第22話 寧々ちゃんのことは見てあげてもいいよ



 半分の桃を見せびらかす玲奈、例に漏れず俺に品定めを求めてくる。


(どうかなどうかな?)

(張りと艶があって色っぽくて、玲奈のお尻、可愛いよ!!)

(嬉しい。ちょっと久しぶりの快感……)


 お尻が椅子にブニっと押し付けられて、風船みたいに潰れている。


 時折ワザと椅子を引くように体を上下し、動きを加えて誘惑してくるもんだから、丸っとしたお尻がその度に形を変形させる、自由自在だ。


(すごい美しい、もっと見てたい!)

(ハァハァ……見られるのって……やっぱ感じちゃう……でも、まだちょっと足りないかな)

(まだお尻だけだから……!)


 今は真横からスカートを軽く捲っているにすぎず、ムッチリとした太ももに隠されているため、半分のお尻しか見えていないが、少しでも横を向いてしまえば……。


 俺は目を細めて、できる限り太ももの奥に広がる何か・・を見ようと頑張っていたが……玲奈が囁いてしまった。















(……もっと奥まで見たい?)


 横から半尻を見せびらかしながら問い詰め、恍惚とした表情を浮かべる魔性の女が、そこにはいた。


 俺の鼻息は加速度的に荒らさを増している。


(うんうんうんうん! もっと見たい!)

(今は授業中なんだから、これ以上はダ・メ❤︎)

(はふぁぁ……)

(放課後までの……お・た・の・し・み♪)


 天にも登るような感覚に襲われていると、日本史の授業を行う教員から肩をぶっ叩かれた。


『神谷君、そんな犯罪者の目付きで霧島さんを見て、私の話を真面目に聞く気があるのかしら?』

「僕は何も見てません! 無実です!」


 そうだ、まだ何も見ちゃいないのだ。


『全く訳の分からないことを……中間テストも近いのだから、真面目に授業くらい聞きなさい!』

「色んな意味で済みませんでした!」


 再び肩を叩かれて喝を入れられる俺を横目に、何食わぬ顔でペンを動かす玲奈、舌をペロッと出して揶揄ってくるのだから悔しい。


 玲奈の教師に対する察知能力は鋭い。


 お尻とその先にある天国に気を取られすぎたせいで、怒られたのは俺だけだった。


((くっそ〜もうちょっとだったのに!!))



【昼休憩】


 俺は雅也と食堂に来ている。


「隼人、そろそろ彼女作らないの?」

「そりゃまあ……そう言う雅也はどうなんだ?」

「俺はまた新しく出来たぞ。隼人も早く幸せになっちゃいなよ……玲奈ちゃんとさ」

「ああ、夏までには決着をつけたいと思ってる」


 雅也は信頼の置ける友人だから、玲奈に好意を抱いていることは伝えている。


 変に漏らしたり言い振らすことはしない、そういう奴だからこそ信用できるし、最高の仲間なのだ。


 そう、夏だ。

 俺は夏の花火大会で告白したい。


 夜に打ち上げられる花火をバックに、最高のシチュエーションで玲奈に気持ちをぶつけてやるんだ!


「夏とか言ってたらすぐ取られちゃうぞ。お前、結構奥手っていうか、見てて焦ったいから早く言っちまえよ」

「そうだけどタイミングってもんがだな……」


 タイミングとか言ってたら、間の悪いことに玲奈が来てしまい、しかも女子を二人も引き連れて隣に座ろうとしている。


「隼人くんと雅也くん、隣いいかな?」

「丁度空いてるから隼人の隣に座りなよ」

「ありがと♪」

「ウチらもお邪魔するね! こっちは双子の妹だから仲良くしてやってよ」

「よろしく……です」


 双子の姉妹、霞田姉妹の登場だ。


 玲奈が連れてきた女子生徒はクラスメートで左前の席に座る霞田かすみだ奈々ななと、別クラスに所属している妹の霞田かすみだ寧々ねねだ。


 瓜二つの見た目をした二人だが、個々のパーツが左右対照で鏡写しの様に見える。


 ミディアムボブヘアー、黒と濃い青に輝くオッドアイの瞳が特徴的で、目の近くに小さなホクロがある美少女姉妹だ。


(よくよく考えてみれば、俺の周りって美少女多すぎるよな……ラブコメ漫画じゃん!)


 容姿はほぼ同じに見える二人だが、性格は真逆である。


「寧々ってば友達少なくて悩んでるみたいだから連れて来ちゃった」

「よろ、よろしく……です」


 奈々はテンションが高くて陽キャ寄りのギャルっぽい女子で、寧々は内気で人見知りタイプの女子。


 表情から見分けはすぐに付くので見間違えることも少ない。


 緊張の色を隠せない寧々に対して、初対面の玲奈が気を使って声をかけている。


「寧々ちゃん緊張しなくても大丈夫だよ。みんな優しいからね」

「うん。ありがとうございます」

「この男子二人はウチよりアホだから、気兼ねなく接していいのだ!」

「「奈々に言われちゃお終いだぁ」」


 初めて寧々ちゃんに会ったけど、本当にお淑やかで大人しい性格で、守ってやりたいと思わされる女の子。


 そんな感情に行き着いたので、俺から話しかけてみた。


「寧々ちゃんは何組の生徒なの?」

「二年E組です」

「クラスは楽しい?」

「怖い人が何人かいますので……」

「そういえばがいるクラスか……E組って結構荒れてるよな」


 天童の話題だと察した玲奈が思わず口を挟む。


「なんか言われたりしたら、すぐ私たちに相談していいからね。隼人くんがまた『ドカーン』てやっつけてくれるから!」

「次はあんな上手くいくか分かんないけど、いざとなったら助けるぞ!」

「俺も奴とは関わりをって敵対関係にあるから、いつでも協力してやるぜ!」

「ほら、もう味方が三人も出来ちゃった♪」


 天童か。


 もう二度関わることはないが、奴に恨まれている可能性は高く、何か仕掛けてきてもおかしくはない。

 

 忘れかけていた事だが、警戒をしておいて損はないだろう。


「皆さん……本当に優しい。何か合ったら相談したいと思います」

「姉貴に頼っちゃってもいいからね! ウチだって女子の中じゃ顔が効く方なんだから」


 天童も先生に相当目を付けられてるから、大きな行動は起こせないだろう。


 この時の俺はそう思っていた。


 だが、天童との再戦はまだ先の話である。



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