第20話 ちゃんと謝るから見てて欲しい



 【霧島玲奈 vs 遠山千里】がサイセリヤ内で開始されてしまい、現場は凍り付いている。


 店内の端の席だったから注目を浴びずに済んではいるが、近くにいたウェイトレスさんが若干引き気味なので、大変申し訳なく思っているところだ。


(いや〜ほんと冷や冷やしたよ)


 あと一歩止めるのが遅れていたら、服を引っ張りあったり、掴んだりでめちゃくちゃになっていた可能性が高い、そのくらい白熱していた。


 やはり二人を一緒に連れてくるのは悪手だったのか……別に仲が悪い訳じゃないはずだけど。


 それに今まで玲奈が怒ってるシーンって見たことなかったから、あのムスッとしたむくれた顔が……子供みたいで可愛いかった。


(しかしまあ、こういうの初めて遭遇したけど、テレビで見るよりも生々しくてビビる)


 俺が上手く仲裁してやるのが、二人を呼んでしまった責任でもあるし、筋ってもんだ。


 頑張って仲直りしてもらうか。



 ◆



 そして数分後、先に玲奈が戻ってきた。


 三人分の飲み物を持ち、後悔を口にしながらキョロキョロと周りを見渡す玲奈。


 席に腰を下ろし、持ってきたオレンジジュースを飲みながらため息を付いているようだ。


「はぁ、何で私あんなに熱くなっちゃったんだろ。千里ちゃんに酷いこと言ってたよね」

「玲奈も知ってるだろうけど、千里は結構言い方キツイところあるからイラっとしちゃう気持ちもわかるし、納得いかないのもわかるよ」

「うん……」


 まだ少しだけプリプリして下向き加減な玲奈ではあったが、何かを決心したかのように言ってきた。


「私、千里ちゃんに謝ってみる」

「それがいいと思う。やっぱギスギスしてると学校でも面倒くさいし、すっきりしないからな!」

「うん、頑張って謝る」


 また数分すると、次は千里が戻ってきた。


 汗をかいてしまったのか、大人っぽいカジュアルな薄手のコートを脱ぎ、腕に引っ掛けながら歩いてくる。


 千里も玲奈同様に気まずそうにしていたのだが、すぐに玲奈の近くに歩み寄り、頭を下げてお詫びをし始めた。


「玲奈、ゴメン!! アタシがどうかしてた」


 少し驚いた表情を見せた玲奈だったが、すぐに自分自身でも謝罪の言葉を述べた。


「あっ……私こそ、酷いこと言っちゃってごめんなさい」

「アタシが先に手出したようなもんだから……玲奈は気にしなくていいよ」

「うんう、私も勝手な事言ってたから」


 千里は後を引きずるような性格じゃないし、一旦頭を冷やして冷静になったおかげで、我に帰ったみたいだ。


(俺が仲裁するまでもなかったな)


 俺はホッと胸を撫で下ろしながら、チェアーを一つ用意してもらい、廊下側に座ることにした。


 ソファーに向かい合って座る二人の間に火花こそ散っていないものの、心の底では闘志をギラギラさせていると思う。


 まあ玲奈の場合、恋愛感情というよりは自分だけを見て欲しいってことなんだろうが……。


 中間テストが終われば、次は体育祭の時期に差し掛かる、また一波乱ありそうだ。


「さて、お互い仲直りもできたことだし、なんか頼んじゃおうぜ!」


「そ、そうよね。アタシお腹ぺこぺこだったの忘れてた」

「私もお腹すいちゃったよ。ミラノ風ドリアでも食べよっかな」

「やっぱり玲奈もドリアなんだ。アタシも毎回こればっか頼んでる!」

「美味しいよね〜もはや定番と化してる」

「ははっ、最近はオリーブオイルをかける食べ方にハマってるんだよね」

「私それ知らなかった! 半熟卵も美味しいけどカロリー高そうで気になってたから試してみたい♪」

「アタシのオススメだからやってみ♪」


 うむ、女子って移ろいやすい生き物だ。

 

 そして微笑ましい光景である。


 美少女二人に囲まれながらハーレムを満喫して、内心ニヤけている俺がいた。


(どっちも可愛いぞ!)


 二人は同じミラノ風ドリアを頼んで、俺はイカ墨パスタを注文した。


 玲奈はあっつあつのミラノ風ドリアにオリーブオイルをひとまわしかけて、口に運ぶ。


「熱っっ!」

「そんな急いで食べると火傷するぞ!」

「うぅっ……隼人くん、『フーフー』ってして食べさせて」

「マジ?!」

「ダメ……かな?」

「もっちろんいいぞ!」

「アーンっ」

「フーフー、アーン」

「美味しい♪」


 玲奈の積極的すぎる行動を見た千里は、負けじと行動を開始する。


「隼人、アタシもこんなアツアツのドリア食べられないからさ……べ、別にアンタに食べさせてもらいたいとかじゃないんだからね……」


(ちょっ、ツンデレ? 目尻下げて口突き出してきてるんだけど、どうする俺!)


 また場が乱れかねないので……ここは平等にいくとしようか。


「仕方ないなぁ」

「は、早く『フーフー』しなさいよ」

「分かったよ。ほら、アーン」

「アーン♪」

「美味しかった?」

「とびっきり美味しかっ……ま、まあまあだったわね。隼人も意外とやるじゃん」


 素直じゃないツンデレ女が誕生した。


 千里がこないだっからおかしくなってるのだけど、俺のせいなのか……しかも、ちょっとデレてくるのイメージ変わるからやめてくれぇ。


 キリがないので残りは自分たちで食してもらった。



 ————『見て欲しい編』【完】


 次回、『見ていいよ編』

 第21話

 スカートの中身を見ていいよ



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