第4話 バイト先でも見られたい



 一時限目の授業は、最低だけど最高な五十分間で濃密な時間を過ごせた。


 授業が終わったらそそくさと女友達の所に行ってしまったが、やっぱり若干照れているのだろうか?


 霧島さんの心情を完全には理解できていないが、恋人という関係に近い何かが芽生え始めているのではないかと内心ドキドキしている。


 霧島さんは決して人見知りとか男嫌いではなく、前の座席の生徒含めた四人で話したりもしているため、誰とでも気軽に会話が可能な女の子である。


 だけど、霧島さんは他の人に自分の性癖を一切話してないみたいで、俺にかなりの信頼を寄せているのは間違いない。


 一時限目が終了してからというもの、多少の見られたい衝動に駆られてはいたが、最低限度に抑えられてはいた。


 そして気付けばもう放課後直前。


 今日の帰りのHRは数分で終わりそうだ。


(フッー)


 耳に突然生暖かい空気を感じた。


 最早定番となりつつある合図である。


(どうした?)

(隼人君バイトどこでやってるの?)

(学校の近くにあるどんぶり系の吉野原屋だよ)

(今日お邪魔しちゃおっかな)

(いいけど、あんま女子高生が来るような場所じゃないと思う)

(私牛丼好きだから行っちゃう♪)


 ヒソヒソ声で話してくれた訳なんだが、つまりは今日バイト先で何か一波乱あるんじゃないかと容易に想像ができる。


 公衆の面前で大事を起こすとは思えないが、一応身構えて仕事に当たろう。


 玲奈はHRが終わると同時に、仲の良い友達と帰宅していった。


 さて、俺も早いとこ帰って心の準備をしよう。



 ◆◇◆



 自宅アパートから比較的近場にあるどんぶり系のチェーン店、吉野原屋に出勤した。


 駅の近くの立地からお客さんの来店は多めで、特に会社勤めのサラリーマンや、近くの工事現場の作業員の割合が高い。


 学校が近いって理由で同高の生徒もたまにくるけど、JKが飯を食いに入店することはほとんどない。


 何なら近くにあるファミレスの方が若者に人気があって評判もいいのだ。


 出勤時は従業員専用の入り口から店内に入り、タイムカードを切ってから着替えを開始する。


 小さめの男性用更衣室でエプロンと三角巾を頭に巻きつけて出勤時間を待っていた。


 バイトリーダーの先輩と入れ替わりで店内へと足を運び、霧島さんを待つことにしよう……ってもういるんですけど?!


 後ろ姿で瞬間的に分かった。


 券売機を物珍しそうに眺めて悩んでいる、明らかに場違いな制服姿の女子がそこにはいた。


 遠目で見てもオーラが半端じゃないし、同年代のバイト仲間も目を鱗にして眺めている。


『あの子メッチャ可愛いじゃん』

「俺の隣の席の女子だよ」

『えっ、マジ?!』

「結構仲良いよ」

『俺に紹介してくれよー』

「それは絶対無理だ」


 霧島さんが、実は承認欲求モンスターで、見せびらかし女子だとは口が裂けても言えない。


 食器を片付けながら霧島さんの動きを観察する。


 どうやら厨房に立つ俺に気付いたようだ。


 前の空いてるカウンター席に腰を掛けて、俺に軽く手を振っている。


 幼い子供の様な無邪気な笑顔を見せる霧島さんの座席へ向かい、食券を切ってあげた。


「本当にここで働いてたんだね」

「まあな。一年生の四月から働いてるから、そこそこベテランなんだぞ」

「カッコいいじゃん!」

「褒めても安くはなんないからな」


 食券を受け取って厨房へと戻っていく。


 それにしても牛丼特盛、卵二つって……結構なボリュームがあるけど大丈夫なのだろうか。


 霧島さんはダイエットとかする必要ないくらいにスタイルが良いし、太ももとか直で見て少し筋肉質なのも知っているから、余計なお世話だったな。


 自動の飯盛機に特盛サイズのどんぶりを乗っけて、大量のご飯を盛り付け、牛丼屋特有の安く仕入れた肉を盛り付けて完成。


 調理時間約二十秒。


「お待たせしました……!?」


 この短い時間で霧島さんに変化が生じており、開放感が増しているのは気のせいだろうか。


 ブレザーを脱いで椅子の背もたれに引っ掛けており、ワイシャツのボタンが何個か外されている状態だ。


 チラッと見え隠れする胸の谷間を強調するかのように、俺を下からしたり顔・・・・で見上げてくる。


 お盆に乗っかったどんぶりが小刻みに震えているが、気持ちを落ち着かせて自分の手を抑えつつ、目の前に置いてあげると……。


 霧島さんが自身の谷間を指差しながら、耳元でボソッと囁いた。


(見て見て。私の胸の形どうかな)

(すごく良い形してると思う)

(嬉しいな。だけど、頼んだ卵二つ忘れちゃってるよ)

(あっ、そうだった)


 頭が混乱していたせいか、不覚にも卵のトッピングを忘れてしまっていた。


 ベテラン飲食店アルバイターの俺でさえ、目の前の超絶美少女の魔力には敵わない。


 厨房に戻って小型の冷蔵庫から生卵を二つ取り出し、改めて持っていってあげた。


 しかし霧島さんは卵をかけようとはしない。


 肉のたっぷりと入ったどんぶりを両手で支えながら、何かを求めるようにこちらを見つめてくる。


 卵を割って、といて、ぶっかけて欲しいのかな。


 俺を少しでも長くトドメさせたい……いや、長く見られたいがために、卵を入れて差しあげるといったセルフサービスを強要されているのだ。


 当然そんな特別サービスは存在しない。


 両手に添えられたどんぶりがデカいとはいえ、人間の肩幅と比較すると短いもんだから、必然的におっぱいを寄せている状態となっている。


 俺は卵の片手割が得意だから、二個の卵を両手で捌いてお椀に投入した。


 箸でかき混ぜて牛丼にドロっとかけるが、どんぶりの向こう側には、くっきりと割れた深い谷間が見えている。


 俺は、といた卵をかける十秒間をしっかりと堪能していた。



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