第36話 身勝手な嫉妬心 〜玲奈視点〜
【霧島玲奈視点】
私は逃げている。
あてもなく逃げ続けている。
反射的に体が動いてしまった。
私を呼びかけている声が聞こえた気がしたけど、無視してその場から離れていた。
何で?
見てはいけないものを見てしまったから?
隼人くんが、他の女子のあんな所を楽しそうに触っていたことに嫌悪感を抱いて、嫉妬したからなのかな?
学校の時から寧々ちゃんの行動は見ていた。
明らかに隼人くんに好意を抱いていることはお見通し。
普段あまりしゃべらない感じの寧々ちゃんが、あんなに楽しそうに会話をしていた事実からも明らかだった。
連絡を取り合って、休み時間にクラスまで来て廊下で待ってたりしてたからね。
奈々ちゃんの話だと、前よりも表情が明るくなってるって聞いていたから、隼人くんの功績がかなり大きいんだと思った。
そして今日、プールにみんなで遊びに行くことになった。
見てもらいたい気持ちは今でも変わらないから、前もって準備していた奇抜な水着で気合いを入れて誘惑する私がいた。
日焼け止めを塗ってもらうのも作戦。
これなら無理なく触ってもらえるじゃん。
だけど背中だけじゃ段々満足できなくなって、もっと違う場所を触られたくて堪らない気持ちが抑えきれずに、プールサイドで胸を揉んでもらっちゃった。
男子ってほんと獣だよね。
許可を出した瞬間、隼人くん、目の色が変わってたもん。
でもやっぱり躊躇はしてたかな。
……そういう所が可愛いんだけどね。
かくいう私は何度も触られて、あまりにも気持ち良すぎてずっとやってて欲しかった……なんて思っていたのだから……。
もうただの変態みたいになってるじゃん!
その後はみんなで流れるプールに遊びに行ったけど、遠くの方で寧々ちゃんと二人で入水したのは知っている。
隼人くんはやけにあたふたしてたから、これは何かあるんじゃないかと勝手に想像を膨らませていた。
気が付くと、私はプールから上がって二人の近くまで走っていた。
……そして目撃した。
私だけを見てくれるはずだったのに、寧々ちゃんとの嫌らしい行為を見た瞬間、頭に血が登ってしまったの。
「私、何で勝手に怒ってるんだろ」
隼人くんだって男の子なんだから、もし誘惑されたとしたら断りきれない。
ましてや水着姿の女の子に誘惑されたら、欲求に抗うことって相当難しいでしょ。
本当なら後ろめたい気持ちになる必要だって一切ないはずなんだ。
……だって、隼人くんは浮気してるわけじゃないのだから。
私が身勝手に怒っているだけだ。
だけど多分、彼は後悔してると思う。
隼人くんは優しいからね。
寧々ちゃんに何か頼まれたのだとしたら、それを受け入れてしまうのも頷ける。
ああ見えて、寧々ちゃんってめちゃくちゃ積極的なタイプなのかもしれないって思った。
それこそ私以上にね。
……危機感。
……このままだと隼人くんを取られちゃう。
……嫌だ嫌だ嫌だ、それだけは絶対に嫌だ。
私の所まで、走って迎えに来てくれることを心のどこかで願っている。
……はぁ、私ってほんと気持ち悪い。
ストーカーだし変態だし独占欲強いし。
だからまともに彼氏が出来たことないんだろうなぁ。
私は更衣室まで来ていた。
みんなの所に戻るのがなんか気まずい。
持ち物は更衣室にほとんど置いてあるし、凄く申し訳ないのだけど、このまま帰っちゃってもいいよね。
ロッカーは女子四人共に近い位置を利用している。
鍵がかかっているから、まだみんながプールで遊んでいるのは間違いない。
……もしかしたら私を探してるかも。
だけどこんな状態では空気感が悪くなるし、仕方ないよね。
私は着替えを済ませた。
一人で帰るのは寂しいけれど、今日は明るい気分にはなれそうにない。
私は更衣室を出ようと振り返る。
「えっ?!」
「やっと見付けましたよ」
かなりビックリしてしまった。
真後ろに立っていたのは霞田寧々。
一瞬隼人くんが来てくれたのかと思ったけれど、女子更衣室だからあり得ないよね。
「う、うん。ごめんね心配かけちゃって。それで一人みたいだけど……どうしたのかな?」
「玲奈さんにお話があります」
十中八九さっきの事だよね。
以前の千里ちゃんみたいに敵対されてる可能性もあるし、何を言われるか気が気じゃない。
……だけど。
何を言われようと、やっぱり私の意思は変わらない。
ここまできて諦められるわけがない。
逆に言えば、隼人くんがフリーな内は身勝手な片想いでも構わないでしょ。
目の前の寧々ちゃんの真剣な表情を見て、落ち込んでいた私は改めて決意を固める。
負けない。
どんな手を使っても必ず振り向かせてやる。
他の子に
「いいよ、言ってみて」
「さっきの行為は私がやらせたことです」
「うん……」
「正直言って、本当に要望通りにやってくれるとは思っていませんでした。凄く嬉しくって、今でも結構ドキドキしてたりします」
「そっか、けど私だって……」
私は少しだけ反論しようと思ったのだけれど、途中で言葉を遮って話を続けてきた。
「……でも私、あの時気付いちゃったんです。神谷隼人君のハートを射止めるのは、私では無理なんだなって」
「えっ……」
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