第2話 誰もいない教室で見られたい



 HRが終わり下校の時刻となった。


 友人は電車やバスで通っている人が多いため、基本的には一人で下校することが多い。


 クラスで仲良くなった生徒と、隣の席の霧島さんにもしっかりと挨拶をしつつ教室を出た。


 帰ったらすぐにバイトの準備をしなきゃいけないので、余裕を持って帰る必要がある。


 三階から階段を駆け降りて下駄箱まで向かうも、ポケットにスマホがないことに気付いた。


 HR中に担任教師の話が長ったらしくて暇を持て余した俺は、スマホでゲームをやってたんだっけ。


 一番後ろの席だから寝やすいし、ゲームをやってても意外とバレないから居心地は最高だ。


 隣には最強の美少女もいて一石二鳥である。


 恐らくそのまま机に置きっぱなしにして、忘れてきてしまったんだと予想できた。


 下駄箱まで来ていたので面倒だと思いつつも、急いで三階の教室へと方向転換した。


 少々慌てていたこともあり、すれ違う人とぶつかりそうになっていたが、ゲーム感覚でかわしながら教室前へと辿り着く。


 教室内からは人の気配を感じない。


 もうみんな帰った感じかな。


 俺はスマホが盗難に遭っていないことを祈りつつドアを開けた。


「うわっ!?」

「痛っ……」


 教室の中から出てきた女子生徒と思い切りぶつかってしまった。


 俺は身長が百七十後半はあるので微動だにしなかったが、女子生徒は少し跳ね返ってしまう。


「き、霧島さん?!」

「……」

「ゴメン、ちょっと急いでて」

「うん、大丈夫……!」


 そこそこの反動で跳ね返されてしまった霧島さんは、両手を床に付けてお尻を付いてしまっていた。


 怪我をしていないか心配ではあったが、そこまで痛そうな感じではなく一安心である。


 だが、こういう時こそ気使いが出来なければ男が廃る。


「手貸そうか?」

「大丈夫だよ」


 大丈夫と言っている割には一向に動けない様子で……。


 俺は一切気にしないように振る舞っていた。

 

 不可抗力とはいえ、見てはいけないと思い、視覚に入り込んだ白い何かを脳内から消し去ろうと努力していた。


 自分のせいで転んでしまった女子の下着を見て興奮するなど、あってはならない。


 だが霧島さんは動かない。


 自力で立てるはずなのに何故か動かない。


 その場に居座っているからこそ、白いパンツが問答無用で視界に写り込んでしまう。


 それどころか、霧島さんは隠そうとする素振りを見せない上に、ジリジリと脚を広げ始めている。


 恥じらいの気持ちが一切感じられないし、まるで見てくれと言わんばかりの表情を俺に向けてくるのだ。


 女の子特有のデレ顔で誘惑するかの如く、目尻を下げ、鼻の下を長くして俺を見つめてくる。


 短めに折られたスカートの中身が思いっ切り露出している状態で、俺の目はその一点に釘付けになってしまった。


 まずいぞ。


 興奮が隠しきれない。


 既に制服のズボンが膨らみを見せ始め、明らかにバレるくらいに下腹部が肥大化している。


「隼人君も……パンツ好きなんだね」

「ご、ごめん。全然見るつもりなかったんだ」

「いいよ」

「えっ?!」

「今は誰もいないから、もっと見てもいいんだよ」


 学校は放課後を迎えて皆が帰路に着いている中、二年C組の教室でパンツを見せる女子と、パンツを眺める俺。


 側から見れば頭のおかしな二人組に見えるだろう。


 沈黙する教室。


 既にこの状態が五分間は続いている。


 もっと見ても良いと甘い声で言われれば、百人中九十九人の男子は目を離せなくなり固まるはずだ。


 霧島さんが誰とも付き合わない理由が分かった気がする。


 この異常な承認欲求によって、自分から男を遠ざけていたのだろうと確信した。


 学校内にも関わらず見境がないところを見るに、一度暴走したら中々止めるのが難しそうだ。


 むしろしっかりと見て上げるのが俺の仕事ではないかと洗脳される程に、彼女の見られたい・・・・・病は重症である。


「隼人君はしっかり見てくれて、ちゃんと反応してくれるから……嬉しいな」

「うん……役に立てたみたいで良かったよ」


 俺は目覚めさせてしまった。


 霧島さんの内に眠る壮大な闇を。


『コツコツ』


 廊下を歩いてくる足音が聞こえてくる。


 その足音と同時に霧島さんは何事もなかったかの様にスッと立ち上がり和かに笑った。


「今日はありがとね♪」

「こちらこそ……!」


 霧島さんに取っては見られるのが最大の喜びであり、世にも珍しい特殊な性癖なのだと改めて理解した。


 霧島さんは自分のスクバを拾い上げてさっさと帰ってしまった。


 決して不快な気持ちにはなっていないし、むしろ俺にとっても最高の数分間だったと断言できる。


『神谷君、帰宅部でしょ。いつまでも学校に残ってないで帰りなさい』


 机の上に無造作に置かれたスマホをポケットに仕舞う。


 先生に帰宅を促され、余りにも実感が沸かない小説展開染みた現実を噛み締め、帰路に着いた。


 いつもと変わらない道、否、全くいつもと違った心情で帰り道をトボトボ歩く。


 明日からどうなっちゃうんだろう。


 しかも隣の席なもんだから、やたらと気不味いし、何て声掛ければいいか分からない。


 バイトを控えた俺は急足で自宅アパートへと戻った。



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