第16話 他の子と勉強中でも時々見て欲しい



 連休初日に玲奈と熱い口付けを交わした俺。


 別れ際、クールな男を装って『玲奈、今度は高級なフランス料理をご馳走してやるからな』とか一丁前なことを言って別れたあと、実は顔が緩み放題となり、はしゃぎ回っていたのだ。


 唇を離した瞬間にネットリと糸が一本垂れていたのを思い出し、ベッドをゴロゴロと転がって奇妙な奇声を発する俺、欲求不満である。


「思い出しただけでムラムラしてきた……」


 だがしかし、俺たちは未だ友達以上恋人未満の関係を続ける焦ったい間柄なのだ。


 今更『付き合ってください』とか、ちょっと恥ずかしいよな……いや、でも接吻を受け入れたってことは全然オッケーしてくれるんじゃ……。


 自身の欲求を満たしているに過ぎない気がしなくもないから難しい。


 いいんだ、今はこれで、順番なんて関係ない。


 その刻が来たら……しっかり伝えよう。


 結局お互い実家に帰省したりと忙しくなってしまい予定が合わず、学校に登校するまで会うことはなかった。


 悲しみに明け暮れたのも束の間、学校への登校日となる。



 ◆◇◆



 ゴールデンウィーク明け初日の登校。


 連休中に怠け過ぎたせいで朝七時に起きるのが辛いプラス、また勉学に勤しまなければいけないのがキツすぎる。


 よくある休み明けの気だるさMAXの状態だ。


 五月中旬には面倒な中間テストが始まってしまい、否応なしに勉強に励む必要もある。


 はっきり言って俺は勉強が苦手で頭が悪い。

 そして玲奈も俺ほどではないが勉強が苦手で頭が悪い。


 全てが完璧に見える玲奈でさえ勉強に関しては頭を悩ましている訳で、頭の悪い二人の席が並んでいるから余り学力が上昇していない。


 玲奈がパンツをチラチラ見せてくることも相まって集中力を欠いている……だが良いモチベーションになっているからドンドン見せて欲しい。


 玲奈は、見られたい>>>勉強、みたいな感じだから仕方ないが、そろそろ真面目に学習に取り組んでもいい頃合いなのも事実。


 雅也に関しては……まあ言うまでもないが、当たり前のように勉強は苦手でトップクラスの低学力なので聞くだけ無駄だ、下手したら俺が教える羽目になる。


 そんな訳でここ最近、右隣の席に座っている成績優秀な遠山とおやま千里ちさとに教えてもらっている。


 少し茶色に染められたミディアムヘアーで前髪をピンで止めており、少し身長が高めで、母親のようにしっかりしている綺麗系女子だ。


 テスト前までに勉強を叩き込んでもらって玲奈に教えてあげれば更なる好感度アップ間違いなし……だと思う。


 ということで昼休憩の時間に、食堂でおにぎり片手に千里から数学を教わっているのだが……何やら鋭い視線を感じている。


 玲奈は他の友達と昼食を取っている最中で、席はだいぶ離れているものの、監視されている感じで勉強に集中できないのだ。


 集中力散漫な俺に対して千里が苦言を呈する。


「ねぇっ、隼人ちゃんと聞いてんの? わざわざ時間作ってアタシが教えてあげてんのにボーッとし過ぎでしょ!」

「ああっ、悪い悪い」

「中間で赤点取ったらしばらく補習なんだから気合い入れなさいよ!」


 バシっと背中を叩いて平然とボディタッチをしてくる千里。


「悪かったって、ちゃんと聞いてるから!」

「ほんとでしょーねー」


 この仲睦まじいシーンをしっかりと見ていた玲奈は、フォークに刺さっていたウィンナーを落っことしながら眺めていた。


 自分の机にウィンナーが落ちていることに気付くと、再びウィンナーをフォークて刺して口に放り込む。


 さらにコロッケを掴みながらこちらを見るのだが……またボーッとしながら落っことしているもんだから集中できるわけがないのだ。


(私を見なさいってオーラがすごいし、なんか食べ物落っことして焦ってる……可愛すぎかよ!)


 千里とは高一の頃からの知り合いでそこそこ仲が良く、何度か買い物にも付き合わされた事がある程度には関わりがある。


 言ってしまえば玲奈よりもプライベートの絡みが多い女子生徒だ。


 毎回赤点ぎりぎりの俺を助けてくれたのは他でもない、千里である。


 だからと言って、別に千里に特別な感情は抱いていないし、ただの仲が良い女友達だと思ってるから玲奈が心配する必要はないのだ。

 

「はい、アタシが教えたやり方を駆使してこの問題を解いてみなさい!」

「余裕余裕、楽勝だってこんな問題」


 俺はスラスラとペンを走らせて因数分解を解いていくが……やべ、全然分からん。


「ペンが止まってるよ……隼人ってば、ぜんっぜん聞いてないじゃん!」

「これには深い事情があってだなー」

「問答無用! うりゃうりゃー」


 朝に時間をかけてセットしてきた髪をぐしゃぐしゃにされてしまった。


 髪をいじられる俺を見ていた玲奈は、実は親密な関係だったんじゃないか……と勘違いをしたのだろう、備え付けのソースをコロッケにかけず、味噌汁にドボドボと入れている。


 完全に横を向いて気付いていない。


 見かねた友人が心配そうに声をかけてはいるが、次々と奇行に走る玲奈に四苦八苦している様子。


 仕方ない、玲奈に手を振って合図してやろう。


(たまに見てるよ〜)


 俺の行動に安心した玲奈は、自分の味噌汁が大変な事態になっていることに気付き、食堂のおばさんに謝りに行き片付けてもらっていた。


「ほら、もう一回教えるからちゃんと覚えてよ」

「千里先生ありがとう」

「もう、ほんと調子いいんだから」


 勉強に付き合ってくれる千里には感謝してるし、一年生の時から何かと世話になってるから今度お礼しないとな。


 中間テストまで時間は限られている。


 玲奈のためにもあと少しの期間しっかりと勉強しておかなければ。

 










(やっぱり玲奈のことが好きなのかな……ダメ、まだ諦めちゃダメだよアタシ。言ってみないと分かんないじゃん、『好き』って……)



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