第14話 電車の中でも見て欲しい



 玲奈の生暖かい吐息が耳に入り込む。


(近いね)

(電車混みすぎで動けないよな)

(そだね。じゃあ……)

(ん?)

(今日は谷間を見せてあげられないから……この膨らみから中身……想像しててもいいよ)

(は、はぃぃ! そ、想像させて頂きます!)


 実際に生で見ちゃっているのだから、その程度は朝飯前なのだ。

 

 過去に見物した玲奈のおっぱいの形と照らし合わせ、脳内で変換していく作業を繰り返す。


 そして、この人目の多い状況を楽しんで興奮している玲奈…………変態である。


 まあ一応褒めてあげようか。


(服の上からでもすごい大っきいね)

(嬉しいけど……隼人くん、緊張してるのかな)

(べ、別にこんな近いからって全然緊張なんかしてないぞ!)

(すごく心臓ドキドキしてるよ)


 やはり純潔を貫く俺にはまだまだ刺激が強いらしく、思いのほか心音が聞こえてしまっていたようだ。


 とまあ、そのくらい電車内は混んでいて、体を近付けながら人が降りていくのを待っているわけだ。


(後ろのおじさん怖いかも)

(ガタイの良いオッサンいるな)

(私の三倍くらいありそう)

(じゃあ俺が守ってやる!)


 現状としてあまり自由に動くことはできない。


 右手をドアの窓ガラスに押し当て、電車の揺れに対応するために自分の体を支えているのだが、左手はフリーの状態である。


 指先がピクピク震えてしまうのを堪えつつ、俺はさり気なく玲奈の背中に手を回して、肩の上に左手をポンっと置いてみた。


 後ろ髪を巻き込みながら肩を掴んで、オッサンから玲奈を守る。

 

 実質、抱き寄せている状態に近いので、頭頂部を覗き込む姿勢へと変わっていった。


 肩に触れられた瞬間、玲奈の体がビクっと可愛らしい反応を示している。


(わわっ)

(太ったおっさんいるから、カバーしてみた)

(ありがと。隼人くんって、見た目よりもたくましい腕してるよね)

(昔鍛えてたから筋肉は結構あるよ)

(ムキムキって感じかな?)

(そこまでマッチョじゃないぞ)


 筋肉を軽く褒められて嬉しい……いや、俺が喜んでどうする。


 今日は玲奈を喜ばせてあげて、記憶に残るような甘いデートを実現しなければ。


 そして徐々に人が降りていき、ようやくある程度のスペースが確保されたので、俺は静かに肩から手を離す。


 お互いがフーっと息を吐いて、人混みから解放されたことに安堵していた。


「私たち電車慣れしてないからキツかったね」

「十分くらい同じ体勢だったから、さすがにシンドイよな」

「隼人くん腕に力が入り過ぎてて、ちょっと苦しかったけど……おじさんから守ってくれたから許してあげる!」

「ごめん、マジで気付いてなかった……」


 必死になるあまり、力の加減を誤っていたか……女子慣れしてないことがバレてしまいそうだ。


 そして残り二駅に差し掛かかったあたりで、座席が一つだけ空き、玲奈に席を譲ってあげた。


 玲奈を見下ろす形で手すりを掴み待機する。


 向かいの席ではイチャイチャする若いカップルがいて、愛し合っている様子が伺える。


 俺は羨ましくなっていたのだが、玲奈もそれを感じていたみたいで、『耳を貸して』と手招きして囁き始めた。


(撫でて)

(頭を撫でて欲しいのか?)

(うん。なんか悔しいから……)

(どうしよっかなー)

(ダメかな……?)

(だって他の人も見てるしー)

(どうしてもダメ……?)

(玲奈って子供みたいだな)

(……違うもん……隼人くんのイジワル)


 デレてる顔を見続けたいけど、あんまりイジると可哀想だから、優しく頭をポンポンって撫でてあげた。


 フワッとした髪の毛が静電気で何本かアホ毛みたいになっているが、気にせず繰り返し撫でる。


(見られるのと同じくらい気持ちぃかも……)

(ゴクリっ……)


 隣のおばさんが不快な表情を浮かべてくるも、そんな瑣末なことは一切気にせずにひたすら撫でまくっていたら……不覚にも興奮してきてしまった。


 女子は髪を触られるのを基本的に嫌がるので、本当に気を許した相手じゃないと触らせないのだ……知らんけど。


 俺は撫で撫でを繰り返しているが、玲奈がお人形さんみたいにジッとしていて動かない……もしや気持ちいと言いつつ照れちゃってるのかな。


 やっぱり触られるのには慣れていないと見た。


 すると、玲奈の下げていた目線がパッと上に向けられて俺と目が合ってしまい……目を丸くしながら、ボソっと囁く。


(凄く大っきくなってる)

(大きいって何が?)

(言えないよ……)

(ん?)

(ほら……見てよこれ・・

(あっ!!??)


 玲奈は照れていて下を向いていた訳ではなく、俺の股間が伸びていく様子を眺めていた。


 スラっとしたクールな印象のスキニーパンツを着用してたから、いつもよりモッコリしてしまうとは……女子の頭を触って勃起する俺とか恥ずかし過ぎるだろ。


 そう、玲奈は不思議そうに成長していく芋虫を見守ってくれていたのだ。


(もぉ、隼人くんってほんとに敏感なんだね)

(申し訳ございませんでした!)


 隣のおばさんにまで白い目で見られ、玲奈から辱めを受けている間に電車は目的地へと到着していた。


 運良く今日はお天気日和で太陽が燦々と照りつけている。


 風も適度に吹いていて心地良い、まさにデートを執り行うには打って付けの気候である。


 駅の改札を抜けて前方を見上げると高い観覧車が遠くに見えた。


「近くで見ると高いね!」

「うわぁ、俺ちょっと怖いかも……」

「私が付いてるから平気平気!」

「頼りにしてるよー」


 俺たちは仲良く雑談をしながら遊園地へと歩みを進めた。



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