第15話 観覧車の中で……見て欲しい
俺たちは遊園地に到着した。
比較的小さくて気軽に来れるタイプの遊園地で、小っちゃな子供を連れたお客さんや、若いカップルから人気の高い施設となっている。
小さいとは言ってもそれなりに遊べるアトラクションは揃っていて、メリーゴーランドやバイキング、空中ブランコ、コーヒーカップ、そして観覧車など、全部回るのが難しいぐらいには種類が豊富に存在する。
何処から回ればいいのかすごく迷っているけど、空いてそうなコーヒーカップから乗ってみよう。
カラフルで可愛らしいマグカップに二人で入り込む。
中央に置かれたハンドルを力強く握りしめて動かそうとしたけれど、玲奈が上から手を重ねてきたもんだから驚いた。
すべすべのお手ての肌触りを感じながらスタートの瞬間を待つ。
和やかなメロディーと共にコーヒーカップが動き始め、辺りの景色がゆっくりと流れていった。
「スピードアップ!」
隣同士で座り手を重ね合わせて、一緒にグルングルン回しまくった……結果、降りた時には二人で気持ち悪くなっていた。
「隼人くん勢い付けすぎだよー」
「なんか楽しくって、つい調子に乗っちゃった」
「うっぷ、気持ち悪いよー」
「仕方ない。俺が背中を摩ってあげよう」
俺は小刻みに素早く背中を摩ってあげた。
ブラジャーのベルトやらホックやらが当たってしまい大変申し訳ないのだが、不可抗力なので許してほしい。
「次は何乗りたい?」
「うーん、やっぱりアレじゃないかな」
「あのお馬さんね」
「二人乗りできるから一緒に乗ろ♪」
カップルにとっては定番の乗り物、メリーゴーランドである。
玲奈はメリーゴーランドの木馬を見るなり駆け足で走り寄り、置かれている木馬の上に跨り始める。
大きく脚を上げてから、ポールに捕まって跨る姿がエロく見えてしまって少し興奮気味だ。
二人乗りの大きな馬なので、ポールに捕まりつつ玲奈の肩に捕まらせてもらい、背後に乗った。
玲奈の体から発せられる体臭と香水のほのかな香りが漂い、髪からはフローラルの匂いが感じられ鼻腔をくすぐっている。
メリーゴーランドが動き出して景色が回り始めたが、体が密着している現状を実感し過ぎて、メリーゴーランドどころではない。
俺は後ろ姿をマジマジと見ているのだが、玲奈がピクピク震えている……どうしたのだろうか?
「触られるのってやっぱり気持ちいね」
「そ、そうなんだ」
「見られるのとはまた違った感じだよ」
「そりゃ直でお触りしてるから全く別物だよな」
「もっと……触ってもいいかもよ?」
「じゃあ遠慮なく……!」
俺は頭から湯気が出始めていた。
触ってもいいって言われたら、そりゃ触ってあげた方がいいのだろうけど……何処を触診すればいいのか悩ましい。
とはいえ、メリーゴーランドが動いている上に座った状態だから、触れる部位は限られているのだ。
悩んだ末に、掴んでいたポールから左手を離して玲奈の腰に手を回してみた。
「あんっ……」
「!!!」
この子なんか変な声出てる!
しかも、よくよく考えてみれば
そして視覚だけでなく聴覚も最大限に活用しながら腰回りに手を添える。
ちょっと肉付きがあって引き締まった体の感触が伝わってきて、服の上からでもくびれているのが分かる。
もはや抱きついているに等しいのだが、そんな夢のような時間はあっという間に過ぎ去ってしまい、気が付いたらメリーゴーランドは止まっていた。
早すぎて残念である。
その後も、園内の様々な遊具を乗り回して一通り楽しんだところで、ついに観覧車の時間がやってきた。
密室空間の中で、数分間を二人だけで過ごす特別な時間である。
係員の誘導によって、ゆったりと動く観覧車へと乗り込み、賑やかだった外の喧騒はドアを閉められてから一気に静まり返っている。
ユラユラと僅かに揺れながら上へ上へと進んでいき、徐々に夕暮れに染まりつつある景色が一望できる高さになっていった。
隣同士で座り、外の景色が流れるのを横目に、じっくりと玲奈の真紅の瞳を見つめ続ける。
玲奈は顔を赤らめて悦楽した表情を浮かべている様子だ。
だが俺の視線は、瞳から薄い皮で覆われた柔らかそうな唇に移動しつつあった。
なんで行動に移したんだろう。
この特殊な状況下に後押しされたのだろうか?
そして、観覧車が一番高い場所まで到達した瞬間……。
俺は真正面にいる玲奈の唇を奪ってしまった。
「んっ……んぅっ……」
時間の流れが止まった。
数秒間唇を重ね合わせる。
玲奈と一つに交わったような一体感。
玲奈は目を見開いて体が硬直している。
ゆっくりと体を離して改めて目を見てあげたら、瞳がウルウルしてて、ちょっと泣きそうになっていたけど……すぐに表情を緩めて話す。
「本当に隼人くんってせっかちなんだから……」
「勝手に体が動いてた」
「私のファーストキスを奪った罪は重いよ?」
「うっ……ごめん」
「罰として、もっと見てくれないとだからね」
(罰でも何でもないけどな)
ただの友達でもなくて恋人でもないこの関係性は、今の俺にとっては居心地が良いのかもしれない。
観覧車が地上に戻る数分間、お互い話すこともなく黙って静かに夕日を眺めていた。
いつの間にか観覧車は地上へと戻ってしまっている。
外に出ると現実に引き戻された感じで、玲奈の顔を見るのが少々気まずい。
その若干の気まずさを打ち消すように玲奈が口を開く。
「隼人くん、今日はありがとね。久しぶりに楽しい一日が過ごせたよ!」
「こちらこそ。また遊びに行けたらいいね」
「楽しみにしてる♪」
「予定分かったらまた連絡するよ」
「うん」
『——————また
「んっ、なんか言った?」
「何でもない♪」
こうして玲奈との初デートは終わった。
今日の出来事は一生忘れられない思い出となるだろう。
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