第37話 覚悟 〜玲奈視点〜
「それってどういう意味……?」
「言葉通りの意味ですよ」
私の頭の中は混乱している。
寧々ちゃんの話す言葉の意味がよく分かっていない。
もう諦めたってこと……?
何で、どうして……?
「玲奈さんが来た時、隼人君はもう私のことなんかそっちのけで、まるで何事もなかったみたいに忘れられちゃいました。ゆっくりとその場を離れてプールから上がりましたけど、私が離れたことすら気付かずに、ずーっと玲奈さんの方に手を伸ばしながら後ろ姿を眺めて波に揺られてましたからね」
「……」
「心ここに有らずって感じでしたし、さすがに恋愛経験の薄い私でも分かりましたよ。私の入り込む余地はないんだなって……言いたかったのはそれだけです」
隼人くんは私のことを、本当のところどう思っているのだろう。
今までその核心的な部分には敢えて触れないようにして避けてきた。
自分の卑猥な性癖を盾にして、ただひたすらに逃げていただけだ。
「玲奈さん、聞いてますか?」
「う、うん、ごめん。寧々ちゃんにまで心配かけちゃって、なんか本当にごめん……」
「謝りすぎですって、どちらかと言えば謝るのはこちら側かと。だから気にしないでください、私はさっきので充分満足してますから」
私の所に来ること自体かなりの勇気が必要だったはず。
寧々ちゃんはおっとりしてて守ってあげたくなるような性格だけど、芯が強いよね。
全然しょげたりしないし、堂々としているようにさえ見える。
やってることはだいぶエッチだけど……自分を認めて欲しいって気持ちだけであそこまでやらせちゃうのだから、やり手だよ。
「余計なお世話かもしれませんし、あんな行為をさせた私が言うのもアレですが、神谷君と話した方がいいんじゃないですか?」
「うん、ありがと。寧々ちゃんだって本当は話したいよね」
「いえ、私にはリアルの男性よりも小説の男性の方がやっぱり楽だと分かったので、気にしないでください」
「ええっ、そういうものなの?!」
「これは秘密です」
寧々ちゃんってやっぱり不思議な子だな。
私が逆の立場だったらどうなっていたんだろう。
一日二日じゃ立ち直れないくらいショックを受けてた可能性もある。
好きな人に認めてもらえないって相当辛いことだから……。
私はどう行動するべきなのだろうか。
もしも、本当に両想いだったら……。
今こそちゃんと想いを伝えるべきなんじゃないかな。
今回の件だって、たまたま寧々ちゃんが折れたから取られちゃう心配がなくなったけど、この先どうなるかなんて誰にも分からない。
恋愛って突然だし、ましてや高校生の感情なんて唐突に変化していくものだと思う。
……迷っていたらいつか完全に離れていっちゃうかもしれない。
……。
うん、決めたよ。
もう迷わない。
覚悟は固まった。
「寧々ちゃん、ほんとにありがとう。私、決心がついたかもしれない」
「顔付きが変わりましたね。やっぱり玲奈さんはそうでなくちゃ」
「じゃあ、みんなの所に戻ろっか」
「ふふっ、そうですね。まだ時間はありますからちゃんと遊び尽くしましょう」
「うん!」
私たちはみんなの所へ戻った。
みんなはすごく心配してくれてたみたいで、敷いていたシートの上で待っていてくれた。
「みんな心配かけちゃってごめん……!」
奈々ちゃんが声をかけてくれた。
「隼人も寧々も急にいなくなっちゃうし、玲奈まで具合悪そうにどっか行っちゃうから、ウチらどうしようかと思ったよ」
「もう治ったから大丈夫……!」
「ならいいけどさ、隼人とは一緒じゃないの?」
「一緒ではないかな」
隼人くんどこに行っちゃったんだろう。
私が駆け出していなくなったから、探し回ってるのかもしれない。
「あ、いたけど……」
雅也くんが見つけたみたい。
「アイツあんな高い所で何やってんだ?」
「「「「どこどこ?」」」」
「わっ、隼人くん……何やってるの?」
隼人くんがスライダーのスタート地点でプール全体を眺めている。
あんなに必死になって私を探してくれている。
……なんか、涙が出そうだよ。
焦りながらずっと探してる。
右に行ったり左に行ったり、監視員の人が迷惑そうにしてるよ……。
私は息を大きく吸い込む。
限界まで名一杯吸い込む。
そして、人目も気にせずに……大声で叫んだ!
「ここにいるよぉぉぉぉ!!!」
ハッとした顔をしてスライダーを滑り降りてきて、プールサイドを走っている。
監視員の人に注意されてるのに……。
あんまり無視して走ったら目付けられちゃうじゃん。
「はぁはぁ」
「もう、あんな場所に陣取ってたら迷惑になっちゃうよ?」
「玲奈……そ、そうだよな。ミスった」
奈々ちゃんは何かを察したようで、気を利かせて暗い雰囲気にならないように号令をかける。
それに合わせるように他のみんなも続いた。
「よーし、残り時間は25メートルプールで競走だ! ビリは罰ゲームだからねー!!」
「お姉ちゃん水泳得意だからズルい」
「いや、俺走って戻ってきたばっかなのに、無理があるって!」
「お前体力自信あるって言ってただろ? ここは俺たち男子のパワーを見せ付けてやろうぜ!」
「アンタ達、スポーツでアタシの右に出る者はいないって知ってたか? ほら、玲奈も強制参加だからね!」
……私は恵まれているのかもしれない。
本当にいい人達に巡り会えて幸せ者だ。
「うん! 私も負けないから!!」
最後はみんなで仲良く疲れ果てて、波乱だったけど、色んな意味で思い出に残る一日となりました。
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