊する。
こないだのプールの一件で、玲奈との間に若干の気まずさがあることは否めない。
「うーむ、なんて声かけよう」
……俺は最初の第一声を考えていたのだが、どうやら心配する必要はなかったみたいだ。
『ポンっポンっ』
いきなり肩を叩かれた。
……ハッと慌てて振り向くと、頬に何者かの指がめり込んだ。
「うぇっ……」
「隼人くん、変な顔〜」
「誰のせいだよ!」
霧島玲奈が突如として現れた。
さり気なく背後から近付いてきていたらしく、全く気付くことが出来なかった。
毎回何かしら仕掛けてくるから油断ならない。
「先に行っちゃいそうな雰囲気だったから教えてあげたんだよ!」
「次からは普通に呼び止めなさい!」
「えぇー、分かったよぉ」
思ったよりも全然普段通りだったから、安心しつつ、玲奈の浴衣姿を下から上までじっくりと眺めていった。
所々に小さい花の模様が添えられた薄いピンク色の浴衣。
髪は下ろされていて、花の可愛らしい髪飾りがサイドに取り付けられている。
いつもと違った雰囲気の可愛さで、何と言うかもぉ、最高だ、それしか言えん!
「今日はまた一段と……可愛らしいですね!」
「ちょ、隼人くん、近くでガン見し過ぎて周りの人が引いちゃってるよ!」
「あ、ああ、悪い悪い……!」
周りに白い眼で見られている中、玲奈が囁いてきた。
(後で……ねっ♪)
(お、マジかマジか!! よっしゃ!!)
思わず感情が漏れ出てしまいガッツポーズをしてしまったばかりに、再び世間様から注目を集める俺がいた。
「今日は誘ってくれてありがとね」
「せっかく近所なんだし、二人でお祭り会場でも周りたいなって思ったからさ」
「去年のお祭りは引越し関係でバタバタしてて行けてないから、今日は色々とエスコートしてくれると期待してます♪」
「そりゃ、だいぶ無理難題だなぁ」
去年と出店の位置とか全然違うからエスコートもクソもないと思うが!
まあ予定は立てている。
予定と言っても、花火を最高のスポットで見ることができる秘密の場所に連れて行ってあげるってだけだ。
……それまではほんの前哨戦。
腹ごしらえをしっかりと行い、一通り玲奈と楽しんでムードが出来上がり次第、愛の告白を執り行う!
超綺麗な花火をバックにSNS映え最高潮のシチュエーションでだ!
◆◇◆
「じゃあ近くの出店から見て周ろっ……」
「あ、見て見て、大っきいフワフワっ!!」
「お、綿アメだな、一緒に作ろっか」
「賛成〜!」
こうして出店巡りが始まった。
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